天使失格

霜花 桔梗

第1話 羽根が折れている天使

 わたしは街の小道を車椅子で進んでいる。しかし、足が不自由ではない。

秘密はまだある。そう、わたしは天上界の天使である。更に、残念な事にわたしの天使の白い羽根は十二歳の時に折れていて飛べないくなった。


 しかし、わたし達、天使は一六歳になると地上に降りて修行を行うのが習わしである。


 目標は生き抜くだけでいいのであった。しかし、飛べないわたしは公園で独り、ブルブルと震えていた。そこに通りがかった美和姉妹に拾われたのだ。


 姉の『美和 辻美』は社会人で、妹の『美和 時美』は大学生であり。わたしは『天野 真紀』と名乗った。


 その後は完全な居候生活になる。そして今日から高校に通う事になる。それは姉の辻美さんが出した居候の条件として高校に通うことであった。


 あードキドキする。


 わたしが美和家の玄関でもじもじしていると車椅子が目に止まる。美和姉妹の祖母が使っていたモノらしい。


 これだ!


 人間界の勉強で何に使うかは知っていた。わたしは車椅子に座るとゆっくりと進み始める。白い羽根の折れたわたしにピッタリなモノであった。


 それから毎日、車椅子で高校まで通う事にした。一キロぐらいの道のりなので何とか通えた。


 校内では驚く人、遠巻きでヒソヒソの人、反応は色々だ。羽根の折れた天使失格のわたしには丁度いいと思えた。


 それから、校内を一回りするとわたしは不思議な気分になる。わたし達、天使は生まれた時から羽根があり、十歳程で空を飛べるようになる。そして、十六歳で人間界に修行に出る。


 わたしは十二歳の時に強風により空から墜落して羽根が折れてしまった。普通なら治るのだがわたしの羽根は折れたままだ。


 きっと、天使失格なのであろう。


 この不思議な気分の出所は天使失格でなお人間界に修行に出ていることだ。

わたしは足が不自由でないのに車椅子に乗っている。それは折れた羽根とは複雑な関係があり、外に出る時は車椅子に乗る事にした。


 そして、目的地の職員室に向かい、担任の先生を探す。担任は国語担当の品の良いおばちゃんだ。


「車椅子でこの高校に通うのかい?」

「はい」

「大変だね。でも、学力でのオマケは無しだよ」


 二年生のクラスに案内されて教室に入ると目線を感じる。基本的に天使の羽根は人間には見えないので。やはり、折れた羽根ではなく、車椅子姿の方が人と違い目立つらしい。


「あいたたた……」


 うん?一番前の席のカッコイイ男子がお腹を抱え始める。


「先生、急な腹痛です。保健室に行って良いですか?」

「は、はい」


 担任の先生はその勢いで簡単に許可をしてしまう。


「ついでに、転校生に保健室の場所教えますね」


 そう言うと、立ち上がり、わたしの車椅子を押し始める。


 え?ぇ?ぇ?


 わたしが驚いていると二人で教室から出るのであった。


「クラスの連中は悪い奴らではないが君が珍しいらしい」


 元気よく廊下を走るカッコイイ男子は仮病であったようだ。


「俺は『南崎 信也』君の王子様だ」


 自然な笑顔で自己紹介をすると、わたしを連れて屋上に行くのであった。そこは鉄格子の様なフェンスに囲まれた屋上である。


 わたしは屋上で風を感じていた。羽が折れる前の空と一つになる感触であった。


「わたしは『天野 真紀』です『天野』って呼んで」

「了解したよ、お姫様」


 鼻がムズムズしそうなセリフだが南崎くんの言葉は自然と受け入れられるのが不思議であり。


 わたしは特別な感情が芽生えていた。


 胸が苦しい……。


 これが恋心だと気づくのに時間はかからなかった。


 しばらくして、教室に戻るとホームルームが終わり一限の授業が始まる前であった。


 南崎くんの隣に車椅子に合った机が用意されていた。


 この車椅子姿は少し罪深さを感じさせるモノであった。

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