第21話 本当に

「あ………。」


 あ、じゃないが?とっとと去ってくれないか?気まずいのは僕たちなんだが?


「わ、悪い!邪魔した!!」


 そう言い、ノブさんは慌ててドアを閉めた。それでもなぁ………そうじゃないんだよな。


「なんか………冷めちゃったな。」


「そうだね。」


 本当にもうどうしてくれるんだか。いや、朝っぱらからこんなことする僕たちの方もどうかしてるんだけどさ。それでもノックくらいしてくれたっていいじゃないか?おかげでこんなことになってるんだから。


「まぁ、やるにしたって夜にしよう?本番の話じゃないけどな。」


「やっぱり本番はまだ駄目なの?」


「まだ駄目だ。これについては前も言ったろう?お預けだ。」


「むー………まぁ、わかった。そこまで言うんならしょうがない。」


 わかってくれて何よりだ。本当にもう、色々と苦労することになるんだから…ささ。とはいえ、僕がツッコミを放棄すると収集がつかなくなるからな。


「わかてくれてありがとう。でも僕だって信乃のこと思ってるからこんなこと言うんだぞ?」


「それはちゃんとわかってるよ。でもさ………欲望ってそんなにかんたんに抑えれるようなものでもないでしょう?だからさ………定期的に発散しないとなって。」


 それもそうなのかもしれない。でも、僕たちはまだあまりにも若すぎる。将来を背負うには早すぎるってわけだ。


「シノの気持ちもわからんでもないけどさ………。」


 そうだ、怖い。これが普通なのか珍しいのか………わからないが僕個人としては怖いという感情が一番強い。まあ、ヘタレと言われても仕方ないわな。それが僕なんだもの。


「まぁ、ゆっくりでいいよね。」


 そう言って、シノは僕の事を抱きしめる。この距離感にも、それなりになれてきた頃だ。それでもドキドキはする。それが聞こえるんじゃないかってくらい大きな鼓動で早いもんだから、余計に心臓は跳ねる。


「ハルも、ドキドキしてるんだね。」


 バレてるやん。それっぽいこと言ったのにバレてるやん………。


「そりゃあ………しょうがないだろう?こんな近くに好きな人がいたら、そりゃこんなことになるよ。」


「まぁ、私もなんだけどさ。」


 うーん………気まずい。対面した状態で、座って2人で抱き合って………何をするでもなく見つめ合って。それでも幸せと感じているのはどうしてだろう?そんなことどうだっていいんじゃないかとまで思えてくる。ただ。それれだけでいいのかもしれない。この時間が本当に………僕にとって安心できる時間である。


「何ていうか、恥ずかしいような落ち着くようなって感じだな。」


「私もそんな感じ。不思議だよね。」


「もうしばらくこうしててもいい?」


「珍しいね、ハルの方が甘えてくるなんてね。」


「たまにはこういうのだっていいだろう?僕だって………その………シノのことが好きなんだから。」


 今までどれだけ言ってきたセリフだろう?それでも緊張してしまう。おかしな話だ。それでいて、当然の話でもある。こんなの、数年そこらで慣れるような感覚じゃない。僕はそれを実感している。


「まぁ、いいよ。私だって、ハルのこと好きだし。」


 はぁ、何なんだろうなこのバカップルは本当に。どれだけイチャつけば気が済むんだろうな。まぁ、僕が言えることとしたら、当分の間はこんな調子だ。じゃあ当分経ったら収まるのかと聞かれればそんなこともない。それが当然の感覚になるだけだと思う。本当、どうしようもない奴らだな。


「………暖かいな。」


「えへへ、そうでしょう?他に感想は?」


「他って言われましても………。」


 他って言われるともう、この感想しかなくなってくる。


「柔らかいです………。」


 何とは言わない。いや、僕は言えない。


「正直でよろしい。もっと堪能してもいいんだよ?ハルだけの特等席なんだから。」


 このまま包まれてもいいんじゃないかな、なんてそんなことまで思っている。そのくらいここは心地よくて………暖かくて。幸せであった。この場面だけ見れば決してこのシノがヤンデレということには気がつくことはできないだろう。

 本当に………お互い変われたよ。いい意味でな。このままきっと………幸せが続くんだろうな。なんて………そう思ってしまう、そんな時間だった。

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