第15話 溶けそう

 さて、困った。完全にもう駄目です。最早ギリギリ濡れ場です。


「えっと………信乃ちゃ―――――。」


 彩花がそこまで言った時、シノはゆっくりと僕をゆっくりと胸元に埋めるように抱き上げた。何を言っているかわからんかもしれんが事実だ。僕にだって何が起こっているかわからない。自分で言っててもいまいち理解はできていない状況にある。


「し、失礼しました………。」


 彩花のその声が聞こえたのが最後だった。緊張は解けた。ついでに僕も溶けそうだ。この僕の眼前にあるコレをなんと表現するのが正解かはわからないが………柔らかいとだけ言っておく。


「ハル、彩花ちゃん行ったよ?」


「むごご。」


 あの、まだ抱きしめられたままなんですけど?と、言うかそうじゃない。違うって。完全にお取り込み中って思われてんじゃん。


「あ、ごめん。」


 そうして、僕は開放される。いや………良かった。


「はぁ………どうすんの?完全に勘違いされたよ?なんであんなことしたのさ?」


「あながち間違いではないでしょ?だからいいかなって。」


「あながちな。ただ、あれは駄目だって。流石にマズイって。」


「でも、ハルも結構すんなり横になってくれてたじゃん?あれはなんで?本当はしたかったりするんじゃない?」


「あ、あれは………やめなさいよ、そうやってからかうのは。」


 僕だって健全な男子である。そんなこと言われたら本気にしてしまうに決まっている。だからこうして予防線を張っているわけだが、それと同時にそこまで冗談でもないと言うのはわかっていることだ。正直、かなり神経使う。


「うーん。どうしようかな?ま、この辺にしといてあげるよ。さてと、彩花ちゃん。なんでここに来たのかな?」


「多分だけど、ご飯だと思う。そろそろ時間だし。でもなぁ、あの後だと凄い気まずい………。」


「時間が経てば事を済ましたって思われるかもよ?」


「………行こうか。」


 はぁ………足が重いよ。ここまで気が進まないこともなかなか無いだろう。まぁ行くけどさ………本当、なんでこんなことになったんだか………。


「「はや!?」」


 リビングにつくなり聞こえてきたのはそんな2人の声だった。本当お前たち親子だなとつくづく思う。


「何もして無いからね?」


 怒気混じりにそんな声が出る。相変わらず母さんはわかったような様子だ。

 そうして、久々にここまで楽しんだことはないだろうと言う夕ご飯の時間は過ぎ去る。まぁなに、昔の楽しかった思い出など、今じゃ笑い話なことを話し合い………本当楽しかった。


「じゃあ私はそろそろ。」


「それじゃ、僕は送ろうかな。」


「いいの?」


「うん。」


 と言う訳で、僕はシノを家まで送っている。まぁ………なんとも刺激的であった。シノのあの時の香りはまだ残っている。体温までしっかりと刻み込まれている。

 僕でなくなりそうで怖くはあるがぐっとこらえ、シノと腕を組む。いや………本当なら抱きしめたい。ただ、流石に理性が働く。こんなところで、それも急になんて恐怖でしかないだろう?それに、腕にはしっかりと体温を感じることはできている。それだけで我慢できるだろう。

 いや、できるのだろうか?どんどんと、シノを求めたくなっているのがわかる。あの時、有耶無耶にしたあの高鳴りがもう1度僕を襲おうとしている。いいのか?僕はこのまま飲み込まれて?


「ハル、今日は本当にありがとうね?」


「付き合ってるんだから当然だろう?」


 なんと言うか、初めてのまともに付き合ってると口に出した気がする。ここまで………高鳴るものだったか。それとも冷めやらぬ興奮のせいか。僕も大概だな。


「あ、あの時はごめんね?急に抱きしめたりして。自分でもよくわかんなかったんだけど、2人きりになるならああするかなと思って。」


「まぁ、2人きりにはなれたな。」


「でもさ………あの時、本当は続きしても良かったんだよ?」


 あぁ、抑えらんないからやめてくれ。こんな所で爆発したくない。


「そう言うのは………まだ大人になってからな?」


「はーい。」


「うん、素直でよろしい。」


 そうだ、きっとまだ僕達には早いだろう?僕だって………それこそまだ未熟なんだから。誰かの二の舞にはなりたくない。

 だから、まだなんだ。

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