第14話 感覚麻痺るわ

「ね………腕、組んでくれないの?」


「あ、ごめん。」


 買い物をした後だと、不意に忘れてしまうことがあるな。気をつけなきゃ。

 さて、僕達はなんだかんだあって、あのあとデートすることになった。初めてのことだが、調子はいつもの感じとさほど変わりない。


「もう、忘れないでよ?」


「あぁ、もう大丈夫だよ。忘れないから。」


 そう言って、僕はシノに腕を差し出す。あぁ………そうこの感覚。すぐ隣に大切な人がいるって自覚できるこの距離感………本当に好き。それしか言えないな。


「もう、離さないって言ってたのに。」


 まぁ、ヤンデレなことには変わりないか………。


「離れてても、帰るところはシノの所しかないんだから。」


「でも………うん………。」


 自制もある程度はできるようなのでいいが、また暴走するかもしれないことには変わりなさそうである。まぁ、前も言ったように現在そこまで考えていない。完全にそのあたりは成り行きだ。


「大丈夫………あの日………約束したろ?」


「………うん。」


 あぁ、あのときの話は持ち出してくるもんじゃない。本当、心が痛い………ていうか普通に痛い。恥ずかしいとかじゃねぇもん。もう、辛いの領域だもんな。ていうかシノの顔も赤いし。僕も顔熱いし。これがあれか、共感性羞恥ってやつか。


「………はい、あのときの話は辞め。誰も得しない。」


「うん。次は、約束じゃなくて普通にキスしてよ?」


「あぁ………わかった。」


 あんまこういう話、道の真ん中で堂々とするもんじゃないけどね。


「今日でもいいんだよ?」


「心の準備がまだなんだよ。」


「心の準備いる?」


「僕はいるタイプの人間なんだよ。」


「そうなんだね。私は今でもいいよ?」


「僕が無理なんだよな…………だって、なんていうか恥ずかしいっていうかさ。」


「私は当然のことだと思っているけど?」


 あぁ、まあ好きなら………いやいや、感覚麻痺るわ。駄目だ駄目だ。危うく、シノのペースに飲まれるところだった。


「そんなに当然じゃないんだよな………。」


「まぁ、あれだよ?半分冗談だよ?流石に場所は選ぶよ。」


 逆にもう半分は本気なことに少し驚きを隠せない。


「それなら、まぁ良いんだけど。」


「どうする?本当に今日うちでしちゃう?」


「やめなさいよ、そういうこと言うのは。絶対それ以降まで発展しちゃうやつじゃん。」


「あ、バレた?」


 本当にその気だとは一切思わなかったが………まぁ、1つ回避と言えよう。


「まぁ、本気とは思わなかったけどな。だから、こう言うのはこの時間帯に堂々とするもんじゃありません。ちゃんと時と場所を選びなさい?」


「振ったのハルじゃん。」


 よく考えると流れ的にそんな気もしている………。


「ごめん。」


 聞き分けはいいほうなのでとりあえず謝っておいた。


「まぁいいよ。それより次はどうする?」


「次って言ってもな………もう結構いい時間だぞ?」


「………でも離れたくないな。」


 じゃあ、ダメ元で1つ聞いてみるか?


「家来るか?」


「いいの?」


  案外というわけでもないが、食いつきは良かった。まぁ、シノだし大丈夫だろう。


「まぁ、お願いしてみるけど。シノだし多分大丈夫でしょう。」


―――――――――――――――

―――――――――

―――――


 と、言うわけでシノは僕の家に来ている。まぁ、夜ご飯は食べていく予定だ。


「どうする?何なら泊まるとかか?」


「そうしたいけどね、明日学校じゃん?正式なお泊まりはまた今度かな。てなると久々だね。」


「そうだな。何年か越しくらいだろう?」


「どうする、お泊まりのときお風呂とか入っちゃう?」


「………やめとこ?」


「冗談だよ。半分は。」


 あぁ、もう。この悪戯な笑顔になら飲まれたっていいような気がする。僕の理性だって限界はあるんだぞ?全く………可愛いから許す。


「僕にだって理性の限界はあるんだぞ?」


「………でもなぁ、ハルならいいのも事実だよ?」


 なぜだろうか?ジリジリと距離を詰められている感じがする。え?シノ?時と場合は選んでくれよ?


「シノ?」


「ハル………私のほうが限界かも。」


 肩に手を置かれそのまま馬乗りになるシノ。あれ?こんなにすんなり行くもんか?それとも何か?僕が期待しているとでも言うのか?いや、してるんじゃないだろうか?この先を………知りたいような、怖いような。


「シノ………。」


 と、その時。僕の部屋のドアが開いた。さて、まだネクタイに手をかける前で良かったが、彩花。場合によっちゃR18といっただろ?思春期の男子の部屋というのはこういうことも起きるものなんだ。

 こんな時が止まることになるんだから。

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