第8話 好きだけど
「本当に………ごめんなさい………。」
涙とともに包丁が落ちた。取り敢えず、なんとか落ち着いたという感じだな。
「大丈夫。大丈夫だから。」
僕はそれだけしか言うことができなかった。あぁ、本当どうしようか?取り敢えず、もう少しだけこのままいるしかないな。ごめんなさい、ごめんなさいと涙ぐみながら言うシノをただ、抱きしめることしか。正解かなんてわからない。
どれ程経っただろうか?僕もあまり覚えていない。シノは体重をすべて僕に預け、眠っている。本当に………怖かった。それでもシノのことが好きというのは変わらない。僕は何かバグってしまったのだろうか?
「狂ってんのは………誰なんだろうな。」
………ともかく、シノをベッドまで移動させよう。このままって言うのは流石にキツい。
目を覚ますまでは、ここにいようか。僕もなかなか変なことをしているって言うのはわかっているんだ。それでも、孤独なシノはもう嫌だから。僕だって、シノと離れたくないから。あぁ、恋は盲目と言うやつだ。
「大概僕も可笑しいらしいな………ハハ、何言ってんだろう。」
僕たち以外、誰もいない。そんな空間。環境音が響くだけの寂しい部屋。寝息が聞こえる、虚しい時間。まぁ、いいんだよ。これで………1つ事が済んだんだ。このくらいの静けさ位でいいんだよ。
「まぁ、ヤンデレがここまでとは思わなかったけど………。」
流石に警戒すべきだったのかもしれない。ただそれよりも、もっと早い段階で気がついていれば良かった………後悔先に立たずとはこういう事なのだ。
「もっと早く言ってくれてよかったのに………。」
今回のようなことが起こる前にもっとちゃんと相談してほしかった。もっと頼って欲しかった………完全に僕の願望ではあるが、僕たちのためなのだから………。
「シノ………それでも僕は好きだから。」
それから、またしばらく時間が開く。何時間か、それもわからない。僕もまだ理解が追いついていないせいか、一瞬のようにも感じられた。そうして、その時は巡ってくる。
「んん………。」
シノの声であった。どうやら起きたようである。
「起きたか、シノ?」
「ハル………!」
僕の顔を見て、しばらくし顔をそらす。そりゃあ当然の反応だわな。
「大丈夫だよ。気にはしないから。」
本当に気にしないわけじゃない。ただ、僕が救いになってくれればそれでいい。僕のこの感覚は………本当に恋愛感情だけなのだろうか?自分でも全くわからない。今の僕は、どうにも狂ってやがる。
「ハル………ごめん………。」
自責の念しかないのは当然だろう。ただ………僕はもういいんだ。
「シノ………もういいんだよ。大丈夫だから。」
「大丈夫じゃない………本当に………本当に私は………。」
また、さっきと同じ事になりそうだ。それは避けたい。
「一線を越えたのは確かにマズイよ。回答としては不正解だよ。それでも………僕はいいんだよ。大丈夫なんだよ。僕はやっぱりシノのことが好きだから。」
好きだから。そんな単調な理由だけでこんな事が起きていいと思っているわけではない。僕自身ですら………僕の精神状態はわかっていない。先程の出来事を仕方ないで済ませちゃいけない。ただそれでも口にしてしまうのだ。
「仕方ないんだよ。シノは………本当に強いんだから。」
「………弱いよ、私は。強がる事もできないくらいには弱いんだよ………ハルは責任なんて感じなくていいんだから。」
「………責任………。」
「私がただ弱かった。それだけだから。本当にごめんなさい………。」
責任という言葉で腑に落ちる。僕がここまでシノに甘い理由を。そうか………僕は勘違いしてたんだ。僕は、シノと一緒にいてあげなきゃいけないとか言う妄想じみた責任に苛まれ………勝手に巻き込まれていたんだ。
「シノ………僕の方もごめん。」
勝手に保護者面して、勝手に強くないといけないなんて妄想して、勝手に側にいてあげないといけないなんてエゴを押し付けて。馬鹿っていうのはこういうやつのことを言うんだ。覚えているといい。こういう馬鹿真面目なやつは、大概ある一点を越えると狂ってしまうものだから。
「狂ってたのは僕もだったみたいだ………。」
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