第7話「『優くん』じゃなくて『優ちゃん』だったら」
改めて、自分の部屋を見てみると、こう思わざるを得ない。
『やっぱり僕は、どうあがいても男』
どこの世界に、
どこの世界に、上杉謙信に憧れて、上杉軍の『
どこの世界に、
男である。
イケメン化されていない、
本棚に並んでいる本だって、普通の女子が一生読まなさそうな、フランス文学や、戦前の日本文学の文庫本が大半である。どこの世界に、こんな大昔の作品を好んで読む女がいるというのか?
何枚か持っているCDの大半は、フランスの作曲家のクラシック音楽である。ジョルジュ・ビゼーの『カルメン』とか、エクトル・ベルリオーズの『幻想交響曲』とか、クロード・ドビュッシーとか、モーリス・ラヴェルとか、エリック・サティとか、どこの世界に、このラインナップのCDしか持っていない女がいるというのか?
唯一、買って持っている映画のDVDはジャン=リュック・ゴダール監督の『勝手にしやがれ』である。どこの世界に、こんな男臭い作品を愛する女がいるというのか? ブラームスはお好き? 嫌いです!!
男である。
どうあがいても、僕は男である。
改めて痛感した僕は、暗い気持ちでベッドの中に舞い戻り、目を閉じて考える。
まさかアズミが、同性愛者のレズビアンだったとは。
まったくもって想定外である。
僕は今まで、自分が男に生まれたことについて、なんとも思っていなかったが、さすがに昨日はなんとも思ったね。
『優くん』じゃなくて『優ちゃん』だったらよかったのに、と……
しかし、今回のことはそんな単純なことなんだろうか?
仮に僕が『優くん』じゃなくて『優ちゃん』だったとして、それがいったいなんだっていうんだろう?
僕が『優ちゃん』だったところで、同性のアズミのことをそういう目で見てしまうことに罪悪感を抱きながら日々を過ごし、でも実はアズミも同性愛者だったということが発覚して『チャンス到来』と浮かれた矢先に、「カノジョができた」と報告されて、しかもその日のうちに「アハン、ウフン」だ。
僕が『優ちゃん』だったら心が折れて、自傷行為に走っていたかもね、『優くん』だからしないけど。
男の『優くん』がしたのはザクザクピューピューの自傷行為じゃなくて、シコシコピュッピュッの自慰行為……って、やめろやめろ!!
改めて振り返ってみると、サイテーである。
大好きな幼なじみのあえぎ声を聞いて、無断で出してしまっただなんて。
誰かにバレたら人権を失う。
このことは絶対、誰にも言わず、墓場まで持っていくことにしよう。
なんにせよ、アズミに『るみさん』がいる限り、僕が男でも女でも立場は一緒。
むしろ男でよかったんじゃないか。
最初からノーチャンスの方が、奪い取ってやるとかよこしまな考えを抱かずにすむのだから……
よこしまなシコシコピュッピュッしといて、何をぬかすか!
とか言われたら、それまでだが。
なんにせよ、
打つ手なし!
お手上げ!!
今の僕にできることと言ったら、『相手が男じゃなくてよかった』『アズミが処女を失うところを聞いてしまう、とかじゃなくて本当によかった』と思い、安堵することのみである。
古来よりよく言うだろう、『女の子同士ならセーフ』って。
セーフだよ!
セーフなんだぁぁぁぁぁっ!!
こうやって、アズミのことを擁護しようとしている辺り、僕はやっぱりアズミのことが大好きなままらしい。
そりゃそうだよ、『カノジョができた』ぐらいで嫌いになるわけないよ、その程度で嫌いになるんだとしたら、最初から好きじゃなかったんだよ。
だいたい、僕の想いは結局、片想いだったわけだろう?
元々アズミと付き合っていたのに『るみさん』に強奪されたとかならいざ知らず、片想いの分際で「僕以外の人と付き合うのは絶対に許さない!」とか言い出したら、完全にストーカーじゃないか。
僕は犯罪者にはなりたくないよ……
そんな風にアレコレ考えているうちに、いつの間にやら眠りについていた。
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