天川 悠人と距離感


「……何か用ですか?」


 読んでいるラノベから目を離さずに、こちらから射陰先輩へ話かける。


「突然申し訳ない、俺は射陰 千里 (いかげ せんり)三年で、剣道部の主将をしている。」


 そう言った射陰先輩に目を向ける、短く切り揃えられた髪、鋭く意思の強そうな目、ガッシリした体格…一見強面だがなんかモテそうな感じだな。


「ご丁寧にどうも、こっちの自己紹介は必要ですか?」


「いや、大丈夫だ…天川 悠人君」


 そう言った射陰先輩は、複雑そうな表情をしている。


 これあれだな、これから下げたくない頭を下げる時に、異世界グレセアの貴族とかがしてたやつだな。


 プライドの対価に、領地を魔王軍に渡しても良かったんだぞ?


「そうですか、用件があるなら手短にお願いします」


 まぁ、なんとなく予想はつくけど。


「実は君に折り入って頼みたいことがある、ひ「お断りします」」


「……まだ何も言ってないが」


「俺は桜花に、何も言うつもりはありません」


「…っ…お見通しだったか」


 全く面識のないこの人が、俺に話かけてくるなんてそれしかないだろ。


 ……いや、まあ内容に関わらず断るつもりだったけど。

 そもそも興味ない人間の頼みを聞くつもりはない。

 完全に頼む相手を間違っている。



「そもそも何故俺に頼むんですか? 本人に断られたんならもう脈なしですよ」


「……正直な話、俺としてもこんな他人任せなことはしたくはなかった。だが人蔵は人当たりは良いが何処か他人を寄せ付けない、それは同じ剣道部の我々にも…だ」


 いや、それ桜花が気にしてたやつだな…。


 学校での桜花の評判は『文武両道であまり人を寄せつけない、クールで凛々しい剣道部の期待の星』…だ、そうだが俺の知ってる桜花は真面目で、寂しがりで、意外とポンコツで、結構乙女で、すぐ他人の為に遠慮して割と面倒臭い奴だ。


「昼に見た感じだと、君達は人蔵と仲がよさそうだったからな」


「そうですね、俺や茜が頼めば桜花は剣道部を続けるでしょう」


「なら…」


「嫌々にでもね」


 これは確信をもって言える、桜花は俺や茜

が頭を下げれば、どんな頼みも聞いてくれるだろう、でも。


「…だ…だが彼女には才能がある、それを「止めろ」」


 俺は今、凄くイライラしてるんだろう

 気にせず無視をするか立ち去ればいいだろうに、そうしない…いや、出来ないのだから。


 桜花の強さを『才能』なんて言葉で片付けるな。


「桜花は強いんでしょう、それこそ剣道部の誰よりも。 けど…それは桜花が剣道を続ける理由にはなりません」


 辞める理由にはなってるけどな…


「…兎に角、俺は桜花にこの話をするつもりはありません。 …もういいですか?」


「……わかった、時間をとらせたな」



 そう言って射陰先輩は何処かへ歩いて行った。 そして完全に見えなくなった所で、後ろから声をかけられる。


「悠人…その…」


「もう先生との話は終わったのか?」


「…うん、あの、さっきの…」


「茜達はまだ時間がかかるみたいだ、桜花も座ったらどうだ」


 そう言うと桜花は何も言わず俺の隣ではなく、背中合わせに設置されているベンチに座る。そんなに経っていない筈なのに、少しだけ懐かしく感じる距離感で。


――――――――――


全く人の話を聞いてない系主人公







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