シュガータイム 〜映画マニアくんとポンコツ魔法使いちゃん〜
団子おもち
EP.00「僕が映画マニアになった理由」
僕の爺さんは無類の映画好きだった。
だからか、孫である僕によく映画を見せてくれた。
「おーい、カナター。今日も爺ちゃんと映画を観ようかー」
「うん!」
幼い頃の僕が笑っている。
それを見て、爺さんも笑っている。
僕には姉さんが居るのだが、映画……特にB級映画が好きではないので、冷めた目で僕と爺さんを見ていた。
「今日の映画はなぁに?」
「ディアス・ベスティ監督作品の『アメリカンポリスメンVS恐怖の吸血オクトパス』だ!」
「わぁい!ディアス・ベスティ監督の『アメリカンポリスメンシリーズ』大好きー!!」
すると、物凄い勢いで母がやってきて、
「お義父さん!!カナタには変な物を見せないでって、何回も言ってるでしょう!!」
と大きな声で爺さんは叱られていた。
だが、僕は夜、寝たふりをしてベッドから抜け出し、こっそり爺さんの部屋に行き、映画を観ていた。
爺さんの部屋には物凄い量の映画のDVD、VHS、ブルーレイがあり、更にはデカい円盤のレーザーディスク、ベータマックスと呼ばれる貴重なビデオもあった。部屋の四方八方すべてが、映画で埋め尽くされていた。
そして、部屋の一角に、僕が生まれる前に亡くなった祖母の写真があった。
子供の僕にとって爺さんの部屋は、おもちゃ屋や、ゲームセンター、遊園地よりも、光り輝くキラキラとした夢の国だった。
中学一年の頃。
爺さんは身体が弱り、入院していた。
病院には映画を観るためのプレーヤーが持ち込めなかったので、爺さんは映画が観れないと嘆いていた。
なので、僕は爺さんにポータブルのDVDプレーヤーをプレゼントし、見舞いに行くたびに祖父が観たがっている映画を爺さんの部屋から持って行った。
中学二年になった春のある日。
その日も爺さんは、ポータブルDVDプレーヤーで映画を観ていた。
爺さんが観ていた映画は『帰ってきたアメリカンポリスメン』。
僕も病室で一緒に観ていた。
映画を観ている途中、爺さんは僕に話しかけた。
「なぁ、カナタ……」
「なに?」
「映画って、最高だな……」
僕は「……うん、そうだね」と答えた。
映画が終わると、爺さんは眠ったようにこの世を去っていた。
くだらない映画だったのに、爺さんは凄い満足した顔だった。
いつか、僕も死ぬなら、こんな風な満足した顔で死にたいと思った。
爺さんの葬儀の後。
爺さんの部屋は、片付けられることになった。
父は「こんなもの、ここにはもう必要ない」と言い、爺さんが集めた映画ビデオをすべて処分すると言い出した。母も姉も賛成した。
僕は反対した。「お願いだから、このままにしてくれ」と懇願した。
ここにはまだ、爺さんの匂いが残っていたからだ。
爺さんがいつか、ここに帰ってきそうな気がしたからだ。
そして、爺さんが「奏太。今日も映画を観るか?」と言いに来てくれそうな気がしたからだ。
だが、父は「親父は死んだ。もう、この世には居ない」と言った。
そして、爺さんの部屋にある沢山の映画のビデオを見て、
「こんなくだらないもの、なんの価値もない」。
「くだらないものばかり観ていたから、親父はくだらない人間になった」。
「お前もそうなりたいのか?」
父はそう言った。
僕はなにも言い返せなかった。
頭に来ていたし、腹も立っていた。
父を殴ろうかとも思った。
だが、爺さんが死んで、もうこの世に居ないことは、どんなに否定したくても否定できなかった。
僕は黙って、爺さんの部屋にあった映画のDVD、VHS、ブルーレイ、レーザーディスク、ベータマックスが段ボール箱に詰められていくのを見つめていた。
あんなに光り輝いていた夢の国が、まるで灯りのなくなった廃墟になった。
爺さんの部屋にあった映画ビデオはすべて消えた。
本当に、爺さんがこの世から消えてしまった。
そして、僕の心の中にあった大事ななにかも消えてしまったような気がした。
中学三年になった僕は、ある事情で東京から遠く離れた城宮県億台市にある『聖アルジェント学園』に行くことになった。
実家から去る際、父は僕に「くだらない人間になってしまったな」と言った。
そう言われた僕は父に「本当にくだらないのは、あなただ」と言った。
この時、生まれて初めて、父から殴られた。
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