その笑顔で私を見てよ
シイカ
『その笑顔でわたしを見てよ』
「おはよう。百合子」
私は今日も彼女におはようのキスをする。
彼女はいつもと変わらない笑顔を私に向ける。
ハニカンだ笑顔は世界一可愛い。
ああ。このまま、時が止まって欲しい。
私と彼女はこのあと、八時間は離れていなければならないのだ。
神様はなんて残酷な試練を与えて下さったのだろうか。
でも、私は大丈夫。彼女の写真をいつも生徒手帳にいれているから。
写真の彼女も素敵に美しい。
辛いことがあっても、彼女の笑顔はいつも心の中にいる。
「翼ー? 早く、学校行こうー」
幼馴染の和葉が読んでいる。まったく、律儀なやつだよ。
それじゃあ、百合子、行ってくるね。
「翼、もう、いつも遅い」
わたしは、いつものように、翼に文句を言った。
言ったところで、直るわけないと思うけど。
そして、翼には変わったところがある。
「すまない。彼女との愛が深くてね」
そう。彼女だ。
「彼女って、平塚百合子?」
わたしは、ジト目で翼を睨んだ。
「ああ。もちろんだ」
翼は、アイドルの平塚百合子にガチ惚れしている。
ポスターに毎朝、おはようのキスをして、生徒手帳にブロマイドを入れているのだ。
このことを知っているのは幼馴染のわたしだけ。
翼本人に自覚はないが、いわゆる背が高く、顔もキリッとしてファンが多いのだ。
わたしは、翼がアイドルの平塚百合子にガチ惚れしているという事実を周りにバレないように翼を影ながら守っている。
しかし、そうとも、知らずに翼は平塚百合子一筋だ。
「昨日のMステの百合子は本当に輝いていた。テレビに出るたびに輝きが増していると思うんだよ」
平塚百合子の話をしている翼も充分輝いているぞ。
わたしは翼にバレないように小さくため息をついた。
平塚百合子は可愛いと思うけど、わたしはファンじゃないし、聴いていても別にと思う。
けど、彼女を語っている翼の笑顔は素敵だ。
その笑顔をわたしにも向けて欲しい。
「その笑顔でわたしを見てよ……」
思わず、そんな言葉が漏れていた。
『了』
その笑顔で私を見てよ シイカ @shiita
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