第10話 願いは虚しく…

第10話


私はあの男の家へと向かった。


あの地獄の1ヶ月間、一度だけ無理やり連れられて行った事があった。


はぁ、本当に最悪だったなぁ…


まぁ、そのお陰で殺しに行ける。


ピンポン♪


「おおっ、やっと来てくれた!待ちかねたよ!俺を選んでくれる気になったのかい?」


はっ、おめでたい頭だ。


どういう思考回路をしているのだろうか?


でも、良かった。


完全に油断してくれている…


「そう、貴方に会いたかったの…」

「そうかそうか!良かった!遂に君は俺の物になってくれたんだね!」

「あはは…」

「えっ…」


そんな事、ある訳ないじゃない♪


「ぎゃああ、な、何で…」

「何でも何も、私は此処にお前を殺しに来たのよ?」


スタンガンを油断しまくったコイツの脇腹に当ててやった。


ふふ、もう逃げられないわよ?


そして、それだけじゃ済まさない。


もっと、もっともっと、もっともっともっとコイツを痛め付けて…


「は、はは、成程、そういう事か!」

「………………………………………………はぁ?」


何故か、急に倒れ伏した奴が笑い出す。


ずっとそう思ってるけど、本当に気持ち悪い。


早く、黙らせないと…


「それが君なりの俺への愛情表現なんだね!」

「なっ…」

「そうか、それなら仕方がないな!俺は全てを受け入れるよ!」


私は絶句してしまった…


コイツ、イカれてる…


「ほら、どんと来い!俺は全部受け止めてやるからな!」

「い、嫌…」


こ、怖い!


本当に何なの、コイツ!?


誰か、助けて…


助けて、人識くん…


「恥ずかしがらないで、ほら!」

「煩い…」

「大丈夫だよ、暦。ほら、早く!」

「…黙れ!」


私は思いっきり、奴の股関を踏み潰す。


その行為に、流石の奴も…


「があ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」


と、泣き叫んでいた。


だが、それでも奴は…


「う………う、嬉しいよ。こんなに……俺を求めてくれて…」


ち、違う!


そんな訳ないじゃない!


なのに、なのにコイツは…


何で、そんな風に…


…嬉しそうに笑っていられるの?


「嫌、嫌ぁ………」


私はペタンっと座り込んでしまった。


そして、奴から逃げる様に後退っていく。


近くからパトカーのサイレンが聞こえる気がする。


だが、それを気にする間もなく…


…私は目の前の怪物から、逃げる事だけを考えていた。


-----------------------------------------------------------------


結局、奴は捕まった。


警察の人曰く、奴は「これから俺達は恋人、夫婦になるんだ!これは脅迫の手段じゃない。素晴らしい思い出だよ!」と、私に渡した奴以外にもデータを残していたらしい。


本当に理解が出来ない怪物だった…


私も傷害罪だったかな?


一応、股間を踏み潰したせいで前科持ちになる所だった。


だけど、奴は訴えなかったらしい。


これも、私から与えられた愛だとか訳の理解わからない事を言っていた。


つまり、私は…


「ちくしょう…」


せいぜい、出来たのはあの忌々しい棒を潰せた位だけなのだ。


命を奪う事すら出来なかった。


くそっ、くそっ!


どうして、私は…


「もうダメだ…」


奴は塀の中に入れられたが、殺すのに失敗してしまった私に残ったのは無気力さだけだった。


もう、どうすれば良いか理解わからなかった。


そんな日々が1ヶ月以上続いたある日…


「う゛っ、おえ゛っ…」


急に吐き気が襲ってきた。


何この、吐き気…


…まさか!?


そういえば、最近生理って…


「嘘っ…」


慌てて確かめた私は青ざめた。


何故なら、その妊娠検査薬は…




…間違いなく、陽性を示していたのだから。


続く

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る