猫かぶりな月の姫

ネッシー

第1話 哀れな姫

それはそれは美しい雲ひとつない満月の夜。

私は白の豪華なドレスを身に纏い、重めのぱっつん前髪とクルクルの銀髪の毛をそのままながす。


おそらく人生で1番華やかな格好をして、私は我が父である国王様に深々と頭を下げている。

周りからはヒソヒソと笑い声が聞こえてくる。


国王様は何か隣の髭面にコソコソと話し合いをして、話が終わると高圧的に私のことを見下した。


これは国王様が罪人を処する空気感だ。

父上はきっと私をお許しならないでしょうね。

幼い頃から私はこのような空気感を感知する能力と経験があった。


先程話されていた髭面の方がゴホンと1つ偉そうなくしゃみをした。そして片方だけの眼鏡をカチリと動かし、罪状を述べる。

「これから処刑式を始める。第1王女月雫様は第2王女陽葵様に対して卑劣な者共と一緒に卑劣な企みをしたとして、国外追放に処す。もう2度と国へ帰ることは出来ない。何か申し上げたい者はいるか?」


周りは髭面が話したら黙り、そのまま沈黙を続けた。

他の人の意見を聞くなんてただのハッタリ。市井の人々から貴族を集めて、見せしめとして行っているだけだ。

証明として今まで意見を申し出る者はほんの少ししかいない。並べてそのほんの少しすら意見が尊重されたことなんて無かったのだ。

そして滑稽なことにスラムの人達なんか報告すらされていないであろう。

なんて意味の無いものであろうか。


可愛らしい声が聞こえてくるが、やはり何も言えなかったようだ。


国王様は冷たい視線を外さない。

私は頭を下げ続けて、瞼を閉ざしている。


「哀れな娘月雫るなよ。面を上げてみろ。」


哀れか。

その言葉が似合わないようにあれやこれやとしてきたのに、簡単に仰る。

さすが国王様も今までたくさんの人を罪を下しただけある。今の私の気持ち、顔なんてあげたくないという気持ちが分かるだろう。

同時に今の私も罪人の気持ちが痛いほどわかる。

父上の瞳を今見たらトラウマになる。

しかし国王様に反抗することは王族でも許されない。

それを無視したものの末路を私は幾度なく見た。あれは人にすることではない。


「逢瀬のままに。」

ゆっくりと顔を上げる。

そして目が交わって行く。

しかし恐怖から驚きに感情が塗り変る。

なぜならその目には冷たいものではなく、慈悲的な瞳。優しく悲しげな瞳だ。

みんな怯えていたから知らなかった。


「母親譲りの美しい顔だ。」

「恐れ入ります。」


母か。こんな時にもこの人は見た目か。

私の母は北の国の者で、白い肌、長いまつ毛

、柔らかな表情で私から見ても本当に美しい絵画のように美しい人だった。

そんな当時の母を無理やり北の国から奪い結婚をした。それが国王こと父上だ。そして婚姻した恩恵により北の国と我が国は調停を結んだ。



「何か言い残したことはあるか?」

「いいえ、私はもう何も望んでおりません。」

顎を擦った国王様は少し間をあけた。

きっと今私の方が国王様よりずっと冷たい顔をしているのでしょう。


「そうか。では処刑式を終わりとする。明日までに白露の城へ行け。そして未来永劫この国のしきりを跨げることはない。」

「今まで大変お世話になりました。」


私は再び頭を深々と下げた。

不思議と涙は出て来ない。

クスクスと笑う声、しくしくと泣く声、驚嘆を漏らす声、色んな声が聞こえる。


「それでは解散!」

髭面の声を最後に私は体を起き上がらせて、せめてものプライドで前へスタスタと進み、部屋の中に入る。


人の目が無くなった。


それにしてもこの部屋には大変お世話になった。生まれてからずっと居た家。

愛着はあるが今の私は罪人。居続けることは許されない。手短に支度を終わらせよう。

習慣である窓の外へリンリンと鈴の音を鳴らせ、落胆をまたした。


私は先程の服を雑に脱ぎ、もっと手軽な服に着替えた。

金目のものから使用していたものなどを仕舞い、旅立ちの準備しているとバンバンとドアを叩く音がした


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