初代勇者~表裏一体
ヘリコプター
第一章
第1話無色は虹色に
大部分が黒に塗り潰された夜が、明けの太陽が登ることで、土には黄土色が、空には青色が、森には緑色が、そして、地面に生えている草木の朝露は日光に当たる事により角度によって色が付き朝方限定の小さい球体の形を持つ美しい花々が咲き誇る。
森の中は、植物ばかりではなく動物も多く存在している。
木の上に巣を作りあげ、そこを生活の中心として生きている鳥は朝日が登ると同時に目を覚まし、今日も自分と我が子のためにせっせと食料を取りに行くのに精を出す。
親鳥は子鳥に向かい軽く囀ずり、子鳥も親へと向かい数に比例して騒がしく囀ずる。
そのことにより巣が少し揺れると慌てたように親鳥は子鳥達を咎める視線を投げつける。
子鳥も皆例外なくピタリと囀ずるのを止めて親鳥に嘆願するような目線を投げつける。
それを見た親鳥は翼を広げ青く染まった空へと、翼をはためかせる。
いつも通り朝が訪れ、今日も世界は回っている。
鳥は空気を操るように広く青い空を飛び、自然界屈指の鳥類固有の目の良さにより食料となるものを目を凝らせて探す。
枝や木の表皮、葉に擬態している虫達は天敵である鳥に自分の存在が露見されぬように、ほぼ完全な自然の一部と化す。
その中でも、緑が多く占めている森の中に異様な極彩色の色彩を放つ虫がいるが、鳥はそれを見つけても、すぐに視線を移動させる。
自然は複雑怪奇でありながらも、あらゆる種と層が絡み合い調和している。
百花繚乱とも言うべき世界だ。
しばらく飛び続けていた鳥は少し疲れたのか、どこかで休憩することにした。
羽が乱れたてきたのか、空気を操るにも違和感を感じている。
ちょうど、木々が多く生える森を抜けると、そこには草花が支配する平原がひろがっていた。
空から見ると朝露が煌めき草一つ一つが輝く、光の草原に見える。
そんな光の草原の中心には皮が剥がれた木と四角に切られている石が直線的に複雑に組み合わさった巨大な固まりが佇んでいた。
その固まりの横側面を見ると、薄暗い窪みがある。
その窪みに鳥は向かい無事着陸して、翼を畳み、座りこむと、柔らかな羽毛で覆われた可愛らしい姿がそこにあった。
この鳥は賢い。
なぜなら、ここに来ればたまに、食料が貰えるという事を経験から学んでいるからだ。
毛量が少ない猿に似た生き物が理由は知らないが、虫や果物の欠片をここに置いてくる。
その時その毛量が少ない猿はよく自分を隅々まで精査するように見てくるが、自分の本能は危害を加える存在だと訴えていないから反撃を誘うような攻撃はしない。
食料が来るまで暫しの休憩だ。
体力が回復しても来ない場合は今回は運が無かったと諦めてまた食料探しに精を出そう。
羽を伸ばして口で乱れているところを直し、油を満遍なく羽に塗りつける。
僅かながらもその油が張り艶が表れ、小綺麗になり、磨きあげらていた。
そして、鳥は太陽に自分の翼を向けて、小さく鳴く。
窓の額縁の上に鳥が翼を休めるために乗っている。
木を材料としている閉じられていた窓が僅かに開いており隙間を作っていた。
その隙間に、一筋の日光が射し込み、その光よって夜だった部屋に僅かながらも明るさが生まれ朝方が訪れる。
日光は部屋で寝ている子供の目元に襲い、完全に閉じているような目でも光はほんの僅かな隙間にも射し込まれる。
瞳に微かな光であり、眩しい光が射し込まれた。
穏やかな夢の世界に破滅の光が降り注ぐ。
すると子供は目を開け、眠気と眩しさが混ざりあった朦朧としつつも不機嫌な顔を窓へと向ける。
「…………朝か。眩しいと思ったら窓を閉めるのを忘れてた」
元気が有り余る子供だろうが、寝起きは基本的に活動力は低下する。
それでも、この時代の朝は速い。
太陽と共に目を覚まし、太陽と共に寝床に着く。
この太陽中心の生活サイクルがだいたいの基本である。
例外があるとすれば、何かしらの契約の元で雇っている他人に起こして貰えるような裕福な家のものか、まだまだ自力で起きるのが難しい赤子、児童の時期と判断される子供くらいのものである。
彼はつい最近児童の時期を抜けていた。
児童の時期でも自分で起きていたため、この子にはあまり関係ないが。
子供は目を擦り、目を開けしっかりと覚醒する。
心の内の本音としては自分の温かさで温かくなった気持ちの良いベッドで、まだ寝たいが、体と頭を睡眠欲から抜け出すように理性でできた拳で叩き起こす。
「さてと、朝の訓練だ」
その本音を心の中に押し込み、ベッドから抜け出し、外へと向かい歩いて行く。
ドアを開けたら、すぐそばには一つの大きなテーブルと何個かの椅子があるリビングが広がっている。
机や椅子、床などについて目立つ、ちょっとした汚れや染みが普段の生活感を漂わせている。
すでにリビングには一人の若い女性がいる。
女性は今の子供と同じように髪が少し乱れており毛先が少し跳ね上がっている。
ついさっき起きたような様子だった。
「あら、おはようルー。今日も良い朝ね」
彼女はこの子供、『ルアザ』の母親、『エウレア』である。
ルアザは親しい者には『ルー』と略称されて、呼ばれる。
親しいと言ってもまだ人生で二人しか人と会ったことはないから、必然的に親しくなるからなんとも言えないが。
エウレアは澄んだ青い空もしくは深い美しい海を思わせる、蒼眼の愛情ある母親の瞳をルアザへと向ける。
「……おはよう……。あーそうだ。母さん何か食べ物ない欠片でいいから」
一つルアザは思い出す。
そういえば、窓の隙間を見た時それなりの頻度で見る鳥がいたなと。
いつからか忘れたが、何となくそこら辺で捕まえた虫を餌代わりで与えてみたら、次の日またやって来たのを自分は驚くと同時に興味を示した。
それから、おもしろそうだから、とりあえず餌になりそうな物を与え続けてみた。
そして、今至る。
「うーん、これで良い?」
エウレアが台所にあった、切られて小さくなって欠片となった芋を取り出しルアザに渡す。
それを手渡されたルアザは顔を僅かに硬くさせて、まだ無力な握力で芋を握り潰そうとする。
「……これ、アレじゃん。何で残してるの?」
渡されたものをは、芋の小さな芽がすでに発芽しており、中身も食欲を削いでくる緑の草色に変色した芋であった。
それを見たルアザは芋の青い箇所を食べて皆で痛い目にあったことを思い出す。
まだ幼いルアザは人生初の吐き気、腹痛、頭痛と、痛くて気持ち悪い最悪の組み合わせを喰らって非常に苦しんだため、若干トラウマ気味である。
なんとか一日で治ったが、常に続く頭と腹がねじ伏せられる辛さと胃袋から込み上げる不快さを思い出すだけで億劫な気分になる。
「ごめーん、捨てとくの忘れちゃったよ」
エウレアは頭を掻きながら、ばつが悪そうな顔をしながら苦笑する。
「次は気をつけてね。(心配だ……)」
母親のことは物心がついた時から、いい加減でずぼらなところがあるため、深層意識にすでに『母親は正直あまり安心できない』と刷り込まれている。
だが、信用しているか、と聞かれれば母親以上に信じている人はいない、と大声で断言できる。
「他に何か……」
エウレアは息子を求める物を探そうとして、台所へと足を運ぶ。
「いや、大丈夫だよ。そこまで本気で欲しいわけでもないから」
そこそこの時間がたったから、鳥はすでに、飛び立っているだろうと予測したルアザは新しく餌になりえる物を探そうとする母親を止める。
母親の協力には感謝しているが、元々、お試しであげ続けてみた物だから、そこまで熱心に探さなくても大丈夫だということを伝える。
ルアザも鳥の餌やりは、お試しでやりはじめたことだから長く引きずることではない。
「じゃ、お母さんご飯作るわね」
問題は解決したと判断した、エウレアは台所へと向き直り、慣れたように朝食(イエンタクルム)の準備をし始める
「……水は?」
ルアザは母親に毎朝顔を洗うための水を求める。
「あ、そうだった、そうだった」
エウレアは少し集中したら、宙に浮く透明な水の塊が突如出現する。
その水を入れるための器を持ってきたルアザの元へと移動させて器の中に落とす。
多少の水しぶきが上がり、ルアザは僅かに目を細める。
「ありがと。母さんはもう洗った?」
「後で洗うから大丈夫」
小さな笑みを浮かべ、ルアザに返す。
「そう。じゃ、ここに放置しておくから」
水を手で掬い、顔を清める。
ゴシゴシと擦り付けるようには洗わず、軽く触れ、ただ濡らす位の優しさで顔を洗う。
ついでに、水面を鏡代わりにして、寝癖のあるところを少し濡らして直す。
母親の栗色の髪とは違い、白色だが、母親と同じように光が当たることにより艶やかに彩られ、変なふうに髪が纏まらず、さらさらな髪質をしている。
違うとこらはそれだけではなく、母親の空のような明るい蒼眼とは真逆の黄昏時の太陽を思わせるような真っ赤な瞳を持っていた。
肌も血の気がある乳白色ではなく、自分の髪と同じく透明感が含まれる白銀色で肌色を構成されている。
その白過ぎる容姿は『まるで雪の妖精だ』と十分に表現できる。
顔を清め洗い、睡眠中に失なった水分を吸った肌は健康的な艶が輝く。
頭の中に曇りがかった眠気は洗顔と共に洗い流され、身も心もさっぱりとなり目も頭も覚める。
そして外へと向かいドアに手をかけた。
「クラウいる?」
『クラウ・ソラス』。
もう一人の家族であり同居人。
血は繋がっていないことはすでにルアザも知っている。
そのため、父親とは呼べなく、特にクラウも嫌がる有様を見せないから、そのまま名前を呼び捨てで普段は呼んでいる。
しかし、ルアザも産まれた頃からめんどうを見てもらい、一緒に同じ家に暮らして、同じ食事を取っているから、口にはまだ言ってないが、すでに家族認定をしており、非常に感謝して頼れる家族と認識されている
「……ルー、こちらです!少し手伝って下さい」
遠くから壮年後期の声だが、まだまだ力強い声がルアザの耳へと届く。
「うん」
声の方へと向き直り、歩く。
「おはようクラウ。その猪は昨日のやつ?」
自然豊かなこの山々で多くの山の幸を食らい育ったのか丸々と太った猪を解体している姿のクラウがそこにあった。
地面が黒が入り交じった赤に染まっていないのを見ると、血抜きはすでにしてあるようである。
ちょうど、茶色の毛皮とは真逆な色をした脂肪の層を切り開き異臭を放つ腸や胃やらの内臓を取り出し終わって、最も肝心な肉の部分の解体をしているようだった。
ルアザは脂肪分と赤身部分がバランス良く混和され、桜色をした肉を眺めると口角が思わず吊り上げる。
クラウもそんな顔をするルアザを見て優しく笑みを浮かべる。
「そうです。足が速いところは今日食べますから夕食は期待してください。手伝って欲しいことはそこの毛皮を持ってください」
「こう?」
「そうです」
クラウを中心、ルアザが補佐という形で次々と猪を解体していく。
時にクラウは詳しい動物の構造や知識、上手く解体するためのコツをルアザに教えて行く。
「ルー、猪は鼻がとても良い動物です。人間とは比べ物にならない程に。猪だけではなく動物というのは人間より感覚が敏感で高性能ですから、正面から堂々と相手するのは基本的に敵いません」
「すごいね動物って」
「ですが、人間は強い動物達に勝てます。人間には動物よりも優れた知恵があります。この知恵をいかに重きを置くかが重要です」
「わかったよ。じゃあ、母さんもクラウももっと色々な事教えてね」
「もちろんです」
ルアザのお願いに前向きな姿勢に快く承諾し、期待する。
ルアザとエウレアと共に戻り、いかにして二人を幸せに生き抜く事を。
「じゃあ、今日も走って来る」
解体の手伝いが終わり、ルアザは日課の体力作りのための訓練を行う。
家の周りは不思議なことに、平原となっているため走り安い。
ルアザは耀う朝露を舞い散らしながら走り、考えていた。
なぜここだけ、平原なのか?
周りはそれなりの高さの木々が生えている。
もしかしたら、ここがそうなのだから、他にもあるかもしれない。
唐突に身の回りの物に対して疑問を抱いたルアザは立ち止まる。
そう一度疑問を持つと、この根源的な疑問が好奇心へと変わりその深い好奇心に従い、いつもの走るコースからはずれ平原の向こうへ、向こうへとまだ見ぬ光景を夢見て走る。
背の高さ程ある草を分け、不慣れな道を慎重に確実に進み、すでに太陽が高くなり始めても無視して、母親が毎朝使っている、水の魔術を思いだし、己の才能一つで魔術を行い水を出し、水分補給をしていく。
始めての冒険の先は崖だった。
大きく切り立った断崖絶壁の崖が存在していた。
いや、崖というには大きすぎる。
谷とも言うべき威圧感のある崖だった。
崖の先には終わりが全く見えない途方もない広さの雲海が一面を支配していた。
崖の高さが、わからないほどに厚く濛々としており、神の美を表すような白い雲が広がっていた。
雲は絶間なく流動し、滝のように落ち、そして植物のように上へと向かい、龍のように脈動する。
「先はどうなっているのだろうか?」
ルアザは雲と風景の碧落を見て、そう言う。
自分の赤い目が蒼空という塗料で青く塗りつぶされそうだった。
己の肌と同質の幻想的な属性があると感じ、雲へと手を伸ばせば一体化し、澄んだ空気を掴めば雲がその通りに躍動する。
この景色を持ち帰ることはできなくとも、せめて一枚の絵に変えられたらどんなに素晴らしいしいか。
ルアザは何時でも鮮明に思い出せるよう記憶の中に端々の光加減も逃さず緻密な風景画を連続的に描き続けた。
(なにが、あるのだろう? 地面がなくて、ずっと雲なのかな? それとも虹みたいなきれいですごい物があるのかな?、もしかしたら──)
ルアザは崖の先にあるかもしれない、様々な事を想像する。
物語のような壮大なロマンチックな光景が広がっているかもしれないし、夢のような不確定でこの雲のように常に変化し続ける儚い世界が広がっているのかもしれない。
それ以上の何か美しく感動的な物が広がっているのかもしれない。
ただ、ただ、先が気になる。
先へと進みたい、そのために自由に飛び回れる大きな丈夫な翼が欲しくなった。
だが、今は本気で行きたいわけでもない。
そこまでの熱情はなぜか生まれなかった。
この精霊が宿っているような神聖かつ幽玄でどこか夢幻性のある世界に、少し恐怖を抱く。
自分には到底理解できなさそうなサイズにスケールに恐れおののいた。
言葉には言い表せない、熱さと冷たさを感じ取ったルアザは踵を返し、家へと向かい帰っていく。
そして一つ夢を生む。
──いつか外へと。
熱情と言える程興奮はしていないが、涙腺に関わりが深い感動をし感銘した。
この世界の美しさに愛慕、讚美とも言える昂りを持った。
今日は平和で刺激がなかった言葉には言い表せないどこか退屈だった毎日に突如、脳が訴えられる、という経験を得て満足していた。
世界の美しさを知ったルアザは世界を夢とした。
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