ついてくる女②

やがて恵子も就活が始まり、それまでは週5ペースで出ていたバイトも出勤頻度が低くなった。

週5から週3、週3から週1とだんだん減っていき、とうとうスケジュール管理が大変になり、しばらく休むことにした。


「就活のことは話していたので休むことに関しては普通に許してもらえました。就活とか関係なく長期間休む人もいるし、やっぱりそこら辺は他より緩かったですね。友達なんか焼肉屋でバイトしてましたけど、就活中だろうが関係なくシフトガンガン入れられるって愚痴ってましたからね」


結局、卒業ギリギリで就職先が決まった恵子は、その後一度も出勤することなくコールセンターを辞めた。

就職先の関係で引っ越しが必要になったのだ。


「はじめての一人暮らしの準備。家具揃えたりとか仕事に必要なもの買ったりとか、すんごい大変でしたよ。いちばん大変だったのはやっぱり物件決める時でしたね。敷金とか礼金とか何?って感じで」


両親はセキュリティのしっかりしたマンションを勧めたが、恵子は金銭面のことも考えて会社近くの古いアパートを選んだ。

外観はボロアパートそのものだったが、中はリフォーム済みでなかなか綺麗だった。


「お風呂とかも特にこだわり無かったし、いつもシャワーしか浴びないからユニットバスで充分でした。いちばんこだわったのは近くにコンビニがあるかどうか、でしたね」


恵子が住むことになったアパートの向かいには、学習塾の入ったビルがある。

そのビルの一階がコンビニになっていた。


「そういえば私がバイトしてたコールセンターも、塾と同じビルに入っていました。だからその向かいのビルを見てたら色々思い出してしまって……」


楽しかったバイト生活と共に、毎日のように後をつけてきたあの女のことを思い出した。

結局、なぜあの女が後をつけてきたのか、なぜ恵子を選んだのかは謎のままだった。


「バイト先の人には話したことなかったですよ、女のこと。話すほどのことでもないっていうか、なんか気味悪がらせるのも申し訳ないなって思うじゃないですか。実際、後つけられるだけで何か危害を加えられたわけじゃないし」


どちらにせよ、引っ越してしまったからもうあの女に会うことは二度とないだろう。


仕事の忙しさと慣れない一人での暮らしでいっぱいいっぱいの恵子は、だんだんと女のことを忘れていった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る