カナちゃん①

小3の頃、曽祖父が亡くなりました。

曽祖父の家はそこそこ大きな旧家のいわゆる本家で、葬儀の際は日本中から親戚や知人が集まりました。

当然私も行ったのですが、こんなに親戚がいたのか!?とびっくりするくらい、たくさんの人がひっきりなしに来ていたのを覚えています。


特にすることもなかった私は、親戚の子供達と一緒に庭で遊びました。

本家の庭は広くて、何本かの桜の木と滝と池、池にかかる大きな橋までありました。

池の中には色とりどりの錦鯉がいて、鳥避けのためかネットが張られていました。


遊んでいた子供達の中で最年少だったのは、カナちゃんという女の子でした。

幼稚園年中のカナちゃんはとても元気で、小学生男子の私ですら体力が追いつかないほどあちこち走り回っては木に登ったりして遊んでいました。

「おいカナ、危ないから木登りはやめろよ〜」

私と同い年の従兄弟の幸太郎がヘトヘトになりながらそう言ってましたが、カナちゃんはケタケタ笑うばかりで全く言うことを聞いてくれませんでした。


やがてお通夜が始まると子供達も屋敷の中に集められ、それぞれお線香をあげて手を合わせました。

曽祖父との思い出はそんなにありませんでしたが、膝に乗せてもらって古い飛行機の本を読んでもらったことや、お手玉や凧揚げなどの遊びを教えてもらったことをぽつぽつと思い出して泣きそうになりました。

それでも、大往生でたくさんの家族に看取られたことは幸せなんだと子供心に思いました。


大人達が食事の準備を始めると、あることに気付きました。

カナちゃんがいないのです。

隣の幸太郎に「カナちゃんどこ行った?」と聞きましたが、見ていないと言います。

そもそもカナちゃんはどこの家の子なのか?

カナちゃんの親はどの人だっけ?

私はそばにいた大人に聞きに行きました。

しかし皆口を揃えて「カナなんて子はいないよ」と言うのです。

私は幸太郎と顔を見合わせて首を傾げました。


皆で集まっての食事が終わると、ホテルに泊まる人達はホテルへと戻っていきました。

私や幸太郎など本家に泊まる人達はそのまま本家に留まります。

大人達は交代交代に線香の見守りをするため、曽祖父のいる部屋に集まって雑魚寝をしたりビールを飲んだりしています。

母や女性の親戚は後片付けで忙しそうでした。


私は幸太郎と一緒に庭に出ました。

なんとなくカナちゃんのことが気になったからです。

「誰も知らないなんてことあるのかな」

「近所の子が紛れ込んでたとか?」

「でも黒いワンピース着てたよな?あれ喪服だよな」

「……確かに」

そもそも親戚内に幼い子がいるならば私達も知っているはずです。

しかし全く心当たりがありません。

何より大人達が知らないと言うのですから、少なくとも身内ではないのでしょう。

「……幽霊、とか?」

幸太郎がボソリと呟きました。

私もその可能性を考え、怖くなって黙り込んでしまいました。

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