神の子②

「久しぶりだな、◯◯」

神はそう言うと母を背後から抱きしめてきたそうです。

しかし"◯◯"は母の名前ではありませんでした。

「私、◯◯じゃないです……」

声を震わせながらそう言うと、神は

「向こうの世界ではお前は◯◯だ」

と返してきたそうです。

そしてベビーベッドで眠る私をちらりと見ると、母にこんなことを告げたそうです。

・産まれた子供は母と自分(神)の子供

・この子供には普通の人間には使えない特殊な能力がある

・その能力のことを他言させてはいけない。誰かに話せば母が死ぬことになる

・この子供は運良く能力の程度が低い状態で産まれた為、きっと長生きする

(能力の程度が高ければ高いほど早死にするそうです)

母は当然、信じられませんでした。

しかし目の前に神がいて、意識のはっきりしている母の前で喋っているのもまた事実でした。

このことで母は、あの日の出来事が夢ではなかったと思い知らされてしまったのです。


母はさすがに怖くなり、私の能力のことは伏せた上で両親(私から見た祖父母)に相談したそうです。

しかし祖母も祖父も「出産の不安で変な夢を見たんだろう」と言うだけで、結局神が母の前に現れた理由はわからなかったそうです。


その後、母の前に神が現れることは二度とありませんでした。


普通なら、いくら自分に特殊な能力があったとしても、こんな手紙を読んだところで神の子だなんて信じないと思います。

しかし私はこの手紙を読んですぐに、母の言っていることが本当なんだと信じられました。

何故なら私も、その神を見たことがあったからです。


小学校低学年の頃、訳あって両親が深夜に出かけ、一人で寝たことがありました。

怖くて不安でなかなか寝付けず、天井を見てボーっとしていると、誰かが私の身体を優しくトントンと叩き始めたのです。

暗い部屋の中、はっきりとは見えませんでしたが、それは絵本で見るような大きな鬼の姿をした何かでした。

不思議と怖くはなかったのです。むしろその手の温かさに安心して、私はすぐに眠りに落ちました。

てっきり鮮明な夢だと思っていたのですが、どうやらあれは現実の出来事だったようです。


母が亡くなり、誰かに能力のことを話しても問題ないと判断し、この話を残しておこうと思いました。

私は現在一児の父となりましたが、娘は至って普通の子供です。特殊な能力もありません。

ただなんとなく、強いものに守ってもらえている気はします。




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