自殺しようとしている女の子に死ぬ前にヤらせて下さいと必死にお願いした結果。

ゆさま

短編

 橘直矢たちばななおや 性欲多めの男子。彼女はいない。高校に入ってから今日にいたるまで少しでもいいなと思った女子には片っ端から告白するも全て玉砕。女子達からは発情サルと揶揄されるようになってしまった。


 8月31日、高校生活2回目の夏休みの最後の日。結局今年もヤれなかったな……。せめてイチャつくカップルでも覗いてくるか。


 近所にある逢瀬の名所の森林公園に向かう。時刻は夜の9時過ぎだ。普段ならイチャつくカップルが何組かいるが、今日は誰もいない。仕方がないから帰るか……。と思ったとき一人の女が鞄を持ってウロウロしていた。男と待ち合わせか? 俺は隠れて様子を伺う。すると茂みの中に入っていくので俺もこっそりついていく。


 女は鞄からロープを出し太めの木の枝に括り付け輪っかを作った。アレ? これって……。俺は女に近づき声を掛けた。


「あのー、何してるんですか?」


 暗い為、表情を窺うことはできないが、俺の方を向いたその女は慌てているように見えた。


「べっ、別に何もしてません」


「もしかして自殺とかしようとしてません?」


「だったらどうだって言うんですか? 放っておいて下さい」


「いや、どうせ死ぬならその前にセックスさせてください」


「は?」


「だから、死ぬ前にヤらせて欲しいなと……」


「バカなんですか? 気持ち悪い」


「すいません。バカなんです。お願いします」


「……いいですよ。私の事を明るいところで見て同じ事が言えたら、セックスでもなんでもどうぞ」


「え……本当ですか? ぜひぜひ」


 女はロープを鞄にしまい、街灯の下に俺を連れて行く。LEDの街灯は明るく、その下でははっきりと女の顔が見える。


 顔全体にニキビがあり赤みを帯びている。それを隠すように髪は長い。ニキビの痕ができているわけではないのできちんとケアすれば治りそうだな……。体型も太っているとまではいかないが、ぽっちゃりか。


 女は俯きながら小声で俺に聞く。


「こんなブスでもよければヤりますか?」


「全く問題ありません。ヤらせて下さい」


「は?」


「そういうの気にしない方なので、ヤらせて下さい」


「いや、でも……。私とヤりたいんですか?」


「さっきからそう言っています」


 女はあきれたのか、諦めたのか、ため息をついて頷く。


「いいですよ。なら私の家に付いてきて下さい」


「え? もしや美人局?」


「こんなブスが美人局なんかできるわけありませんよ。私の両親は仕事でずっと家を空けています。安心して付いて来て下さい。橘君」


「俺の事知ってるの?」


「橘君はクラスでも有名ですからね。女子に片っ端からヤらせてとお願いする節操の無いサルだと」


「ヤらせてってお願いしてるんじゃなくて、告白してるんだけどね。もしかして同じクラスの人なの?」


「そうですよ。神谷雪かみやゆきです」


「うーん」


「分かりませんか? まあいいです。私の家に着きましたよ」


 しばらく神谷に付いて行くと、俺の家の近くにある豪邸に着いた。


「もしかして神谷ってお金持ちのお嬢様?」


「そうとも言えます」


「そんな事より早くヤりたいな」


「……私の部屋に行きましょう」


 二人で神谷の部屋に行く。部屋の明かりを消し裸になりベッドに横になった神谷の上にゆっくり乗る。

 

 抱き合ったりキスしたりはするわけじゃないけど、ヤることをやる。常に持ち歩いているゴムを使う時が来るとは素晴らしい日だ。自分でしごくよりもずっと気持ちよかった。


 終わった後、神谷が涙を流しているのに気が付く。


「どうしたの?」


「すっっっごく痛かった」


「ごめんなさい。でも俺は気持ちよかった」


「……そうですか。良かったですね」


「あの……やっぱり自殺するの?」


「なんでそんな事聞くんですか?」


「えっ、またやりたいから」


「クズですね」


「じゃあなんで死にたいの?」


「私なんて死んでも誰も悲しまないから」


「俺は悲しいよ」


「やりたいだけでしょ?」


「テヘ」


「本当にクズですね」


「やっぱり8月31日に自殺するって事は学校行きたくないの?」


「……」


「俺も行きたくないな、宿題全部終わってない」


「じゃあ一緒に死にますか?」


「ヤダ、死んだらセックスできない」


「そればかりですね」


「そうだな……。俺のお願い聞いてくれたから、俺も神谷のお願い聞くよ。死ぬとか以外でね」


「私を守って」


「ん? 守る?」


「いえ、冗談です。忘れて下さい」


「いや、守るよ。どうしたらいい?」


「……私とずっと一緒にいて」


「いいよ」


「軽いですね?」


「俺も両親が仕事でほとんど家に帰ってこないからちょうどいいよ」


「学校でも私と一緒にいることが出来るんですか?」


「まあ、授業中とかは無理だろうけど可能な限り一緒にいるよ」


「そうですか」


「俺家が近くだから明日の朝迎えに来るよ。何時頃がいい?」


「……」


「あ、今夜一緒に寝る?」


「一晩中ヤられても困るので今日は帰って下さい。明日7時半に来て下さい」




 翌朝7時半に神谷の家のインターホンを鳴らす。出てきた神谷と一緒に登校する。二人で教室に入ると、男子に声を掛けられる。


「あれ、お前神谷と付き合ってるの?」


 俺の友人、岩城海いわきかいだ。イケメンで彼女あり。もちろん経験済みである。


「付き合ってないよ。セックスさせてくれた代わりに神谷をまもってる」


「マジか……」


「そうそう初めてしたんだけど神谷がすごく痛がったんだけど……」


「それはな……」


 岩城に昨夜の事を話すと、アドバイスをくれた。




 始業式、HRが終わり帰ろうとすると、女子三人組が神谷に話しかけている。見るからに感じが悪い。なるほどそういう事かと思いつつ神谷と三人組に近づいていく。


 俺は「神谷、帰ろー」と大きめの声で呼びかけつつ、神谷の手を握り連れて行こうとする。すると三人組のリーダー格の、川角絵里かわすみえりが俺の方を睨みつけてくる。


「ウチら神谷と先約あるんだけど」


「すまんな、急ぎなんだ」


「あ? あんたら付き合ってるの?」


「付き合っては無いけど」


「じゃあなんでそんな奴にかまうんだよ?」


「セックスしたから」


「は? お前マジで女なら何でもいいのかよ。ウケる」


「フッ君達のようなお子様にはセックスの良さが分からんか。うんうん」


「は? そんなブスとヤって調子乗ってるのか?」


 川角達があきれているうちに、さっさと神谷の手を引いて逃げる。逃げ切ったところで神谷が小声で抗議する。


「別にあんなこと言わなくていいのに」


「あんなこと?」


「私と橘君がヤったってこと」


「いや、なんか自慢したくて」


「相手が私なのに?」


「うん、そうだよ。なんで?」


「もういいです」


「じゃあさ、今日も……」


 神谷は、ハァとため息をつく。

 

「いいですよ、今から私の家に来てください」


 今からヤれると思うとつい頬が緩んでしまう。俺は「はーい」と浮かれた返事をした。




 帰り道にドラッグストアに寄ってこっそり潤滑ローションなるものを購入した。岩城の入れ知恵だ。


 神谷の家に着くと早速ヤらせてもらう。装着したゴムに、こっそりと潤滑ローションを塗ると昨日よりスルっと入った。


「今日も気持ち良かった。ありがとう」


「……」


「どうしたの? やっぱり痛かった?」


「昨日程は痛くなかった。でも別に気持ち良くないです」


「シャワー浴びてこようか」


「一緒にですか?」


「ずっと一緒に、ね!」


「……わかりました」


 俺達は二人で風呂場に向かう。俺は現在賢者モードなので女子の裸にも動じたりはしない。


 シャワーを浴びて、神谷の様子を見ていると顔をゴシゴシとこするように洗っていた。


「そんなにゴシゴシ洗うと肌が痛むよ」


 俺は洗顔フォームを手に取り泡立てる。モコモコの泡を神谷の手のひらに乗せる。


「泡を伸ばすように、こすらず洗うといいらしいよ」


「そうなんですか?」


「うん、こすりすぎると肌が痛んで荒れるんだって」


「……やってみます」


 泡を流して、二人で風呂場から出る。すると神谷はバスタオルで顔をゴシゴシ吹き始めた。


「基本、ゴシゴシするのは肌を痛めるよ。ポンポンと押さえるようにして拭いてみて」


「え、ええ、分かりました」


 二人で服を着た後リビングに向かう。神谷は何か錠剤を呑んでいる。


「何か薬飲んでるの?」


「肌荒れ対策にビタミンCの錠剤を飲んでいます」


「肌荒れ対策はビタミンCもいいけど、ビタミンB群の方がいいよ」


「B1、B2、B6、B12、ナイアシン、パントテン酸とか」


「なんか、妙に詳しいんですね。家に無いので買ってきます」


 二人で近所のドラッグストアに行く。神谷はビタミン剤と、ニキビ用の塗り薬を買った。化粧水を塗っているようだったので薬の方がいいよと言ったら素直に買っていたようだ。


 俺はゴムを3箱セットになっているのを買った。


「ヤる気満々ですね」


「分かる?」


「そんなもの3箱も買っていたら分かりますよ」


「今日は神谷の家に泊まっていってもいい? 俺の家近くだから着替えとかとってくるよ」


 神谷はハァとため息をつく。


「いいですけど、明日も学校なのでほどほどにしてくださいよ」


 俺の家に着替えと学校に持って行くものを取ってから神谷の家に戻った。




 神谷の家に着くと、ひとまずリビングのテーブルで神谷は勉強を、俺は終わっていない夏休みの宿題をする。


 ふと神谷を見ていると、シャープペンを持っていない方の手で、常に顔を触っている。


「あんまり顔を触らない方がいいよ。炎症が悪化したり、手のバイ菌が付いたりするよ」


「無意識に触ってしまって……」


「じゃあ俺が左手を持ってるよ。」


 神谷の左側に座り、俺の左手で神谷の左手を掴み俺の膝の上におく。俺はそのまま右手でシャープペンを持ち宿題を続ける。


「そんなことされてたら、集中して勉強できません」


「気にしない、気にしない」


 俺は神谷に微笑む。神谷はハァとため息をして仕方なく勉強を続けた。


 しばらく勉強して、時刻は6時。お腹が空いてきたな。


「神谷、夕食どうする?」


「いつもは自分で準備していますが」


「俺と一緒に作ろうか?」


「料理できるんですか?」


「多少ね」


 二人で夕食を準備することにする。米を洗って炊飯器にセットする。神谷は、ほうれん草の胡麻和え、キュウリの酢の物、レタス、水菜、などの葉物野菜のサラダと野菜ばかりのメニューを作っていた。


「ダイエットの為に野菜中心の食事をしています」


「たんぱく質を取らないとカロリー燃えないよ」


 俺は、豆腐の味噌汁と、豚の生姜焼きをサッと作る。


「豚肉に含まれてるビタミンB1は代謝に関係する栄養素だから、野菜だけよりむしろ痩せやすくなるらしいよ」


「限られたものだけを食べるよりいろんなものを食べた方が、バランスよく栄養を取ることが出来るから健康的なんだよ」


「そういう事、なんか変に詳しいですね」


「趣味だから」


「ヤること以外に興味があることもあるんですね」


「健康体で、楽しくセックスしたいよね」


「ハイハイ、分かりました」


 ダイニングのテーブルに配膳して二人で食べる。いつもは一人で食べているのでなんとなく楽しい気分だ。


「神谷の作った胡麻和えと、酢の物美味しいね。女の子の手料理食べたの初めてだよ」


「……それはどうも。橘君の作ったみそ汁としょうが焼きも美味しいですよ」


「ありがとう! 作った料理を美味しいって言われると嬉しいね!」


 食事のあと二人で食器のかたずけをする。なんか同棲カップルとか新婚さんってこんな感じなのかななどと思いながら食器を洗った。


 その後少し勉強をした後、風呂に入る。今は賢者モードじゃないので一人ずつ入った。風呂から出て神谷の部屋に二人で行く。部屋に入ったところで俺は神谷に声を掛ける。


「運動しようか」


「……いいですよ」


 神谷は部屋の電気を消そうとする。


「ちょっと待って、ヤる前に日課のストレッチと筋トレを少ししたいなと……。一緒にやらない」


 神谷は黙って頷く。


 柔軟、腹筋、スクワット、腕立て、プランクを二人でゆっくりとする。神谷も柔軟をするが身体が固いようなので背中を掌でゆっくり押す。女の子の背中を触ってしまった。ヤることをやってるのにそんなことでドキドキしてしまう。


 セックスをやらせてくれるとはいえ好きでも無い男に触られるのは嫌だろうと思い神谷には極力触らないようにしている。やってる最中は抱きしめてしまうが文句は言われないのでギリギリ許容範囲だと思いたい。


 ストレッチと筋トレが終わったところで、本日2回目のセックスをする。


「はぁ、すごく気持ちよかった」


 俺の言葉に対して神谷は冷淡に応える。


「それは良かったですね。私は全く気持ち良くないですが」


 好きでもない男としても気持ち良くは無いんだろうな……。少しの間、二人は無言になる。なんか気まずいな……。


 俺が「今日は泊まって行ってもいいんだよね?」と確認すると神谷は「はい」と頷いた。


「俺、どこで寝よう? リビングのソファとか?」


「このベッドで一緒に寝ればいいでしょう。今更別々に寝る必要があるとも思えませんが」


「いいの? ありがとう」


 こうして俺達は一緒のベッドで寝ることになった。


  


 翌日、二人そろって登校する。教室に入ると昨日の三人組が冷やかしてきた。


「ブス女とサル男でお似合いだな」などと口汚くさんざく煽ってきたので、俺は軽く言い返す。


「お前ら、処女だからって羨ましいのか?」


 三人組は目を吊り上げて激しく抗議してきた。


「何セクハラ発言してるんだよキメェな」


「じゃあ、あんまり騒ぐなよ。相手してやるのが面倒だ」


「ぐっ……!」


 三人組は物凄い剣幕で睨んでくるが、俺と神谷は無視をする事にした。


 その後も神谷が川澄達に絡まれないように気を付けていた。しかし、その後は絡んで来なくなったようだ。


 俺と神谷は毎日一緒に過ごし、同棲同然で生活し毎日セックスをするようになった。




 + + + + + 




 神谷雪の視点


 ベッドで横になる私の上に乗り必死に腰を振っている。何がいいのか全く分からないが、この男はこの行為に執着している。


 夏休み最後の日に、初めてしてから毎日この男としている。はじめはとても痛かったが、今は全く痛くは無い。かといって気持ちいいわけでもない。


 そんな事を考えながら目をつぶっていると、男の腰の動きが速くなり、私を抱きしめる腕の力が少し強くなる。


 私の中で、薄いゴム越しに脈打つ感触がある。果てたのか。


 その後、男は必ず脱力して私に覆いかぶさり頭を私の頭の横にうずめ、耳元で息を上げて言う。


「はぁ、凄く気持ちよかった」

 

 私はそれを聞くと、私を抱いて気持ち良かったと言われたような気がして、背骨がゾクゾクしてしまうのを感じる。


 しかし、この男は私を抱いて気持ちいいのではなく、ヤらせてくれる女なら誰でもいいんだと思うとなぜか妙にイライラするので私もいつも同じ言葉を返す。


「そうですか。良かったですね。私は全く気持ち良くありませんが」


 実際、この男は私にキスをすることも無い、キスを求めることも無い。この行為以外で私を抱きしめてくれることも無い。いつも一緒にいるときは私の事を見つめてくれてはいるが、手を握る以上のスキンシップは無い。


 都合のいい時にヤらせてくれる大事なセフレという事なんだろうな……。


 私としてもあのクソ女三人組から守ってくれるのはとても助かる。だからこれからも都合のいいセフレを続けようとは思っている。


 でも、私の本心は……この男、橘直矢の事が……。浮かんできた言葉を首を振って否定した。




「今日は帰るよ。資源ごみ出さないと。新聞が溜まちゃって」


「そうですか、分かりました」


「明日は、7時半に迎えに来るよ」


「分かりました」


 橘君は自宅へと帰って行った。


 夜、腹痛でトイレに行く。生理か……。いつも生理は憂鬱だが、今回はさらに憂鬱だ。しばらくヤれないとわかると橘君はがっかりするんだろうな……。




 + + + + + 




 橘直矢の視点


 夜、溜まっていた新聞を縛りゴミ集積場に出してくる。暗い夜道を一人歩きながら、神谷は今頃寝てるのかな……などと考える。最近、俺は神谷の事ばかり考えている。なんか放っておけないんだよな……。



 翌朝、俺は神谷の家に迎えに来た。インターホンを鳴らすと神谷が出てきた。今日は少し顔色が悪いな。


「おはよう。顔色悪いけど体調悪いんじゃないの?」


「ただの生理です。気にしないで下さい」


「そう……か」

 

 男の俺としては触れにくい話題だ。


「残念なお知らせですよね。しばらくヤれません」


「そんな事気にしないで! 神谷の体調の方が心配だよ」


「心配しないでください。私の場合1日目と2日目が辛いですがあとは割と平気ですから」




 学校での1日が終わり、神谷と家に帰る。


「今日は自宅に帰ってください。ウチに泊まってもヤれないので」


「うん、分かった。でも何かあったら呼んでね。すぐに行くから」


「何かって、何ですか? 別に病気な訳じゃ無いんですよ」


「それもそうだね……」


 神谷の家まで来たところで俺は「じゃあ、また明日迎えに来るから」と言って一人で自宅に帰った。




 + + + + + 




 神谷雪の視点


 スマホが気になって、何度もメッセージアプリを確認してしまう。何度見ても新着メッセージは届いていない。


「くそっ、ヤれない時は連絡も無いのかよ!」


 わざとらしく独り言を呟き、ソファーに向かってスマホを放る。


 ……分かってる。橘君は私の事をいつも気にかけてくれている。でも、メッセージを送っても私が塩対応するのが分かってるから、送ってこないのだろう。


「一人って、退屈だな」


 呟き、スマホの画面を見るといつの間にか「ちょっと来て下さい」と無意識にメッセージを入力していた。


 来て、か。口実はどうする? 一緒に勉強しよう……、は不自然だな。ゴミ捨てに行って……、はなんか悪い気がするし。いっそ、一緒にいて欲しいとか言ってみる……?


 無理無理! 首を左右に振る。はぁ、一人で何やってんだろ……。


 一人でのたうち回っていると、送信アイコンに指が触れ、メッセージが送信されてしまった。そして、すぐに既読が付いた。


 ど、どうしよ! 何かいい口実は……。思考を巡らせるも、なかなかいい口実が思いつかない。 


 その時インターホンが鳴る。


 えっ、もう来たの? いくら何でも速すぎるでしょ!


 私は口実が思いつかないまま、玄関のドアを開けたのだった。  




 + + + + + 




 橘直矢の視点


 夕食を食べ終えテレビをぼーっと見ながら神谷の事を考える。大丈夫かな? 病気じゃないって言ってたけど、顔色悪かったし。


 その時、メッセージの着信だ。「ちょっと来て下さい」俺は家を飛び出し神谷の家に全力で走って行った。


 神谷の家に着き、インターホンを鳴らす。玄関のドアを開けて神谷が出てくると、息を切らしている俺を見て質問する。


「なんでそんなに急いで来るんですか?」


「だって俺は神谷の事が大好……、大事だから」


 危ない。大好きって言いそうになってしまった。もしそんな事を言ったらきっと「気持ち悪いですね。バカなんですか? ヤらせてあげてるからって勘違いしないでください」とかって冷たく言われるんだろうな。そうしたらこの関係すらも終わってしまうだろう。


 神谷は俺を睨んでいるように見える。大事って言葉もまずかったのかな。


「大事なセフレですか。まぁいいです。少し調子が悪いので、ゴミを捨てに行ってもらえませんか?」


「何だそんな事か。すぐ行ってくるよ」


 ゴミを捨てを終え、神谷の家に戻ってきて、再びインターホンを鳴らす。出てきた神谷に質問した。


「用事はそれだけ?」


「ええそうです」


「じゃあ、またあした」


「ちょっと待ってください。せっかくなのでお茶でも飲んでから帰って下さい」


 俺は神谷の家に上がり、リビングに通される。俺は神谷が用意してくれたお茶を飲む。神谷はリビングのテーブルで勉強をしている。また、空いている手で顔をいじってるな。神谷の左側に行き両手で左手を捕まえる。神谷は目を見開き驚いたみたいだったが、すぐに平静に戻る。


「ああ、また左手で顔を触っていましたか」


 俺は笑顔で頷く。神谷の手は俺より小さくて白い。すべすべしているので触っていると気持ちいい。俺はついスリスリとさするように指を動かしてしまった。


「何してるんですか? 気持ち悪い」


 神谷に睨まれ怒られる。


「ごめん、神谷の手がすべすべしていて気持ちいいからつい……」


 神谷は一瞬だけ俺の方を向いたかと思うとすぐにノートの方に視線を向けた。


「……別に言うほど気持ち悪くもありません。好きにして下さい」


「あ、ありがとう」

 

 俺は控えめにしばらく神谷の手をスリスリしてから自宅に帰った。




 神谷が生理になったと言ってから7日たった。今日も二人で学校から帰っていると、神谷が俺に言う。


「もう生理は終わっているんですが、なかなかヤらせろと言ってきませんね」


「そうだったんだ。なんかそういう事を言うのは悪い気がして……」


「意外ですね。生理中でも構わずヤらせろと言ってくると思っていたのに」


「そんなに俺って鬼畜に思われてるのかな?」


「えっ、鬼畜ですよ」


「う、すいません」


「でも、今日はするんですよね?」


「出来たらヤらせて欲しいです」


「いいですよ、今から私の部屋に来てください」


 神谷についていき7日ぶりのセックスをした。




 ――とある休日


 神谷を見ている。最近は顔のニキビも減り、肌も綺麗になってきてるな。


「神谷って、髪の毛邪魔そうだね。美容院とか行かないの?」


「行ったことは無いです。いつも自分で切ってます」


「そもそも私は人に顔を見られたくないので髪を伸ばしているんです」


「でも、最近は神谷の顔は綺麗になってきているし、隠さなくてもいいんじゃない?」


 神谷は「くっ」と声にならない声を上げ、俯き赤くなる。照れているのか?


「俺がいつも行っているところに行ってみる?」


「橘君は美容院で切っているんですか?」


「そうだよ、髪型にこだわりがあるわけじゃないけどね」


「床屋だと顔剃されるから。昔、顔剃しなくていいて言ってるのに顔剃りされて、俺肌が弱いから剃刀負けしてひどい目にあったんだ。それからは床屋には行ってない」


「美容院って言っても、俺の行ってるところは気取った感じじゃなくて入りやすいよ。店長さんも気さくでいい人だし」


「そうですか……」


「よし、行こう」


 特に嫌ではなさそうなので、二人で美容院に行く。店に入ると店長さんが笑顔で挨拶してきた。


「橘君、こんにちは」


「この子の髪を、可愛く整えて下さい」


「橘君の彼女?」


「いえ、セフ……」


 神谷に半眼で威圧されて口を塞がれてしまった。俺は店長さんに苦笑いで頭を下げた。


「とにかくお願いしますね」


 俺はしばらく座って待つ。「終わりましたよ」と店長さんの声が聞こえたので、神谷を見ると可愛くなっている。


 なんとなく重たくもっさりした感じの長い髪型から、すっきりとサラサラな感じになっている。長さは肩にかからないほど。ボブというのだろうか? ……美人だ。


 毎日俺とストレッチ、筋トレ、体幹トレーニングをしているからかスタイルも引き締まっている。もう一度上から下まで見る。あぁ美人だ。


 神谷が「……どうですか?」と恐る恐る俺に感想を求める。


「似合ってる。可愛いよ!」


 俺が思った通りの事を言うと、神谷は無言で俯くが口元は緩んでいるように見えた。


 見た目は気にしないと言いつつも、美人には余計に発情してしまうのは男のさがなので、今日はいつものセックスよりも気持ち良かった。




 ――月曜日


 明らかに美人になった神谷はクラスのみんなに注目される。神谷があんなに美人だったのかとみんなが口々に褒めているのでなぜか俺も誇らしかった。




 それから数日が経った。神谷の内気な性格は変わらないが、自分の容姿の劣等感が無くなった事で、自信が出てきたのか姿勢が良くなり、それによってさらに美人オーラが出るようになっていた。


 そんなある日、いつもどうり二人で学校から帰り、いつもどうり神谷の家のリビングで勉強をしていると、唐突に神谷が俺に話しかけてきた。


「今日の昼休み、見並晃みなみあきら君に呼び出されて、好きだと告白されました」


 それで神谷は昼に教室にいなかったのか。見並と言えば、校内でもイケメンで有名な奴だな……。何組の奴だっけ? いやそんな事より告白されたって!?


「……その、OKしたの?」


「気になりますか?」


「それはもちろん」


「なぜですか?」


 俺は返答に迷う。しかし、意を決して告白する。


「俺も、神谷の事が好きだから」


 情けない話だ。他の男が神谷に好きだと告白したのを聞いて、「俺も好きだ」などと言うのだから。本当はずっと前から好きだったのに。


「やらせてほしいとは、私の目を見てはっきり言うくせに、好きだと言うのはやけに弱々しく言うんですね?」


 それもそうだ。断られるのが分かっているとはいえ、伝えたいことなら目を見てはっきり言うべきだった。俺は神谷の言葉に答えられずに俯き黙ってしまった。


 神谷は、大粒の涙をこぼしながら俺が今まで聞いたことが無いような大きな声で言う。


「今までさんざん私の事を性欲のはけ口にしてきたくせに、一度だってキスもしてくれないじゃない! セックス以外で私を抱きしめてくれたことも無い!」


「そんな奴がよく私の事を好きだなんて 言えたものね!」


「私というセフレがいなくなるのが嫌だっただけでしょ!?」


「心配しなくていいよ、告白なら断ったから。悔しいけど私は橘君の事が好き! 大好き!」


「あなたは私の事なんてただのセフレとしか思っていなくても、私はあなたの事が好きで好きでたまらない!」


 その言葉に俺は衝撃を受けた。俺は神谷に近づき抱きしめる。


「ただの言い訳なんだけど、神谷はいつも俺と距離を取るような話し方をしているから、俺の事そんな風に思ってくれていたなんて全く気が付かなかった」


「だからキスとか抱きしめたりとかは嫌なのかなって思ってた。俺の本当の気持ちを神谷が知ってしまったら、振られてもう一緒に居てくれなくなるかもって悩んでたんだ」


「神谷の事、本当はずっと前から好きだった。セフレじゃなくて恋人として俺と付き合ってほしい」


 今度はしっかり神谷の目を見てはっきりと言った。


「本当なの? 証拠見せて」


 俺の腕の中で肩を震わせながら目をつぶる。俺は神谷の唇に自分の唇を寄せていき触れさせる。しばらくして唇が離れると、神谷は涙を流しながら笑顔になる。


「初めて、キスしてくれた……」


「ねえ、今からしよ」


 俺は神谷に誘われるまま部屋にいきセックスをした。


 いつもの神谷は俺が果てるまで無反応だが、今日の神谷は紅潮した顔で声を漏らしていた。その可愛らしい様子に俺は何度も唇を重ねた。


「すっごく気持ちよかった」


 初めて神谷が気持ちいいと言ってくれた。俺もいままでで一番良かった。


「それにしても、さんざんやることをやっといて好きって言えないなんてどんな神経してるんだろうね?」


 神谷が笑いながら意地悪を言ってくる。神谷との距離感がとても嬉しい。


「神谷! 好き! 好き! 大好き!」


「はいはい」


 神谷は微笑み、俺の頭を優しく撫でてくれた。


「でも神谷に好きってたくさん言われて嬉しかったなぁ」


「そんなに言ってないでしょ?」


「好き! 大好き! 好きで好きでたまらない! って言ってたよ」


 神谷は赤くなり俺の胸に顔をうずめて小声で呟く。


「だってずっと前から好きだったんだもん」


 あまりの可愛らしさに俺は思わず抱きしめてキスをしてしまう。




 出会いと過程はともかく、俺は念願の彼女を作ることが出来た。いつまでも仲良くできるといいな。






 ――その後、とある日の夕方。


 12月になり寒くなってきた。雪の家のリビングのローテーブルもこたつになり、俺と雪はイチャつきながらこたつに入っている。


 テレビでは、たまたま”あなた達の馴れ初めを教えて下さい”といった内容の番組がやっている。

とあるカップルの彼氏さんは、「こいつが電車の中で痴漢に間違ったのがきっかけで……」などと言っている。


「痴漢に間違われるって結構致命的だと思うけど、苦労したんだろうなー」


 俺はポツリと漏らす。すかさず雪は俺に突っ込みを入れる。


「私たちの出会いも大概だと思うけど」


 それもそうだ。そういえばあの時、なんで雪は自殺しようとしていたんだろ?


「雪ってさ、あの日なんで自殺しようとしていたの?」


「ホントはね、本気で死ぬ気なんか無かったんだよ。確かに川角達が嫌がらせをしてくるだろうって考えたら学校に行きたくなかった」


「相談できる友達もいないし、親もほとんど家にいない」


「だから、自殺する振りをすれば誰かが警察に通報して、親に連絡がいくんじゃないかって思ってたんだ。そうすれば騒ぎになってしばらく学校も行かなくて良くなるかもって」


「まさか、変質者に見つかってヤらせろって言われるなんて思ってもみなかった」


「変質者ってひどいなぁ」

 

「嘘だよ、直矢君が私を見つけてくれた事、今でも感謝してるよ」


「おかげで私はとっても幸せなんだから」


 雪は俺に抱き着きながら満面の笑顔を見せてくれる。


「俺も雪と付き合えて幸せだよ」


 雪が俺に顔を近づけてきたので、唇を重ねる。何度キスしても飽きる事の無い柔らかな雪の唇の感触。密着する面積が少しでも多くなるようにお互いに深く絡ませる。俺は気分が高まってしまい雪を押し倒す。


「もう、直矢君はしょうがないなぁ……いいよ」


 雪は潤んだ瞳で微笑む。俺達はリビングでしてしまうのであった。|

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自殺しようとしている女の子に死ぬ前にヤらせて下さいと必死にお願いした結果。 ゆさま @hekspyz

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