信仰の日 5
昨日の予定通り、二日目だがこの街を出ることにした。アフロ男は昨日のミサの間にトランクに詰め込んで隠しておいた。
今日はホテルの綺麗なお姉さんが関所前エレベーターまで見送りに来てくれた。
「皆さまのご案内が出来て、私は幸せでした。またこの街に来て楽しんでください。さようなら」
今生の別れかな?
でも羽美の事を考えるともうこの街には足を運ぶことは無いかな。車の窓越しのお姉さんの表情を見ると申し訳なくなってくる。
「とても楽しめました。ありがとうございます」
「じゃあねー」
後部座席を占領している羽美だけは別れを告げなかった。不機嫌そうに地上の方を眺めている。
僕らからお姉さんが見えなくなってから、小型無線に何かを告げるお姉さん。
「契約違反者が天に登りました」
ポーン
エレベーターが地上に到達した。
車ごと乗るエレベーターのため大掛かりな開閉装置だ。
開いた先にはエレベーターを囲むように放物線に銃を構える人がずらりと並んでいた。
「まてまてまてまて!早まるな!」
「主教さま!契約違反を許してはなりません!」
その放物線の内側に主教が焦るように立って制止を求めている。助けてくれているのだろうか。
「おい峯崎!変な気を起こすなって言っただろ!」
「田島さーん、なんですかこれ」
「なんですかじゃない!うちの決まりで永住を決めた奴はこの街から抜け出すのはご法度なんだよ!」
どうやらアフロ男をトランクに乗せてる事はバレバレのようだ。
主教は僕らの実力を知っている。だから、街の人達とぶつかったらどうなるか想像が着いてるようだ。
「あー……」
「旅人さん、どうかそこの背信者を降ろしてください。手荒な真似はしたくありません」
あくまで自分が主導権を持ってると確信を持っている淡々とした声。何故か反抗したくなる。
「そんなに無理やり取り返すほどの男には見えないのですが」
「いいえ、その男は背信者です。即ち神への冒涜。我々は神への愛の印としてその男を処罰しなければならない」
「やめろ、お前ら!銃を降ろせ」
「分かりました」
案外すんなりと銃を下ろした。それでも包囲が解けたわけでもなく、諦めた様子もない。
「みのりん、これって皆殺していいの」
「待って竜胆」
竜胆が人数を数え終えて、顔が臨戦態勢に入っている。
出来るなら殺さずに穏便に済ませたい。
だが願い叶わず、一人の信者が一歩前へ出てきた。
「旅人さん方、貴方たち昨日協会で茶菓子を貰いましたね」
「ん?」
竜胆が貰った物の事だろう。
「主教さまがあの様に警戒される方は珍しい。ですから、私たちは安全策としてその中にナノ爆弾を仕込ませて貰いました。これは、身体に吸収されて血液の中に爆弾が流れるのです。排出されることは二度とない」
「はぁ」
昨日の茶菓子がどうなったか思い出してみる。
「誰が食べたか存じません。ですが、食べた方は確実に亡くなります。このスイッチは押したくありません。どうか背信者を」
そのスイッチを押せば誰かを殺せる。だが押さないで善意の提案のつもりだろう。
満面の笑顔で完全にマウントを取ったような顔をしてる。いかれている。
「お、おい!両者止まれ!」
「田島さんごめんなさい。けど、そんなナノ爆弾なんてもの僕が信じると思います?」
「残念です」
カチッ
悲しい顔だが、躊躇いはせずに押された。
ブォーン!…ガンッガッ!
トランクの中から爆発音がしてその場は静まり返った。
僕らは無傷で終わった。
………
…
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