信仰の日 2

知恵のリンゴを食べた人間は

楽園を追放された


神に創られた人間は

その半身を神に捧げなければならない



「みのりん!りんここに住む!」


 ホテルに着いて一息ついた竜胆がふかふかの布団に抱きついている。


「僕は残らないよ?」

「じゃいいや」

「まぁリンが気に入るのは分かるけどな…俺は絶対に嫌だね」


 心底ここの住民とは気が合わない様子の羽美。だが部屋を見回して、完全に否定はできないでいる。

 端的に言えば、スイートルームだ。

 水に困らない時代と言っても部屋にジャグジーバスはそうそうお目にかかれない。


 ワインやウイスキーに日本酒、豊富な酒とつまみもある。

 竜胆が抱いている布団も絶滅したはずの、羽毛がはみ出ているのが見える。


「この部屋がタダ…」


 不満は無いが、ここまでいい部屋に案内されましてや無料は不安になる。何か世界的に重要な人物にでもなった気分だ。


「街の規模も今まで見てきた中でトップクラスに生活水準が高い。人も多い、多すぎる」


 悪いことではないが、羽美はやはりこの街が気に入らないような顔だ。

 コンコン


「失礼します」

「どうぞー」


 ホテルのスタッフだろう、澄んだ女性の声だった。

 扉から現れたのは、多少着飾って装飾されている服を着た綺麗な女性だ。


「?」

「これから二時間ほどこのホテルに従業員が居なくなるのでお知らせに参りました。ご不憫をお掛けしますが何卒ご理解ください」


 見た目通りと言うか、小綺麗な言葉使いでむず痒くなる。行商人でもなければ、ただの旅人にそこまで畏まらなくてもいいだろう。


「あ、うん、ありがとう。ご連絡感謝します」


 なんか釣られて慇懃な返事になった。


「これからこの街の人達はミサへ参ります。賓客の方々は強制ではありませんが、よかったらご参列できますので、ぜひお立ち寄り頂けると嬉しいです」

「ミサ…わかりました」


 返事をすると、女性は申し訳なさそうに部屋を後にした。


「あんな綺麗な女性が、見ず知らずの僕らにこんなに献身的にしてもらえるなんて、ちょっと困惑しちゃうね」

「なんだ?興奮でもしてんのか?」

「綺麗な女性ならここにもいるんですけどー?」


 素直に感想を述べただけのつもりだったが、何か地雷を踏みかけているのに気づいた。二人の視線だけで、心臓に直接ナイフを突き立てられている気がする。


「あ!そ、そ、そうだ!暇だしミサへ行こう!うん!行こう!」

「まあ、暇だからな。行ってみるか」


 羽美は少し緩んだが、竜胆のナイフは消えない。だが無理やりミサへ行くことにした。

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