1章

試験の日 1

 今の世界では耐水性の車が常識。僕らが乗るのはクロスカントリーの旅人用だ。

 舗装された道。当たりを見回すと水車が回っていてもうすぐ街に辿り着くのが分かる。


 視界が悪く見えずらいが、水車に数人の人が居るのが見えた。水車も定期的に点検、改修をしないとならない。水車管理は難しいが、生命線だから重要な仕事だ。


「お、がんばってるねぇ。水車整備班は大変そうな仕事だよなぁ」


 後部座席の羽美が窓に肘をかけながら、しみじみと見ている。僕も運転に支障がでないくらいに流し見る。


 関所だ。車の窓を開けて対応をする。

街の一部だが唯一地上に顔を出している部分。ここから地下に入ることが出来る。


「三人か」


 腰に拳銃を下げた警備の人が二人、真面目に事務的な声で確認事項をチェックしている。


「はい」

「所属は?」

「NPO法人『伽藍匣(からばこ)』所属で、定住はありません」


 警備のお兄さんは驚いていた。


「旅人でしたか。珍しいお客人ですね。訪問の理由は?」


 今の世の中、旅をする人はほぼ居ない。

 世界各地を渡り歩かなければ仕事が出来ない職業でない限り普通はどこかに定住する。街を移動する仕事でも大体はどこかの街に住居をもつ。


「人探しです」

「なるほど、わかりました。こちらは、滞在証とこの街のガイドブックになります。女性のみでの旅は危険もあると思いますが、うちはいい街なので是非楽しんで行ってください。どうぞ」

「……ありがとうございます。」


 簡単なやり取りをして、地下に入るためのエレベーターへ車を移動させた。


 エレベーターを出た先は、青い空が広がる街並み。太陽が二つ、当然偽物だが晴れと同じに見えるくらいに上手く作られている。遠くには木々が生い茂っているのが見える。

 広々とした空の下には住宅が並び建ち、道路も数キロ先まで見える普通の街。

 これが全て人工物。


「宿だ!穂!宿に行こう!」


 後部座席を横に寝転がり独り占めしている羽美が久しぶりに街に来て興奮気味に行き先を指定してくる。


「そうだね。ふかふかのベッドで寝たいよね。役所は宿を取ってからにしよう」


 平和な街中、宿を利用するのは貿易商か稀な旅人くらいしか使わない。だから一つの街に一軒くらいしかない。

 当たりを見回すが見当たらずに適当に車を走らせる。横の助手席では宿を探すより飯屋を探して見回す竜胆。

 突然何かに気づいて焦った様子。


「みのりん!窓しめて!」

「え?」


 唐突で何に焦っているか分からないが、指は窓を閉めるボタンを押して閉じることは出来た。


 パリンッ!パーン!

 閉じたばかりの窓は飛翔物を受け止めて粉々に割れた。


「うぉぁああー!何!」


 窓ガラスの散る音とは別に、地面に乾いたカランと物が落ちる音がした。下を確認すると木刀が落ちている。

 一軒家の影になってる庭から飛んできたようだ。

 その家の影から今度は鉄砲玉のように走る男の子が現れて、顔も見るまもなく土下座してきた。


「ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!訓練をしてたら手元が緩んで木刀を離してしまいました。弁償するので殺さないでください!」


 一瞬本当の敵襲だと勘違いして、着ていたスーツの胸ポケットにある得物を構えてしまったが、男の子を見て思考が停止した。

 何より敵襲なら羽美が真っ先に気づく。

 チラッと横目に羽美を見るが、何も気にすることなく寝転がっている。


「いや…えっと…なんか、ごめん大丈夫だよ」


 つい得物を構えてしまった自分が情けなくて、申し訳なくなって謝ってしまった。

 土下座する少年の片腕は無かった。

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