原色世界のミッドナイト

四流色夜空

一章 どうしようもなく息吹き始まるぼくたちの季節①

 人は運命を呪う生き物だ。

 首根っこをつかまれ、絶えず揺さぶってくる世界の意志を前にして、人々はひ弱な自分の腕力を嘆き、ただ足元を見つめることしかできない。

 自分の身の丈より5センチだけ低いその運命だけしか人は呪うことができない。

 幾多の壁に追い潰され、人は無垢で清純な意志を持つのを諦めさせられ、わりあてられた運命を承服することを強いられる。

 しかしどれだけ運命を受け容れられたとしても、人が疑念を手放すことなどありはしない。人は自分の意志で歩いてきた道を振り返り、それが世界の意志である運命によって彩られていることを知り、こう思うのだ。

「なぜ、こんなことになってしまったのだろう?」

 僕だって御多分に洩れず、その引力に引き込まれてしまった者の一人だ。

 僕は、僕の運命を呪う。ごくありふれた、平凡で、味気ない人間たちの一員として。

 僕は世界を憎んでいる。

 窒息してしまいそうなほど、憂鬱で、閉塞し切った、このくだらない日々を憎んでいる。

 それゆえ、僕はナイフを持つ。

 僕は僕を閉じ込める愛すべき少女を殺すために。

 運命に対するささやかな足掻きとして。

 そう決断したその日の僕は、世界線を軽々跳躍してしまう彼女が現実に僕の目の前に現れてしまうなどということは、言うまでもなく、ついぞ予期することはなかった。


   *


 桜が散りかかり、若葉が芽吹く季節になった頃だった。僕はめでたく高校の三年生へと進級し、春の慌ただしさをその身で感じていた。そんなときのことだった。

 僕はクラスの係り決めで決まった化学係の業務をこなしていた。化学係りというのは、先生を手伝って授業で使う用具を準備したり、化学室の簡単な掃除を行なったりする授業別係の一つである。だが、もう五月の上旬だというのに、僕ら――僕、堤裕介と、もう一人の化学係、檜垣翠ひがきみどり――は前年度末の大掃除の残り作業をしていた。教室の半分くらいしかない化学準備室で、前年度までの資料集の整理が僕たちに課されていた。我が校の資料集は各自の購入ではなく、貸出し制となっているのだが、およそ十年分にもなる膨大な量のそれを分類分けし、ビニール紐で縛っておくという根気のいる作業である。

 隣で椅子に座りながら机の上で資料を坦々と分けていく檜垣もそろそろ疲れ気味なようだった。肩まで垂れる軽やかな髪も、ワンポイントの髪止めも明るいんだけれど、残念なほどに目がその辛さを訴えている。

 僕は彼女をチラチラ盗み見ながら、手を動かした。窓から入り込む春の風が彼女のセミロングの髪をさらりと揺らせていた。

 僕は三年生になって初めて一緒のクラスになった彼女を先日見かけたことを思い出していた。

 一昨日の日曜日、僕は国道沿いの北野霊苑へと足を運ばせていた。

 季節の変わり目にここに出向くのが、無意識のうちに習慣となっていた。

 春雨に打たれた墓石はしっとりと濡れそぼり、僕は無言で手を合わせた。

 一年半前に建てられたその墓石に僕は冥福を祈る。

 もし現在も生きていたなら、僕を取り巻く環境もこんなに落ちぶれてしまうこともなかっただろうに。

 死者を出したあの事件は、不運な被害者も多く生み出すこととなった。

 僕の他愛ない日常もあの不幸の影響で一転し、暗澹たるものになってしまったのだ。

 僕の生活は、言わばあのときに終わってしまったのだった。

 だから、僕はせめて没した死者を弔うことにする。

 どうか、静かに眠っていてください。

 そして、できれば僕たちのことをやさしく見守っていてください。

 数か月に一度はここに戻ってきてしまう僕を突き動かす感情とは、あるいはいたわりや慰撫といったものよりは、負け惜しみに近いのかもしれない。

 僕は誰のことよりも僕のことを悼んでいるのだ。

 だが、動機はどうあれ、大事なのは行動だ。

 祈ることによってのみ、祈りははじめて祈りになる。

 僕はこうして一人で手を合わせている時間が好きだった。他のどんなときよりも、自分自身と向き合える気がするからだ。

 礼をして心を清めた僕は、墓地を後にした。

 川沿いの土手を歩くと、対岸に植えられた桜並木が咲き誇っているのが見える。

 僕の頭は、否が応にも二年前の、そして三年前の春のことを思い出し始める。

 幸福と不幸を比べ始める。

 懐かしい匂いが僕のあちこちをくすぐっていた。

 川の流れは泥で濁って、水かさも普段より上がっている。

 最近の空は気まぐれで、雨が晴れの合間によく降った。

 だからアスファルトは毎日のように濡れて、黒く光っていた。

 急速に温かくなる気温に空模様がなんとかバランスをとろうとしてるかのようだ。

 僕は昔好きだった歌を口ずさもうとしたが、メロディは記憶の狭間に埋もれてしまい、唇は乾いた音を吐きだすだけだった。

 土手を歩いていると、つやつやとした蛙が一匹ぴょこんと道を横切った。

 それを合図に、晴れていた天から大きな雨粒が降り始めてきた。

 僕は傘も手にぶらさげていたけれど、休憩がてらに近くに設えられた四阿あずまやに立ち寄った。

 雨脚は強く、束の間に風景は雨一色に染められていった。

 バタバタと土手の斜面に育った雑草たちが雨に激しく打たれる音が聞こえてくる。

 木でできたベンチから僕がぼんやりと外を眺めていると、女の子が荷物を傘代わりにタタタと駆けてくるのが見えた。

 その女子は四阿に駆け込むと、一息ついた。

「はー。丁度良かった」

 スカートの裾を絞る彼女はずぶぬれで、白いシャツには下着がくっきり透けていた。

 僕はその後ろ姿を見たきり、彼女をしかと見つめることができなくなった。

 ……おそらく彼女は雨から見を防ぐ手段を持ち合わせていないのだろう。

 ……僕になにかできることはないだろうか。

 良心の声がうるさく囁きだす。

 僕はなんだか居た堪れなくなって、彼女が向かいに座ったところで、そそくさと席を立った。

 まだしばらく止みそうもない空を入口で見上げると、僕はぶらさげてきた傘をバサッと広げ、鞄の中から折り畳み傘を取り出した。

「あの……。これ、使って!」

 僕は彼女に聞こえるように大きな声で言うと、傍のベンチにそれを置き、すぐさま外へ出て行った。

 呆気にとられた様子の彼女は一拍置いて、

「あ、ありがとう!」

 僕は一時だけ振り返ると、逃げるようにしてその場を去った。

 また正義ぶってしまった自分の偽善さに嫌気が刺すのを感じながら。



 化学準備室で黙々と作業を進めながら、僕はそんなことを思い出していた。

 そのときは分からなかったが、こう近くにいると僕は四阿で最後に一度だけ見た彼女の顔が檜垣に似ているような気になってくるのだった。

 気の迷いだろう、と心の中で首を振る僕に檜垣は言った。

「ちょっと休憩しましょうか」

 作業はそろそろ残り半分を切ったところだった。

「そうだな」

 僕は頷いて近くの渡り廊下に設置された自動販売機から紅茶を二つ買ってきた。教室で待っていた彼女がそれを受け取って飲み始めると、そっと窓の外に目をやった。

「ねえ、さっきの二年前の資料集の表紙って地味だと思わない?」

「ああ、地球が表紙のやつか?」

 それはごくごくよく見かけるタイプの、宇宙から見た青い地球の写真が掲げられたものだった。僕はまだ縛ってないそれをひとつダンボール箱の中から拾い上げ、パラパラめくった。

「地味って言えば地味だけど、こんなもんだろ」

「そうかな」

「どういう意味だ?」

 僕は些か訝しげに訊ねた。

 檜垣は窓の外から僕へと視線を向けると、何かに不満があるかのように口を尖らせた。

「そんなバーンと本の頭に地球があるのっておかしくない? まるで世界はちっぽけだって認めてるようなもんじゃない」

「はあ。そんなもんかな」

 彼女は人差し指で円を描いて見せた。地球を示しているらしい。

「バベルの塔って知ってる?」

「え? ああ。一応のあらすじだけはな。あれだろ、人間たちが一か所に集まって天まで届くような塔をつくろうとした。神はそんな驕り高ぶった人間たちの傲慢さに腹を立てて、その塔を崩し、集まっていた人々をバラバラの場所に離散させたって話だろ。それによって統一されていた言葉も散り散りになって、通じなくなってしまった」

「大体あってるわ。でもね、一説にはそれは言葉じゃないのよ」

「それはなんなんだ?」

 檜垣は僕にぴんと立てた人差し指を向けた。

「結晶であり、世界よ」

 そう言った。

 そう断言した。

 返す言葉もない僕に、彼女は続けた。

「あるいは意志といってもいい。結晶は意志を示しているのだからね。旧約聖書にあるバベルの塔は、結晶でできた硝子の塔だったの。結晶は人の意志を反射する希少な媒介物質だった。人は世界の意志に対抗する自らの意志を積み上げ、世界を統治しようとした。しかし世界の意志はそれを看過することなく、鉄槌をくだし、その塔を粉々に破砕した。密度の高い結晶が集積した塔は断片となり、各地へと散り散りとなった」

「それが地球が小さいっていうのとどういう関係があるんだ」

「古来から、人にとっては結晶こそが世界だったからよ。物理学や量子力学が発達し、人類は工業化し、幾度の産業革命に至る路線を辿ってきたわ。そしてそれは情報革命へと深化した。それで人々はすべてのことが分かったつもりになっている。けれどね、そもそも世界は物理的な計測の対象となることはないのよ。それでは必然的に多くのことを捉え損なってしまう。科学や情報は自然を支配する万全の方法ではないからなの。ならば、世界に人はどう相対していたのか。それは意志を通じてなのよ。人は世界に意志を見て、世界は人に意志を与えていた。支配や服従にはいつだって意志のネットワークがあったのよ。その継ぎ目には到るところで結晶がきらめいていた」

 檜垣はゴクゴクとジュースを喉へ流し込むと、僕の前にずいっとからだを近づけると、こちらを上目遣いに見つめた。

「ねえ、君なら分かるでしょう、堤くん」

「はあ?」

「力の萌芽をその身に宿した堤くんなら分かってくれるわよね?」

「だから、なにがだよ」

 僕は一歩後ずさった。

「どうして『信じられない、なにこの電波女』って顔してるの?」

 彼女は無邪気そうに首をひねった。

「そりゃするだろ、普通!」

 僕は意味不明な戯言を喚き散らす彼女に失笑した。

「いったい何言ってんだ。産業革命に情報革命に隠された本当の自然征服の方法だって? それでなに。意志だって? こじつけにもほどがあるだろ」

「アー! もう、堤くん分かってないよ。ほんと分かってない。可愛げもなく、さらっけもない。むしろ尊大だよ。おこがましいよ。君は自分のこと、なんだと思ってるの。なんなの、世界のことを知りつくした神様なの?」

「なにもそこまで言われる必要ないんじゃないか」

「あるに決まってるじゃない。君は全然自分のことが分かってないんだね……。これからが思いやられるったらないわ」

 彼女は眉根を揉んだ。

 こっちがしたい仕草だった。

「ま、とりあえずやってみましょう。善は急げ、石は熱いうちに打てっていうことわざもあるし」

「やるってなにを……」

 僕の返事を待たないうちに、檜垣の右手は僕の右手を握っていた。

 その瞬間、手のひらが燃えるように焼け、腕を介さぬスピードで脳髄が痛んだ。視界にあった教室の床はその色を失った。失ってぐらりと揺れた。いや揺れたのは僕自身だったのかもしれない。とにかく身体がふわりとした感覚に包まれて視界が揺れた。

 しかし顔を上げると彼女は何事もなく、にこっと笑っていた。

 貧血かもしれない、と僕はからだを立て直し、彼女を見やった。

「で、これがなんなんだ」

「誓いの握手」

 彼女はいささか挑発的な視線をもって僕を見つめた。

「誓い?」

「すぐに分かるわ」

 檜垣はそう言い残すと、鞄に手をかけた。

「じゃ、帰るから!」

「なんでだよ!」

 僕は早くも教室の扉に手を掛けようとした檜垣に叫んだ。

「まだ作業残ってるだろ。どうして急に帰るんだよ!」

「続きは明日の放課後やりましょう。先生だってすこしは許してくれるわよ。整理してないのは適当にダンボールに詰めといてね」

 そう言うと、檜垣は驚くほどあっさりと教室をあとにしたのだった。

 取り残された僕はしばし呆然としていた。

 いつしかグラウンドのサッカー部や陸上部の掛け声も聞こえなくなっていた。

 なぜだか孤独になった僕は、他にしようもないので、やりかけの作業を放棄し、空いた箱に整理していない資料集を詰め込んで、棚の隅に置いた。

「……なんだってんだ。あんな子がこないだの子なわけないよな。もしそうだとしても完全に向こうは気づいてないみたいだし」

 昇降口から外に出ると、西陽が強くなっていた。僕は歩きながら、檜垣が言っていたことについて考えた。

 結晶、世界の意志、バベルの塔……。

「無茶苦茶だ。説得力がまるでない。雑な話にもほどがあるだろ」

 僕はすぐに考えるのをやめた。

 代わりに頭に浮かぶのはふわふわとして柔らかそうな女の子の姿だった。

 それは僕の掛け替えのない友達のこと。

「僕にはすべきことがあるんだ。長く鎖のように日常を縛る因果を断ち切ってみせるために。それが僕たちのための唯一の道だ。計画を立て、策略を練らないとな。僕は構ってる暇などないんだ、あんな妄想同然のたわごとなんかに――」

 僕はそこまで言うと、言葉を失った。あまりにも大きな違和感が僕を襲っていた。

 僕が歩いていたのは、なんでもないいつもの通学路だった。

 しかしそれはボタンをひとつかけ違えたみたいに、いつもとは異なった通学路だった。

 電柱が家屋の石塀のそばに立ち聳え、アスファルトの地面が僕の前に伸びている。

 僕は突然目の前に立ちはだかったゆらゆらとそよぐ暗黒のものを凝視した。

 得体の知れない、非現実的な物体が僕の前に存在していた。

 僕の前に立っているのは、二メートルほどの高さの人の形をした影だった。

 影と言っても、実体はある。ただ、それは影と呼ぶ他に形容のしようがないほど、黒く、ぼやんと、のっぺりとしていた。

 その影が三体、僕を待ち構えるようにして道を塞いでいた。

 そのからだは闇が凝縮したように黒い。平坦のない濃い、空洞のような黒さだった。

 人の形をしたそれらは地面に届きそうな長い手をだらんと下げ、かすかにからだを震わせていた。顔は直線でもなく曲線でもない不安定な輪郭によって囲まれた巨大なもので、目と口は穴があいたようにぽっかりと凹んでいた。

 まるで映画に出てくるゾンビのようでもある。

 けれどそれが人ではないことは一目瞭然であった。

「なんだってんだよ!」

 僕は途端に踵を返した。

「あっ――」

 振り返ったすぐ先にも別の影たちが行く手を遮って立っていた。

 僕はいつの間にか囲まれていたのだった。

「そんな……! 誰か、誰かいないのか! 助けてくれ!」

 僕は精一杯に叫んでみたが、通りは自動車はおろか猫一匹も通っていない。僕の叫びは果てのない静寂に埋もれて、掻き消された。

 影の一体がノソリと足をこちらに向けた。

 僕は逃げ場を求めて後ろを振り向く。

 後ろ側の影は相変わらずそこにいて、その中の一体ものろい速度でこちらにジリジリと迫ろうとしていた。

 捉えようのない恐怖が胸を衝く。何体もの影が僕を狙って、追い詰めようとしていた。

 視界を満たす黒い割合が高くなる。

 じきに僕は動けなくなった。

 何歩かでも動こうとすれば、影に接触してしまうまでに距離が縮められていたのだ。

 夕暮れの強い陽射しの中で、僕は悪い夢を見ているようだった。

 影の中の一体が長い腕を振り上げた。

 僕は決心して、両腕をクロスに固めると、目を瞑ってその影に向かって突進した。

「う、うおああああああああああああああ!!!」

 柔らかな感触が腕に当たり、跳ね返されることを覚悟で、僕は上半身を前に押し出した。

 勢いよく振り下ろされた影の腕が僕の背中にクリーンヒットする。

「ぐぎっ……!」

 けれど僕は構わず、瞑った両目に力を入れ、水を被って火に飛び込むときのように後先を顧みず突っ込んだ。腕が焼けるように熱くなり、その熱の流れが心臓に届くのが分かった。すぐにその熱はからだの隅々まで行き渡り、全身が焼けるように熱をもった。

「はあ……はあ……はあ……はあ……」

 気がつくと、僕の周りの違和感は消失していた。

「や!」

「おおっ!?」

 いきなり肩を叩かれ、振り向くとそこにいたのは檜垣だった。

「お前! 先帰りやがってなにしてんだ。いや、こっちはそれどころじゃなかったんだからな!」

 僕が取りみだしがちに彼女に口角泡を飛ばすと、彼女はにっこりと笑って、僕の右手を握ってこう言ったのだった。

「合格だよ、堤くん」

「……どういうことだ?」

 立ち尽くす僕を横目になぜか檜垣は楽しそうにしていた。

「やっぱり私の目に狂いはなかったのね。安心したわ。流石だったわ。ダメだったときのことは敢えて考えないようにしていたけんだけど、それも杞憂だったわね」

「何言ってるんだよ。分かんないって!」

「まあまあ、落ち着きなさい。発情期の犬じゃないんだから」

 檜垣は僕の肩をポンポンと叩いた。

「分からないことはまず自分の頭で考えてみなさいって教わらなかったの? 理解できなかったらまず訊くって言うのは小学生まででしょ。自分のためにならないわよ。いくら初体験だって相手に頼ってばかりじゃみっともないでしょ、そうじゃない?」

「いやいやいやいや!!! そうじゃない? とか言われても、分かんねえもんは分かんねえって! なにか知ってんなら教えてくれよ! あの影みたいのはなんだ? それに目に狂いはないとかも言ってなかった――」

「それじゃ仕方ないわね、ひとつだけ教えてあげる」

 檜垣は、僕の問いを総括するように、落ち着き払った調子で言った。

「あなたは――選ばれたのよ」

 檜垣はくるっと踵を返すと、後ろ手を振ったまま、スタスタと歩き去ってしまう。

 また取り残された僕は、檜垣の言葉とさっきまでの光景を反芻する。

 幻覚だったのか?

 いや、それはないだろう。

 じゃあ、あの影みたいなのはなんだっていうんだ?

 選ばれた?

 僕が?

 気がつけば、太陽は沈みかけ、遠くで自動車のクラクションが鳴り響き、道の真ん中に立つ僕のそばを迷惑そうにしながらバイクが通り過ぎた。

 僕は通学路に立っていた。いわば僕の帰り道だ。

 細い影を一本伸ばして立っていた僕はモヤモヤした気持ちを抱えて家に帰ることにした。

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