コンドル狩り


「ところでいつになったら鷹狩り始まるんだよー」とジローちゃんのウザ絡みが始まった。

 いやいや、そんなことより、その謎アイテムのことを追求すべきでは、と輪駆リンクは思ったが、ポン太が乗っかった。

「そうだぞ、鷹狩りするっていうからついてきたのに、呑気に飯とか酒かっくらってる場合じゃないだろ!」

 ううむ、とサーク第二王子が唸り、仕方ないといったていでふたりに弓を渡した。適当な武具ではなく、実にしっかりとした弓だった。

「鷹狩りというのは、つまりコンドル狩りのことだ」

 言い含めるようにサークが言葉を紡ぎ、そのせいで輪駆の頭の上に疑問符が浮いた。

「それだとコンドル狩りなのでは……?」

「コンドル狩りには種別ランクがある」

 完璧に輪駆の発言を無視していた。

「コンドルにも種類があるが、我々が狩るべきはクランキーコンドル。日に三羽以上のクランキーコンドルを狩れるようになればクランキーコンテストの出場資格を得、コンテストで最優秀を手にするならば、クランキーセレブレーションとして貴族に匹敵するものとして敬われる。それが鷹狩りだ」

「コンドル狩りじゃん!!」

 サークが弓を輪駆に手渡す。思ったよりもずっしりと重みがある。和弓よりは 洋 弓 アーチェリーに近い。黒光りするそれは、しかし漆塗りのような重厚感もある。

「やっぱ鷹狩りといえば馬に乗ってだろ!」

 ジローちゃんが小走りに愛馬(?)に向かおうとするのを制して第二王子は言った。

「それはまたちがう競技になる」

 まあ、流鏑馬やぶさめとかそういうノリだもんなあと思った輪駆に、サーク曰く、

「馬上で狩りを行う場合は鷹追物たかおいものとなり、次回の天国は確定とならない」

「天国確定」

「なんだよ、それじゃつまんねえな」とジローちゃん。「天国にならない鷹狩りとか、無駄な前兆で追加投資と一緒じゃん」

「それはそうと」とポン太が口を挟む。「あなたはなんでも我々の世界のモノを取り出すことができるのか?」

 そうだよ、そういうとこ訊けよ! と輪駆。

「残念だろうがなんでもではないな」

 抱えるバスケットに眼を向け、

「出せるのはこの大きさ以下の物だし、願えばなんでも出せるというわけでもない」

 そうかー、とジローちゃん。「それじゃあパチンコ台とかスロの筐体きょうたいとかは無理だなあ」

「そのバスケット以下のものなら出せる可能性は高いのか⁉︎」

 どこかまくし立てたいのをぐっと堪えるような調子でポン太が言った。

 サーク第二王子は、ハタで見る分には愛嬌のあるジャムおじさん顔を曇らせ、小さく息を吐いた。

「貴殿が何を望んでいるのかはわからないが、その可能性は低いだろうな。例えばノートPCやタブレットといったオーバーテクノロジーは出せる可能性が低い」

(え、ちょっとPCとかいう概念あるの⁉︎ 箸もフォークもないのに⁉︎)

 輪駆の疑問に反応したかのように、サークが彼へと眼を向け微笑んだ。

「こちらの世界と貴殿らの世界とは決して遠く隔たってはいない。とはいえ、私のように<繋がりし者チェインクロニクル>でなければ、認識すら難しいかもしれないが……」

 輪駆は唾を呑み込んだ。

 意を決して訊く。

「あなたは、本当にこのモナコ皇国の第二王子なんですか?」

 単なる幻聴かもしれない、しかし輪駆にはそうと思えないモグラから届いた声が抱かせた疑問を本人に問う。

 これはひとつの賭けだった。

 もしかすると、

 エナーコのような四天王のひとり、この世に破壊(?)をもたらそうとする存在が王子の名をたばかっているかもしれないからだ。その危惧が事実であるならば、こうして問うこと自体が正気の沙汰ではない。

 ふ、とサークを名乗る男が微笑わらった。

「なるほど。一番能力を感じない貴方からその疑問が出されるのか。面白い」

 輪駆は身構える。

 手にした弓をつがえる——ような咄嗟の判断や動きはできなかったが、相手の出方次第ではその弓を叩きつける、ぐらいの覚悟はできていた。

「いや、そいつは第二王子とかじゃないだろ」

 あっけらかんとした声音でジローちゃん。

「そんなことより早くクランキーコンドルしようぜ!」

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