長い一日の終わり

 戦う精神は持ち合わせていないとはいえ、防御・守りといった精神は流石に存在したらしい。エリュシオン第二王女の命によって、エナーコは衛兵に担がれて地下にあるという牢へと送られていった。

「闘争しないのに牢とかなんか矛盾を感じないですか?」

 輪駆リンクが小声でいうのに、ぽん太、

「まあ、昔は座敷牢とかもあったとかいうし、何か抑えの利かないものを閉じ込めるための機能ぐらいあってもおかしくないんじゃないか」

「抑えの利かないもの?」

 ぽん太はより声を潜めた。「<闘争の力>が発現してしまった民衆、とかな」

「考えすぎじゃないですか」

「だといいけどな」

 再びの食堂で、王女が気持ちを切り替えるようにポンポンと手を叩いた。

「思わぬ出来事で中断してしまいましたが、晩餐ばんさんを再開しましょう」

「焼肉屋いても家焼くなってやつかな」とモグラ。

「古いなあ、でも、そこがイイネ! 晩餐館ってちょっとサンバルカンに似てね?」とジローちゃん。

 また訳の分からん話をしてるよ、と輪駆は呆れながら魚の香草焼きのようなものに手を伸ばした。もう冷たくなってるけど、美味い。塩加減が絶妙――

 ああ、と気づいた。

 基本が手づかみだからだろうか、もとからそれほど熱くない料理ばかりなのだ。

 ピカゴロウの精とかいるぐらいだから、きっと火を司る精霊とかもいるはず。なんだっけ、バーニングチーム? いや、しかし四大精霊とかいったか。だとしたら、その下位の火の精がいて――

「それにしても、ジローちゃんさん、あなたの<闘争の力>には心底驚きました。あんな強力な<能力>ちからがあるなら、<異形のモノ>オールド・ワンを掃討することも可能なんじゃないでしょうか!」

「どうだかね」とジローちゃん。「急に頭の中で声がして、俺は従っただけだからよ。また使えるのかどうかすらわからんね。ほれ、チカラっていうなら」

 視線の先にはぽん太がいた。

「え、俺?」

 サイコ・ガンをテーブルに据え、器用に右手だけで食事をしていたぽん太が急に向けられた視線にへどもどになる。

「いや、確かに打てたけどさ……なあ、サイコ・ガンって何よ?」

「へ?」まさか自分に話が回ってくると思っていなかったモグラは少しむせてから、

「サイコ・ガンっていったら『コブラ』以外の何があるのよ。宇宙を股にかける 宇 宙 海 賊 スペース・パイレーツ、稼業に嫌気が差し、自ら顔を変えて平凡な人生を歩み始めるも、時代がそれを許さなかった名うての名プロデューサーよ」

「プロデューサー」

「あ、ごめん、それはアイドルマスター・コブラのほうだった」

「アイドルマスター・コブラ」

「そんなことより」とモグラが輪駆のほうにニヤッと笑ってみせた。「おいらは、正直、あんたの<それでも!>のほうが気になるね」

「いやいやいや無理無理無理」

 輪駆は思い切りかぶりを振った。

「自分でも、何がどうしたらああなるのかさっぱりわからないもん。アテにされても困る」

「そうですよねえ」とエリュシオン。「あの<能力>ちからこそ、人外の――神の領域ですね。人の身に余ると思います。もし自在に操れるようになったら……」

 先の言葉は続かなかった。

 そのあとジローちゃんが何か卑猥なことをいって、女性陣の白い目と馬鹿笑いする男性陣(というより、ほぼモグラひとり)が行き交い、<能力>ちからについての話は立ち消えになった。

 めいめいくだらない話をしたり、妙にしんみりとしたり、場の様相は二転三転しながらも、おおむね楽しく晩餐は進み、終了した。


    *    *


 王女手ずら各自部屋を案内され、「もう少し飲み明かそうぜ」というおっさんふたりの誘いを断り、輪駆はベッドに腰かけた。

 自分の知っているベッドとは明らかに異なる感触。少し硬いが、いまの疲れた躰には十分以上に役目を果たしてくれそうだった。背中から倒れるようにして横たわり、すきま風の侵入など防げそうもない木窓に背を向け、丸まってウトウトとなった。

 思ったより寒くないのは、なんとかの精のお陰なのだろうか。

――さっき外出たときもそんな寒くなかったな……。

 季節が違うのか、それとも常春の国なのか。

 半分微睡んだ意識で、なんか変な夢を見ていままさに起きようとしているのかも、とか考えた。



「それでも!」



第一話 パチンカスが異世界にいったところで、成せば大抵なんとかなる! (了)

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