|四天王《カルテット》
パチパチパチという
「すごい! すごいです! みなさん、本当にありがとうございます」
曲線を描く階段を降りるのももどかしい様子でエリュシオンが
「この城を襲う脅威は
輪駆が声をかけるより早く、ぽん太がいった。「どうしたマゾ美。なにか心配事でもあるのか?」
「なんか歯が痛いのよ……心配事もあるけど」
「心配事?」
屈託ない眼差しでこの場唯一の同性を見るエリュシオンに、マゾ美は深々と溜息を
「あなたがさっき言ってた、えーと楽園?」
大宮が抜けてるぞ、とモグラが茶々を入れる。
無視してマゾ美。「あれ、きっと本当なんでしょうね。考えてみて。ナントカの壁の外に化け物が出てきて困るとかいってたのに、壁の中どころか城の中にゾンビがやってきてるのよ? これは――これを問題と思わないとか頭パープルヘイズよ」
確かに、と輪駆は思った。パープルヘイズはともかくとして。
城内にゾンビどもが来るということは、当然外界と内を隔てる壁の中にモンスターどもは侵入していて、つまり城の外は――
「でも、外に魔物の気配はないのよね」
マゾ美が呆れたような声音でいう。
「壁を抜けてきたゾンビがまっすぐに城に向かう。……あんな知能があるんだかないんだかわからない奴らが……痛ッ」
「大丈夫ですか」
「大丈夫よ、なんだろこの痛み」
「歯はな」
ジローちゃんがようやく息が整ったのか、滑舌の悪い、もとの気怠げな調子でいった。
「医者にいかなきゃ治らないんだぞ。どうすんだよ、ここ歯医者とかないぞ、たぶん」
「正露丸もなさそうだ」とモグラ。
「歯痛に正露丸って、おまえいくつだよ~」あっはっはと笑うジローちゃん。「あれだろ、ケガには赤チン、かぶれにはオロナインだな、おまえも」
「やだなあ」とモグラ。「おいら、そこまで歳食ってないですからあ。ケガにはマキロンですよー。転んだって~平気だもん♪」
おっさんふたりの会話を聞き流しながら、ふと抱いた疑問を輪駆は口にした。
「ねえ、マゾ美さん? 『外に魔物の気配はない』ってなんでわかったんですか?」
「そういえば、そうねえ。なんでだろ」
本人も心底不思議そうにしていたが、代わりにエリュシオンが自信満々にいった。
「それも
「ちょっと待って」モグラが首をかしげた。「そんな急に気まぐれオレンジロードみたいなルビ振られても」
「ルビ?」
ほんとこうるせえなあこのオヤジ、と思う気持ちをぐっとこらえながら輪駆、
「どういうことですか?」
「
「え?」
「え?」
エリュシオンが気を取り直すように小さく咳払いをし、皆を見回すようにして、
「広範囲なレーダーで異形の存在を感じ取る
ね、と念を押すようにいうエリュシオンに向かって、マゾ美は、は、はあ、と気の抜けた返事を返した。
本当かいな、という輪駆の疑念を読み取ったかのように(実際読み取ったのかもしれない)、エリュシオン第二王女は床に倒れ伏すゾンビを優雅な仕草でかわしながら出入口へと向かっていった。
遅れて輪駆、ぽん太、マゾ美の順に王女の後を追い、なにかくだらない
城の外に広がっていたのは漆黒の夜空と石畳の路面、それからはっきりとは見えないがおそらく丁寧に整備された庭園――その途中に
「月――!」
マゾ美のそれはほとんど悲鳴だった。
気持はわかる。
なぜなら月と思しきものが天空に六つも浮かんでいたからだ。
「今宵は月がきれいですね」
エリュシオンがぼそっと呟く。
「こちらの世界は――」と輪駆。「月が六つもあるんですね」
「そうです、わたしたちの間ではあの月の連なりを
「痛ッ!」
マゾ美が声をあげた。
「いる! 特別大きいのがいる――!」
六連星のひとつが、急な月食のように闇に呑み込まれた。
――いや、月との視界を遮るように、唐突に空に魔物が姿を現したのだった。
おそらく飛んできたのでもなければ、ずっとそこにいたわけでもなく、不意に、すっとそこに現れたのだ。
「おまえらが勇者か!」
ひどく幼く聞こえる声だった。そう、まるで久野美咲がアテレコをしているかのような。
「我が名はエナーコ。この世界を支配するため遣わされた
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