それでも!
おそらく二十体以上はいたであろう<奴ら>も、ジローちゃんの無双によって残すところ三体となっていた。
「大丈夫か!」とぽん太が叫び、
「おお、悪ィな、俺ばっかり楽しんでよ」
答えるジローちゃんの声はほとんど
「下がってろ」
ぽん太はジローちゃんの前に立ち、動作は鈍いながらも生者を求めて彷徨うことをやめない<奴ら>と対峙した。
「なんか作戦はあるのかよっ!」
ぽん太は背中で応える。
「なんとかなるだろ」
(なるわけねーだろ、ボケェ!)
そういうのを中二病っていうんだ、ジローちゃんぐらい頭空っぽのほうが夢詰め込めるんだよっ! と自分でもよくわからないことを心の中で喚いた。
けれど。
本当は自分こそが前に立ち、できることなら皆を救いたかった。
(ないのか⁉ 俺に、みんなを救う特別な力は!)
なにもピンと来ない。はるか先の光明すら見えない。というか、ひんやりとしているだろう石畳に横たわったゾンビどもの腐肉が撒き散らす臭いが耐えがたい。
(は、……吐きそう)
と、ジローちゃんがぜえぜえ荒い呼気のまま、輪駆の肩に手を置いて微笑んだ。
「まあ、なんだ。あんちゃんよ、たまには誰かを信じてみてもいいんじゃないか。魚群だって外れると思えば外れるもんよ」
「ええー、……それいま適切なんですか……?」
「じゃあサムだって外れるときは外れるのほうがいいか?」
「いや、それは色々とまずいんじゃ」
その時――
光があった。
おそらく何も考えず、何の策も持たずに<奴ら>に向かっていっただろうぽん太の躰が光り輝いていた。
まるでタイヤがバーストしたときのような烈しい音がし、次いで細切れになったゾンビの肉片が飛び散るのが見えた。
「な、ななな、なにしたんですか、
振り向いたぽん太の顔は半分泣いているように見えた。
「わからん……俺もなにがなんだか……」
ぽん太の左腕はなかった。
正確には左腕の肘から先、本来腕と手があるべき場にはあるべきものがなく、黒光りした筒状のものがあるだけだった。黒光りし、滑らかな曲線を描きながら細く伸びたその先端からは煙が立ち上っていた。
「サイコ・ガンだよ、それは!」
いつの間にか階下に降りて来たモグラがいった。
「精神の力で放つ、自由自在の強力な銃だ!」
まだ茫然としているぽん太に襲いかかろうとしたゾンビの一体の前に立ちはだかり、モグラは叫んだ。「俺が伏せたら、もう一発だ!
モグラはまるで導光版のような光の壁を作り出して、ゾンビの接触を拒んでいた。いや、ATフィールドといったほうがより的確か。
すっと身を沈め、「頼むよ、ぽん太さん!」
障壁が解かれ、防がれていたゾンビの手がモグラの頭上からぽん太へと襲いかかる。
だが、ぽん太は未だ茫然自失の状態から復帰できていなかった。
ゾンビのさして早くもない腕の一振りが、しかし触れれば人間などひとたまりもないだろう威力の気配を十分以上に孕んでぽん太の首に触れなんとした――瞬間、
輪駆は叫んだ。
「それでもッッッ!!!」
ぽん太の首が胴体と切り離され飛んでいてもおかしくはなかった。
が、
その光景/瞬時に反応してゾンビの頭をふっとばしたぽん太のサイコガンの映像――ノイズが走ったように入り交じり=勝利の光景の現出。
自らの腕が消滅してあわてふためいたぽん太の姿はそこにはなく→冷静に残る一体の頭を吹き飛ばす=城内の<奴ら>は殲滅された。
「やったな」とジローちゃん。
「それがおまえさんの力なんだろうな、
「ええーっ……なんそれ!」
輪駆はよろけ、けれども、まあ。
なんとか危機は乗り越えたみたいだし、よかった、と微笑んだ。
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