<闘争の力>
<奴ら>がやってきたことを伝えにきた兵士を先頭に、エリュシオン第二王女と異世界より召喚された五人は走っていた。
「あ、あかん。体力が持たん……ごはん食べて待ってりゃよかった」
弱音を吐くジローちゃんに、重そうな見た目とは裏腹に軽快に走るモグラが、
「いやいや。こういうときのセオリーでですね、集団からはぐれるなってのがあるんですよ。ホラー映画とか大抵そうでしょ?」
「俺もそう思うから」
息も絶え絶えにぽん太。
「こうして走ってるんだが、そろそろ限界っぽい。ムダに広いな」
「見た目シュッとしてるくせに情けないわね」
そうつっこむマゾ美は心なしか少し活き活きしているように見えた。華奢な印象のある彼女だったが、案外体育会系なのかもしれない。あるいは下らない会話と会話の応酬によほど
「ゾンビとか怖くないんですか?」と輪駆。
「え、ゾンビなの⁉」
「さっき<奴ら>っていってたし、その前に堂々とゾンビっていってたじゃないですか」
「え、そうだっけ? なんかここ来てから、みんな、言葉はわかるのに意味が全然わかんないことばかり話してるから理解するのあきらめてたわ」
「あ、怖くないんですね」
大食堂から石畳みの廊下を走り抜け、右往左往し、ようやく開けた場に出てきたかと思えば、そこがどうやら玄関口(?)のようだった。
(あ、ダメだ、これ)
どう見てもそこは、ゾンビ物によく出てくるような屋敷のエントランスルームめいていて、階段が左右から回り込むようにして上階に続く、ちょっと油断すると垂れ幕とか天井とかが焼け落ちて激しく炎上してしまいそうな場所だった。せめてもの救いは、ゾンビどもはまだ玄関付近の下の階でウロウロしていることぐらいか。
「どどどどうしましょう!」
案内してきた兵士が、案内したはいいものの途方に暮れたようにいった。
「どうしましょう」
頬に手を当てエリュシオンも二の句は継がなかった。
遅れてやってきたジローちゃんが階下の光景を見て奇声をあげた。
「わーお、バイオハザードじゃん!」
「ちょ……ジローさん!」
輪駆が止めに入るよりも早く、ジローちゃんは階下へ飛び降りた。手摺を軽く飛び越えて。
——え、ゾンビがいるのに?
ていうか、結構高さあるよね、こことそこ。
飛び降りながらジローちゃんが叫んだ。
「
<奴ら>の群れの、ちょうどジローちゃんが落下するであろう直径三メートル辺りにいた数体がふわっと浮かび上がった。
肉のガードのように両の拳を頭のあたりに構え、着地。
と同時に浮かび上がった数体はそのまま激しい勢いで旋回しながら高い天井へと打ちつけられた。
「ええっ!?」
階上から見つめていたみんなが驚いた。
「すげえ! まるでフィーバー花札のリーチみたいだ!」
モグラだけなんかちがう驚き方をしてた。
飛び降りたジローちゃんのまわりにはまだまだ多くの<奴ら>がいた。敵の存在に気づいた、とでもいうようにツナギ姿のおっさんに引き寄せられていく。
ジローちゃんが背後の上方、輪駆たちのほうへ顔を向け叫んだ。
「おまえらも来いよ! なかなか面白いぜ!」
「危ないッ!」
手を伸ばしてきた<奴ら>の一体の腕を取り、ジローちゃんはなんなくそれを振り回して周囲のゾンビを薙ぎ払った。
「……あれが
エリュシオンが恐れを含んだ声でいった。
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