奴ら
「へえ、なんか雑誌って大変なんですね」
「まあな」
虚空牙改めぽん太はうなずいた。
「でも、それは別にこの業界の話だけじゃない。どこでもそうだ。もともと専門誌なんてもんは広告で成り立ってたし、部数なんてのは広告をとるための数値なんだよ。これだけ部数が出るからこのぐらい広告効果がありますよーっていうためのな」
「へえ」
もう
「俺だって別にYouTuberとか成りたかったわけでもないし、そもそもパチンコだってたいして興味なかった。なんとなく友達がふざけてエントリーシート送りやがって、ひっかかったのがそこだけだったんだ」
「はあ」
「ちょっといいかげんにしてください!」
声を荒げたのは鳥肌ちゃんと輪駆が勝手に呼んでいた――マゾ美だった。
思い切りぽん太を指差し、顔を紅潮させていた。
「だいたいなんですかマゾ美って! あたし、そんな名前じゃないし、その名前を押し通そうとしているの編集部だけじゃないですか! どうして異世界まで来て、お姫様からその名前で呼ばれなきゃいけないんですか!」
輪駆がジローちゃんとモグラのほうに顔を向け、
(もしかして酔ってる?)
と心の中で問いかけると、ふたりがウンウンとうなずいた。
「あなたが!」とぽん太に苛烈な眼を向け名がらマゾ美。「きちんとYouTubeで名前を売れば紙面でデビューさせてくれるっていうから頑張ろうと思ったのに、なんですか、コンビニですら売ってないって! あなたたちはいったいあたしを何の紙面に載せようとしてたんですか!」
「……いや、売ってる売ってないはともかくとして、それは嘘じゃないから……」
「そんなもののために生まれたんじゃなーい!」
小声でジローちゃん、
「鬼束ちひろかな?」
「これからケバくなるのかな」
「まあまあまあ」
エリュシオン第二王女が仲裁に入る。
「あなたたちにも色々あるということはわかりました。人間ですもの。色々ありますよね。勇者として呼ばれたとはいえ、あなたたちにはあなたたちの生き方があると、強く実感しました。そこで――」
皆の視線が王女に集中した。
「わたしたちは、いえわたしはあなたたちになにものも強要しようとは考えません。それはもちろん、お力添えは欲しいですが、けれどそれを押し付けたところで双方にとっての幸福とは思えません。それは本意ではないのです」
王女の眼が潤んでいるように見えた。
が、それはこの場を照らす燭台の揺らめきが生み出した錯覚だったのかもしれない。
(え、じゃあ、なんで召喚なんてしたの?)
輪駆はもっともなことを考えたが、
少し斜に構えた恰好で王女はいった。
「こんなかに
輪駆は正直そっと手を上げようとかと思った。が、まだ王女の言葉は続く。
「
眼光鋭く、王女がとどめの一言を、
「いねえよなぁ!⁉」
場がシーンとした。
モグラだけがちいさく「おおー」といった。
なんだこの茶番、と輪駆が茫然としたその時――
「奴らです!」
絶叫が場に轟いた。
軽装の、けれど甲冑の騎士たちとはあきらかに違うホンモノの空気をまとった男が木戸をぶち破らん勢いで入ってきたのだった。
「映画やゲームじゃあるまいしゾンビと呼ぶわけにもいかないだろ! 奴らが城内に侵入してきましたッ!」
(ええ~、ゾンビって……)
武器も特殊能力もないのに、どうすんのよコレと輪駆は思った。
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