23.睦言 ゠ 恋情に狂わされずにいれるか
23.睦言・前 ゠ 夢影と凶兆の話
私の安眠は、それほど長くは続かなかった。
「……ん……む……」
複雑で、入り組んだ夢を、見た気がした。
人は、かつて経験のない情報を新たしく、与えられたとき。
あるいは、それまでの認識を
そんな場合には整理をつけるため、眠っている間にも頭を働かせ、これが夢として
たとえば、人が殺害されるところを初めて目撃したなど、衝撃的な
私も昨晩には、少女から多量の情報による洗礼を受けたもの。
ならば妙な夢だって見ようものだが、ただしその内容は
人とは普段から、そのようによく頭で思考するもので、これを十分に休めるためか、その眠りがどうも動物より深いようだ。
ひとたび就寝すれば、自己の判断によって目覚めるのは、
しかしこれが、奇襲夜襲の可能性に幾度も
これを経てしまえば、
もっともこんな、殺伐とした
私をこの
それはすぐ
何事か、と腕のなかの少女を確認すれば、目は閉じたままであるものの、その口は半開き。
緩慢な
「あ……んう……ん……」
これは
私はどうするべきか、迷った。
私の感覚としてもまだ、昼下がりほどに感じられる。
もう数年もまともに眠れていなかった、そんなような者を起こしてしまうには、十分な
それでも、何もせず迷ったままより幾分は
「……あ……」
「うん? 起こしてしまったか」
「ふう……」
少女のほうはやや
十分に予測できた事だったから、私は慌てることなく、それを後ろから抱き止めた。
「……あの。スィーエ」
「ナキュー、今日はお前はお休みだ」
「や、休み?」
「そうだ。お前のために皆で尽力をして、埋め合わせに当たっているそうだぞ」
「……なんてこと」
少女は私を振りほどこうとしたが、私は
「スィーエ、お願いです。離してください」
「
「そうですけど、そういう問題じゃあ
「では言葉を変える。
「い……
「そうだ
私がそう言ってやると、少女は一瞬固まったのち、弱々しく
「……なんて
効果は抜群だ。
私はさらに、畳み掛ける。
「そう言うお前もリテローンやルワリンには、なにやら
「! ……ど、どうしてそれを」
「さてな。どこかから漏れ出してきたんだが、配管漏れか何かかな?」
「どんな配管ですか! ……いいです、大体
おい女侍従よ、大体
大丈夫か。
「いずれにせよ、いま出ていくのはお
「う」
それで降参したらしい。
「そんな事より今、
「……はい。いえ。はい」
「よく
「そうですね……すこし、横になります。今日は甘えさせてもらいます」
──ふう。
もうひとつ
まあ、こちらだけ身を起こしていても
ふたり
「私は、
「そうだ。随分と苦しそうだったが何か、
「ええ、はい。あれは……そう。もはや、
「それはそうだろう、久しぶりに眠ったんだろうからな。夢を見るのも久しぶりだ」
「いえ、そういう事じゃあなくって。いえ、そういう事でも
「なんだ。私もそんなに夢見のいいほうでは
「そうですか。私はきまって、世界が
「世界が
「はい。月が、
「月が、
「でも月って、とても
「そうか。それは、避けれない物が
「はい、純粋に恐怖です。足の
「なんだ。
「
「ふむ」
「ところでその、月の墜落の直前なんですけど。これが
「ほう。
「それが
「なにを。私が、凶兆か何かのような存在だとでも言うのか」
「……あっ。いえそのっ、そんなつもりは……っ、あっ、あっ」
──ぐいっ、ぐいっ。
とりあえずその長い黒髪をぴんぴん引っ張ってやれば、少女が弱々しい悲鳴を
しかしこれは、どうも
まさかこの少女がこの世界が、実際にそんな
それにしても
こんなものがくり返されてとなると、眠ったところで精神安んずるどころか、
「それでは、せっかく眠れていても、あまり休まらなかったか?」
「……」
ふう。
ひと息ついてから、少女はちょっと伸びをして、それでも晴れやかな微笑をすこし見せた。
「いえ。本当に久しぶりに、眠りました……。
「その礼は、リテローンにも言われた事だがな。そう
「そうですか。でも、
「そうか」
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