自殺配信で死ねなかった僕は、どうやら存在価値があるらしい

@santakurousu

第1話 自殺配信

・久しぶりー

・ほんまに久々やな

・不定期なのは知ってるけど、二ヶ月も空けるのは駄目やろ…

・レイン君の声を求めて今までの動画百回くらい見直してたw


 とある動画投稿サイトで配信が始まった。

 ”レイン”という名前のそのチャンネルは、約二ヶ月ぶりの配信だった。予告も無かった事にも関わらず、既に三〇〇〇もの人が視聴していた。


  どこの会社にも所属していない無所属であり、収益化すらもしていない趣味程度のチャンネルでありながら、開始早々三〇〇〇人という数は驚異だとも言える。更に、企画という企画がない喋るだけのたった十三回の配信で、登録者が七万人を超えている。


・今日は外?風がうるさいな

・顔出しとか!?

・きっとイケメン。理想道理のはず…だ

・無理だよwこの声から連想出来るようなイケメンは二次元の世界にしかいない

・でもなぜに外なのだ?


 視聴者が困惑した中、そのチャンネルの主である”レイン”の声が響いた。


 『あーあー、こんにちは。みんな聞こえるかな』


 誰もが待ち侘びた瞬間だった。胸の奥まで響き渡り、引き込まれていくようなこの心地の良い声は、多くの人が魅了された。


・雑音が多いけど聞こえルンバ

・嗚呼、耳が浄化される

・なにが始まるのだろうか


 『今日もまた雑談なんだけど、聞いてくれるかな』


・おうよ

・発声してること自体に需要があるからな

・話もおもろいし

・なんや普通の雑談か


 『まずさ、みんなにお礼を言いたい。ありがとう』


・突然どした

・wwwこっちこそありがとさん

・……本当にどした?


 いつもに比べ、喋り方が真剣だった。


 『次の配信楽しみにしてる!とかいうコメント見たらさ、あれ?自分って誰かに必要とされてる!?なんて思えてきて、物凄く居心地が良くなったんだ』


・当たり前じゃんwww必要に決まってんじゃん

・現実に病んでる?じゃあネットの世界へ逃げちゃえ!!!あったけぇぞ

・あったかコメントビーム!


 『おこがましいとは思うけど、自分の存在価値を見出だせたんだ』


・おこがましいってなんだよ。自虐が過ぎるぞ

・今日ほんとに重いな

・いやガチで大丈夫?家で匿ったるから逃げて来てもええんやで

・……心配になってきた。リアルキツイの?

・スパチャ開放したら一生寝て過ごせるような金送るのに……

 

 『でもさ、現実の”レイン”はね、無価値な人間なんだ。誰からも求められないし、誰にも尽くせない。誰も自分を見てくれなくてさ。居ても居なくてもいい、みたいな。……案外、キツイんだよねこれ』


 フッと最後で笑ったつもりなのだろうが、全く茶化せていない。

 明らかに、無理をしていた。


・そんな自虐せんでも……

・おいお前もしかして……いや、大丈夫だよな?

・まあ少なくとも私らは求めてるからね。それだけは知っててほしい


 『でね、どうしようもなく空気だった僕が、去年のあの配信の日、みんなのあったかさに触れたんだ。――もう違ったよ、それからの一年が。輝いてた。誇張無しで、みんなは命の恩人だよ』


・ふははは。だろ?ネットの世界最高だよな

・命の恩人?

・うん。良い話だ

・誇張無しでって……


 『だからさ、ありがとう。みんなには、本当に感謝してる』


 その声は、少し震えていた。まるで泣くのを堪えているかのように。

 それからしばらく沈黙が続いた。ただただブレた地面が映り、風音と足音が聞こえるのみだった。

 それが、観ている人の不安を掻き立てた。


・おい、これガチでやばい雰囲気だぞ

・……ああ、マジなやつや

・え?そんなことある?

・ひとまず通報!いそいで!

・でもどうやって?居るとこ分かんないじゃん!

・通報じゃねぇ!俺らで説得するんだよ!


 しかし、画面からは僅かな反応も聞こえない。

 移りゆく地面が、視聴者の不安を煽った。


・波…波の音だよコレ!

・ってことはどこだ?日本で海と面しているとこ……ほとんどじゃねぇか!!!

・私んとこ内陸県だけど

・……おい……崖が見えたぞ

・もうこりゃ決定だ……

・うっそだろ、おい。待てよ、待ってくれよ


 『高いね。風が強いよ。でも絶景だ』


 落ち着いた声だった。けれど、やはり震えていた。


・特定した!沢口県の摩唐崖だよここ!自殺の名所って呼ばれてるとこ!

・近くに居るやつ駆けつけろ!多分コメント見てないわこの人!行って止めるしかない!

・やめろ……本当にやめろ!俺らが命の恩人じゃ無くなってしまうだろうが!

・流石にネタだろw


 崖の下では海が波打っているのが見えた。

 そこに、両足が映った。

 レインが崖際で足を垂らし、座ったのだ。


 『凄い風だね』


・おい……そっから落ちたら本当に死ぬんだぜ?洒落抜きで

・頼む……辞めてくれ

・警察まだなんか!!??

・通報は入れたよ!


 画面が空に切り替わった。 


 『雲の白と空の青がはっきりしてるね。本当に綺麗』


・あ…あああ…あああああ

・今この配信めっちゃ拡散されてるんだけど

・今来た。どういう状況?

・誰か間に合え!間に合ってくれ!

・レイン……レインんんん


 『電波ヤバいね。もう切るよ』


・おい

・やめろ!

・あああああ


 『ありがとう、ね』


・ドッキリ、大成功って落ち……だよな?――






 寝転がって手を大の字に広げると、息がしやすくなった。

 嫌味なまでに青い空は、スマホ越しで見るよりも綺麗だった。

 目をつぶると、風の音、波の音が聞こえる。

 心が澄んでいくような気がした。


 僕はもう一度座り直した。

 心臓はバクバクと音を立て、体は燃えるように熱い。

 決して、死ぬのが怖いわけでは無いはずだ。きっとここまで歩いてきて、疲れたのだろう。


 疲れた、か。


 うん。

 もう疲れたよ。

 全てがどうでもいいやって、思ってる。


 崖の下を覗き込む。

 足がすくむような高さだ。

 荒々しい波が絶壁に打ち寄せ、大きな音を立てている。

 飛び降りたら、一溜りもないだろう。

 だからこそ、ここに来たんだけど。


 けれど――やっぱり怖かった。

 いざ飛び降りようとすると、身体中が震えて動けなくなった。

 未練なんて、無いのになぁ。

 

 やっぱり死ぬことを、本能が拒否しているのかもしれない。


 ……まあ、これも予定通りだけどね。


 持ってきたウエストポーチの中から薬を取り出した。

 少し強力な睡眠薬だ。

 薬局で、前使ってた薬が効かなくなったって言ったら、これをくれた。


 一つずつ取り出し、口に入れていく。

 睡眠薬中毒という自殺の方法があるが、この強さの薬では死ねない。


 睡眠薬で頭がボヤけてきたときに、飛び降りるのだ。

 そしたら恐怖を感じなくて済むし、痛みも何もかもが幾分マシなはずだ。


 一〇粒ほどの睡眠薬を飲み込んだ後、もう一度寝転がった。


 効くまでに二〇分ほどの時間が掛かる。

 背中に当たるゴツゴツとした岩がやけに心地良い。

 潮の匂いが鼻をくすぐる。


 不思議と、心が穏やかになっていった。



 あれから何分か経った。

 なんだか、ふわふわする。

 睡眠薬が効いてきたのだろう。


 ああ、やっと死ねる。


 死んだら、きっと全てが”無”なんだろうな。

 痛みも苦しみも何も感じない、幸せな空間。

 

 楽になれるのだ。 


 僕は、ゆっくりと立ち上がった。

 足がおぼつかない。


 ここから一歩踏み出すだけで、死ねる。


 そう思うと、異様な高揚感に包まれた。

 死への恐怖など、既に無かった。


 「――っとそこの君、落ち着いて、引き返しなさい!」


 なんだか、どこか遠くから声が聞こえる。

 落ち着いて?

 これ以上ないほど、落ち着いているけどなぁ。


 「まず話を聞かせてくれ、それからだ。だから!」


 眠いなぁ。


 「止まって!今すぐ引き返して!」


 どこか遠くで、誰かが叫んでいる。


 ふっと、全身の力が抜けた。

 身体が前のめりに倒れていく。

 思考がままならない中で、しかし、はっきりと思ったことは――

 


 ああ、やっと死ねるんだ。








 





















―――

生粋の初心者ですので、矛盾点やおかしな表現が多々あると思います。見つけたときは、鼻で笑いながらこの憐れな著者に教えてあげてください。


楽しんで書きますので、頑張って読んでください!








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