第二話

 犯人は次の日、捕まった。あっけもないとは思うだろうが。


 鷹宮涼太朗たかみやりょうたろう30歳。職業、警察官。あの食堂にいた警官だ。シバと喋っていたあの警官。


 犯行時間は不規則。鷹宮の勤務も三交代制、犯行時刻と照らし合わせると休みの日と犯行時刻が一致していた。


 そして彼の食べ終わった後の異常なまでの綺麗な食べ方。魚の食べ方も素晴らしかった。綺麗なバラし方。


 ご飯粒も残飯も残さず彼は気づいてなかったようだが手慣れたように店のナプキンでソースや汁を綺麗に拭き取り、それらも綺麗に整えて戻していた。


 異常なまでの神経質さ。部屋の中も、派出所内の彼のデスクも綺麗に異常なまでに整えてあった。


鷹宮が言うには、仕事終わりに立ち寄るあの食堂で汚い食べ方をする同世代の男を見ると無性に腹が立ったそうだ。


 彼の両親は異常に厳しく、食事から何まで厳しくしつけられ、時に体罰もあったらしい。それは熱いスープを無理やり飲まされるという罰。


 母親に怒られないように異常にまで神経質になり、あそこまで綺麗に整えるようになったそうだ。

「僕は怒られるのに、あんなに汚い食べ方をするやつらは怒られないから腹が立った」

 にしても、ご遺体まで綺麗に整えるとは。


 とある時から食堂の味噌汁が熱くなったそうだ。そうして欲しいリクエストが増えて食堂で新しいコンロも設置され、熱々の味噌汁が出されるようになった。

 それを口にした時に、鷹宮の過去のトラウマが蘇り、たまたま横にいた汚い食べ方をする男の跡をつけて、声を掛け人目のないところに連れ込み殺してばらしたそうだ。


 鷹宮は事情聴取はシバにして欲しいとのようだ。

 動機を聞いてからだとシバはお腹すいて今すぐにかきこみたいほどの美味しそうなカツ丼目の前になかなか箸が進まない。彼に殺されるような食べ方だから。

 彼はもう食べ終わり、今回も綺麗に食べ終えた。


「まさか、警部とこんなに早くまたごはんが食べられるとは思いませんでした」

「……出てきたらお前が今度奢ってくれよ、あの食堂で」


 彼は頷いたが頭は上げずに下を向いて泣いていた。だが彼が出てくることはなかった。

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