第二話

 これまた前の事件とは別の日のことである。


 シバは休みの日に知り合いの子供を預かり、動物園に行くところであった。混み合う電車の中。子供たちは楽しそうにはしゃいでいる。

 知り合い、というのも……彼の女の一人であるシングルマザーの子供なのだが、付き合いが長いため子供たちからも好かれている。彼女が仕事の時に子供たちの面倒を見ることがたまにあるのだ。

 長男の斗真と次男の竜星。どこかで聞いたことのあるような名前ではあるがさておき。(もちろん関係はないし該当するアイドルとアナウンサーの特別なファンでもないらしい)

 すると急に電車が止まった。シバはすかさず子供たち二人を守った。


『ただいま〇〇駅にて人身事故が起きたため申し訳ございませんが運転を見合わせております』


 アナウンスがそういう。なるべくピーク時間を避けたつもりだが、利用客が何人かいるためみんなため息や不満の声、中には電話をしたりスマートフォンで調べている。子供たちもいて泣き叫んでいる子たちもいた。シバの連れていた子供たちは泣かなかった。

「〇〇駅で痴漢が逃げて飛び降りたらしいぞ」

「まじか、くそー」

「間に合わないから降りてタクシー乗ろうかな」

 と声が上がりだすと周りはざわつく。シバは子供達2人をシートに座らせて目の前に立っていた。


 すると年長さんの斗真が立ち上がってそばにいたお婆さんを触らせたのだ。


「あらまぁ、優しいこだね。お父さんもしっかり育ててくれたからかねぇ」


 お父さん、という言葉がでてビックリするシバ。外から見れば他人には親子に見えるのか、とシバは思った。顔は似てはいない。


「うん。シバくんは警察官でね、困ってる人には優しくしなさいって言ってたの」

「あらまぁ、お父さん警察の方なの。体格もいいし優しそうなお方ね」


 お婆さんにそこまで褒められると照れてしまうシバ。 

 すると座っていた斗真の二歳下弟の竜星も立ち上がり、近くにいたおじいさんの裾を引っ張り、座らせたのだ。


「おおお、ありがとうなぁ。助かるよ。お父さん、いいお子さんですなぁ」

「いや、とんでもないっす……」


 また父親と言われて照れるシバ。父親になるとこういう気持ちなのか? 既婚者ではないからよくわからない。

 自分の父親……本当の父親でないが里親の父はとても優しくて腰の低い人であった。自分よりも他人、女子供老人には特に優しい。多分その父に影響されたのかな、と感謝するしかなかった。と、なかなか最近会っていない父のことを思い耽る。

 

「この方、刑事さんですって」

「ほぉ、刑事さん。確かにそう見えるなぁ」

「はぁ……」


 明らかに勘違いされている。シバが刑事だという前提で2人の老人たちは盛り上がる。その時だった。


 シバの立っている横の50代くらいの女性がずっとこっちを見ていると気づいた。

 ん? と言いそうになったシバに女性が首を横に振り、ゆっくり目線を遠くにやる。


 何かを感じたシバはゆっくり後ろを見るとスーツを着た中年の男が若い女性の後ろにピッタリとくっついているのだ。


 シバは若い女性と目があい、彼女はシバに助けを乞いてるようだ。


 シバはアイコンタクトをした。

「ちょっと待ってろ」

 子供たちにそう声をかけ、2人は不思議そうにしながらも老人たちと話をしている。


 シバは少しずつ動きながらスーツの男の手元の動きを確認する。それを見て確信を得て男に近づき彼の左手を握った。

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