第三話

 数週間後、隣県の郊外にあるラブホテルで身元不明の女性の遺体が発見された。


 管轄は違うがシバは帆奈と共に向かうとベッドの上に横たわる全裸の女性。監察が入っているが頼み込んで入らせてもらった。

「後で瀧本さんに怒られるわね」

「べつにいい、それよりも……すごい匂いだな」


 手を合わせて遺体に近づく。頭には中身が血みどろで赤黒く染まったスーパーの袋、そこからは茶色の長い髪の毛が出ていた。


 中身はぐちゃぐちゃの肉片であろう。あえてシバたちはみなかったが、匂いがすごかったため帆奈はトイレで吐いて年上の鑑識に怒られていた。

 ここまでの状態は相当な恨みがないと為し得ない行為だ、とシバは思ったら


「袋を被されてその上から鈍器のようなもので複数回殴られてる。全裸ですが性交渉の跡はあるのですが……どう見ても残虐な……道具というよりも……女性の捜査官がいますからなんと言えば」


 捜査官は口を濁した。その行為は死んでからか、意識がある中なのかそれはわからない。

 ……もしかしてとさらに近づく。

「すまん、その布を……めくってくれ」

「あまり見るものではないですよ、さきほどのようなことを……」

「いい、そこじゃなくて……」

 遺体にかけてあった布を鑑識の者と一緒にめくり、そしてゆっくり彼女の太ももの内側をシバは見た。


「何やってるのよ、冬月!」

「バカ、帆奈! お前は見るな。また吐くぞ!」

 帆奈はまたトイレに駆け込んだ。


 シバは汗が大量に噴き出た。やっぱり、と。


 そこにポツンとあるほくろ、シバは見覚えがあるのだ。


『ここに黒子あるなんてセクシーでしょ』


 とベッドの上で妖しく微笑む梨花。脚を広げて見せてくれたあのほくろ。


「冬月……まさかこの女、あの結婚詐欺師の」

 帆奈は遠くからシバを軽蔑な目で見ている。彼がプレイボーイであることは知っている。まさかこの彼女と繋がっていたのかという目である。


 他の捜査員がホテルの近くの川から見つけたカバンから梨花の免許証が出てきたと電話が来た。シバは項垂れた。


 実は数日前から梨花は図書館から姿を消していたのだ。

 もうその時には彼女の犯行、示唆するものであると証明できた頃であった。


 その後彼女を殺した犯人はすぐ逮捕された。梨花に騙された男で、全財産や家族を失い相当恨んでいた。そして彼女を呼び出して殺害したようだ。


 それにしても相当な恨みである。被害者たちは彼女の美しさに惚れて煽てられ騙されたのにその美しい顔をぐちゃぐちゃになるまで潰したのである。

 

 この遺体が見つかったのちに他にも詐欺を働いていた仲間たちも逮捕された。中には梨花のように殺されたくないと助けを求めて自首してきたものもいた。


 シバはあの時、彼女に更に聞き出して自首させればよかったと。悔やんだ。


 救えなかった。……シバはなんとも言えぬ感情が入り混じりながら恐る恐る彼女の頭に被っている袋をめくった。が、これ以上はと監察官に止められ諦めた。

   


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