過去の事件1 自分に似た少年

第一話

 シバは県内の警察学校にて後輩たちに剣道を指導する。

「おいそこ! 隙があるぞ。はい、そこ! よくしっかり見て」

 色々と問題ありの彼だが上司の瀧本のおかげでOB枠として仕事をさせてもらっている。

 一緒に稽古をしたのは部下の茜部あかなべ。彼は大きな体格を生かし、柔道が得意だがシバが指導してるということを聞きつけやってきたのだった。

 指導も終わり、2人とも汗だくだ。

「やっぱりシバさんの指導は素晴らしいですよ。身が引き締まりました。さすが県内の進学校の剣道部を立て直したというからにはすごく的確なアドバイス、練習。僕もたまには剣道の稽古しないとなぁと思いましたよ」

 茜部がそうシバを褒め称えるとシバもまんざらでもない表情。唯一こんなにシバを慕うのはこの茜部くらいである。

 

「そうかー? それほどでもないが。だったらお前は普段はゆるゆるか。だから帆奈はんなも5人目妊娠してしまうわけだわ」

「そ、それは関係ないっすよ」

 茜部は顔を赤らめ必死に首を横に振る。帆奈とは茜部の妻であり、元警官でシバの相方でもありシバの元恋人でもある。


 帆奈は茜部と結婚してから警察を辞めたもののOGとして何回か職場復帰しているが出産と妊娠を繰り返し5回目の妊娠、つい最近産休休暇を取ったらしい。シバはなかなか元恋人には会うことはできないが年賀状や茜部の話で近況を知る。


「子供たくさんいて腹でっかくなるまであいつも仕事しててすごいなぁ……」

「警察の仕事は辞めるに辞めれんて言ってますよ。上の子2人なんてもう警察官になるって……」

「そうか、今からか。じゃあそいつも稽古つけてやる」

「あざっす」


 シバは過去のことを思い返す。帆奈とバディを組んでいた頃。男女ペアは反りが合わないと思っていたが、頭脳明快で体力のある帆奈はシバの足らないところに気が回る刑事だった。

 気づけば身体の関係になり公私共に常に一緒で結婚もささやかれていたが、シバの女癖の悪さが仇になり仕事の忙しさとシバのとある事件がきっかけで公私ともにパートナーを解消をした。


「てか茜部ぇ、お前の噂聞いてるけど女遊び気をつけろや」

 茜部はギョッとした顔をした。

「えっ、どこから!?」

「……」

 シバは茜部を睨む。茜部は1人おろおろしている。


「ウソだ、かまをかけただけだがやっぱ女は他にいるのか……。そうだよなー帆奈は仕事妊娠出産育児でお前のその精力の捌け口にならないもんな」

「……シバさん、なんてことを」

「まぁーばれんように頑張れよ、せめて1人か2人にしとけ。3人以上でわからんくなる」

 と茜部をポンと叩いてシバは帰って行った。


「……なんでばれたんだろうか。って……1人、2人……まぁなんとか大丈夫」

 茜部は指を数える。シバは茜部が剣道着を脱いだ時、彼の胸元や首筋にある赤い痕を見つけたのだ。

 帆奈はシバと交際時は一度もそういう痕を残さなかった女であった。まさか、と思ったようだ。それがまさかの的中である。


「ほんとなぁーやることやってんなぁ」

 と部下のことを心配するシバであった。自分のことは棚に上げておいて。







 道場から出て後ろから誰かの気配を感じるシバ。振り返りざまに右手で何かを受け止めた。


パシ!


 それは大柄の男の拳。


「すごいねぇー、シバ」

「なにやってんすか、瀧本さん」

 大柄の男は瀧本。シバの上司だった男で、彼がいたからこそ今のシバがいて、いろいろ不祥事を起こしているシバを救ってくれた恩人でもある。


「待ち伏せしてた」

「そして後ろから襲おうとするなんてひきょうだなー、たく」

「襲うだなんて人聞き悪いな」

「瀧本さんがここにいる、こういう時は何か嫌な予感がする」

 瀧本は苦笑い。シバもつられて笑う。



 2人は近くのベンチに座る。シバはたまに不意に登場する彼に対してこういう時は面倒なことか、嫌なことを押し付けられるとかだというのは大抵わかっているのだ。


「ご名答だ、シバ。昔と変わらず勘が鋭い」

「そうっすかねー」

「……嫌な予感、ていうかなんていうか」

「勿体ぶって言わないところが尚更胡散臭い」

「だよな」

「早くいってくださいよー、嫌な予感しかないけど」

 シバは足をだらけさせて瀧本を見る。


「ん? まぁ、そうだな。……郡山康二って覚えてるか」

「んー、あっ、あーあー。懐かしいっすね。親が詐欺やって捕まえたやつ。康二元気してだかなー。もう大学生くらいでしょ」

 シバは覚えていた。だいぶ前のことなのに。


「……捕まったんだよ、康二も」

「えっ?!」

「マジっすか、まさか親と同じく詐欺?」

 シバは驚きを隠せない。過去の康二を知ってるためそんな彼が捕まるような事件を起こすなんて考えられない、シバは息を飲んだ。


「まぁ詐欺といったら詐欺だよな」

「……なにやってんだよ、康二。最後に会った時は高校入ったばかりだったからな、その時はまともだった」

「その数年間で何が変わるか分からないのが人生だ、シバも刑事から今やフリーターだしな」


 瀧本が茶化すがそれを流してシバは考え込む。あの屈託のない笑顔と。


「なんであいつが……」

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