第18話
その後、シバの親が仕事の合間にやってきた。病院の産科で働いている親たちは二人の結婚に大いに喜んだ。
結婚と言ってもまだ口約束の状態だが、シバが婚姻届を後ほど役所まで取りに行くことになった。
「なにあんた、この匂い。まさ子ちゃんがこんな状態にあんたも退院したばかりなのに遊びに行ってたの? ほんと情けないよ……わたしゃ」
母親の紀子からまさ子の状態を聞くことに。
「切迫流産だったのよ。本当にまさ子ちゃんには申し訳なかったわ。私たちも交互にお見舞いに来てたけど彼女は献身的にあなたのそばにいてくれたのよ。リハビリも付き添ってくれてたし」
「……うん。お腹大きいからよせっていうのに足がもう動かなくなったら私が支えなきゃとか言ってよ。本当に頭が下がらんわ」
「ご両親もハワイからようやく明日こっちに着くらしいけど正直なところ今週が山場よ」
「はいっ?!」
シバは大きな声を出して紀子に小突かれる。
「さっきの検査で今週の数値次第では取り出さなきゃいけないのよ」
「まてよ、もう父親か」
「実感持て! あんたがまさ子ちゃんの中に出したからできてうまれるんだろうが」
「母さん……言い方っ、て……」
紀子のその発言でシバはハッとした。いつ自分はまさ子としたのか。避妊はずっとしていたはずなのだがと。
「あっ!」
「こら、声でかい」
シバは思い出した。爆弾魔の事件で疲れて帰ってきて床で寝てしまい、気づいたら朝になってて起きたらまさ子が全裸で自分の上に乗っかっていたことを。見下ろされてまさ子がニヤッと笑っていた。
自分も自分で気持ちよくてそのまま……果てた後にまた力尽きて二度寝してしまった! と慌ててシャワーを浴びてパンを齧って仕事に行った。
「あの時か……あの時」
「子供生まれてから無職もあれだが……家族のこと考えたら警察よりもまさ子ちゃんの経営を手伝ってあげなさい。あの子はやり手だから。でも少し暴走気味だから抑えるのはあなたしかいないのよ」
とシバは肩を叩かれる。
「さぁ早く役所行って婚姻届を取らに行きなさい。たぶん数日したら出生届も出すことになるけどね。未婚の子供だけにはしないように」
「わかったよぉ……」
シバは役所に向かうことにした。
トボトボとシバは病院から役所に向かっているととあるマンションが目についた。
「百合香ちゃん……元気かなぁ」
どうやらそのマンションにはシバと関係のある女性が住んでいるようだ。
それは今から5年前、20歳の百合香というソープ嬢がストーカーに監禁されてシバたち警察が救い、それが縁で二人は関係を持った。ソープ嬢ともあってテクニックはお手のものでしばらく風俗は通わなくてもいいとシバは満足するほどであった。
だがしばらくは会ってないなぁとぼやっと彼女の住んでいた階の部屋を眺める。
「もー、龍くん! 待ってぇ」
とエントランスから二人のカップルが出てきた。
「百合香ちゃん……」
そう、百合香。白のワンピースを着て長身の髭男のあとを追うように出てきた。
「あ……」
百合香もシバに気づいた。シバはニコッと笑いかけると
「……」
百合香は顔を引き攣らせた。
「誰だ、知り合いか?」
「……知らない、知らないわ」
シバはそう言われて、えっ? となる。長身の髭男は睨みをつけて見てくる。
「なんだよ、百合香のストーカーか?」
「違う、そんなんじゃない……てか百合香ちゃん、覚えてない? 俺のこと」
百合香は顔を背ける。すると後ろから子供が二人駆け寄ってきた。
「子供?!」
「ああ、俺らの子供だ。妻になんの用だ」
「妻?!」
もう一度百合香の顔を見ると首を横に振る。姿からすると昔はとても露出が多くてフリフリの服を着ていた彼女は清楚なワンピースを着ている。
相手の男はイカツイが高級時計やアクセサリーも身に纏っている。
百合香はソープ嬢を降りてこの男と結婚したようだ。
「よし行くぞ。百合香……おいお前も今度うろついてたら警察呼ぶぞ!」
とドスのきいた声で男に言われたがシバはびくりともしない。
そりゃ彼が警察でもあるが、百合香との関係を持っていたんだぞという自信もあった。
シバはそのドスのきいた声に対抗して睨みつけた。
夫である男は二人の子供を抱えて去っていく。シバはもう過去のことか、とフウ、とため息をついた。
その時、百合香が振り返った。そしてシバと目を合わせると彼女は自分の人差し指を口に含ませるように何度か出し入れした。もちろん家族には見られないよう。
シバはドキッとした。
「忘れてはいないじゃないか、百合香……」
百合香は何もなかったかのように家族の元に行く。
シバはハッとした。まさ子と結婚するから自分の肉体関係の相手との関係を清算せねば……と思ったがやはり無理にしなくてもいいかと、市役所に向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます