第3話 事件のあらまし1

 草壁麻美は結婚当初から受けていた夫の暴力と義父母による暴言により心身ともに疲れ切っていた。

 子供はおらず、主にそのことで姑からなじられ、義父からはセクハラまがいの発言を受けていた。

 助けを求めようととある時に目にした

「女性お悩み相談センター」

 のパンフレットを見て家族の目を盗んで電話をしたが経緯と助けてほしいということを伝えると市の相談窓口を紹介された麻美。


 自営で花屋を経営しており、隙を見て市役所に向かうが夫と義父母のいじめから逃げる資金はあるか、と聞かれた麻美は生活費しかもらえていなくて婚前の貯金を、ほぼ崩してしまいなにぶん大学卒業後に結婚したものだからすぐに底つきてしまっていた。


 大学卒業してすぐの結婚のため親に反対されほぼ勘当状態。一応実家にも電話をしたが相手にはされなかった。もう彼女には戻る場所はない。


「じゃあ無理ですね。あとは法テラスにでもいって弁護士さんと相談してください」

「なんで……わたし……旦那とその親から毎日のように暴言受けているんです! わたしが逃げろってなんですか」

「離婚となると裁判もありますしね、まだお子さんもいないことですが……ご実家にも行けないとなるとねぇ」


 相談員は50過ぎの女性職員で結婚指輪はめている。麻美の相談をニタニタと話半分で聞いていた。


 きっと相談員はコンビニで置いてある嫁姑問題を扱う漫画を読むタイプであろうか、実際のリアルな嫁姑の悩みを聞いて楽しんでるかのようであった。


「話を聞くことはできるわ。また来てくださいね」

 麻美は絶望した。家に帰っても夫から仕事や家事に関してダメ出しをされる。


 義父母たちも何も用がないのに家に居座り麻美の言動を監視してるかのようで少しでも何かあると後で蒸し返してネチネチと旦那と義父母が麻美の身体にめり込むかのように説教をする。


 麻美はすいません、すいませんと自分は悪くはないのだが自然とそう言葉が出る。そして涙も大量に。


「なんで泣くんだ、泣く必要はあるのか、泣いたらそれでいいと思っているのか!」

 夫はそう怒っても夜になり寝室に行くと

「ごめんね、麻美ちゃん」


 と言って麻美を抱きしめ、朝まで麻美とセックスする。あんなに怒ってるのに好きなのかと疑問を浮かべる。


 子供がなかなかできないからと避妊せず。麻美の血族が穢れてるからあんたが原因だからと責める義父母。旦那は検査を受けたことがない。うちの子が悪いというのか! 彼女 

それで説教を何度受けたことか。正座で2時間、ストレスで堕胎したこともあったが初期であったためそんなの妊娠とは言わないと言われた麻美はふと思い出す。あの相談員の話を。


「もしどうしてもダメと思ったら警察でも話を聞いてくれるから」


 また目を盗んで電話するが相談員に電話するよりも警察に電話するのには手に汗をかいている。

 警察だからだろうか。彼女は特に殴られたり暴力はされなかった。物的証拠はない。反対にセックスを拒んだ時に拍子に押して夫が箪笥にぶつかったということがあった。


「暴力だ!」

 と叫ばれた時は血の気がひいた。


 ああ、一発でも殴られれば麻美は誰かに救ってもらえるのに! と心の中で叫ぶしかできない。


 麻美はずっと思っていた。警察に電話するのに何度か躊躇ってようやく電話をするが


『今すぐは無理ですね、担当のものが〇〇日にいますから、ご予約致しましょうか。もし殴る蹴るとか命に関わる緊急性でしたら今すぐにでも』


 と、予約制だった。


 やはり殴られれば、麻美はそう思うしかなかったが偽装はできなかった。旦那と義父母は些細な嘘を嫌った。自分を守るための些細な嘘はつく人はつくだろうがそれさえも許さなかった。


 それが発覚して何度説教を受けただろうか、麻美はただ指定された日にちと時刻に人目を気にしながら警察署に入った。

 自分は何も悪いことをしていないのに、とハラハラしながらも指定された場所に赴く。


 が、やはり目に見えない暴力というものには警察はあの相談員と同様に何もしてくれなかった。麻美は絶望した。


 もう自分はこのまま死ぬまで地獄だ。家に帰ったら店の手伝いをしなくてはいけない。

 そもそも大学時代にふと立ち寄った花屋でバイト募集をしていて子供の頃から花が好きだった麻美はそこの店主に声をかけた。10歳上の店主は歓迎し、麻美を雇った。


 そして二人はひかれあい、関係を持ち麻美の大学卒業後に結婚した。


 それがいけなかった、鵜呑みにしてもっと彼のこと、彼の親のことを知っていれば結婚なんてしなかった。自分を責める。


「どうかされましたか」

 とその時、麻美は声をかけられた。


「顔が真っ青だ。まずはあちらで休みましょう」

 声が出なかった。そこには背の高いスーツを着ていた男が立っていた。他にも何人かいるのだが他のものに比べてラフである。すぐに刑事とはわからなかった麻美。男は微笑んだ。


 その男こそ、冬月シバであった。

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