第77話 ミーナの発見。

 ローレッタから逃げるように、公都の宮殿に転移。

 執務室に行って、キースに各国への伝達完了を報告して、冒険者ギルドに向かう。

 夕方というにはまだ早いし、ミケ達もギルドにいるかもしれないからな。鬼畜を見る様な視線には耐えなければならないだろうが……。


 ギルドは、依頼終わりの冒険者で一杯になりつつあった。

 テーブル席で座って待つ事にする。


「き、君~。またかい? 絶対ワザとだろう?」

「ん? ――! ゼンデルヴァルト!」

「な、なんだねぇ?」

「お前のせいで、俺に変な二つ名がついたじゃねえか!」

「な! 何の事だぁい? お、落ち着いてぇ」


 ゼンデルヴァルトにとっては、完全なるとばっちりだが、俺の気が晴れる。我慢してもらおう。


「おー、ユウト! 来ておったのか」


 俺がテーブルの下で、ゼンデルヴァルトの足を安全靴で蹴り続けていたら、ちょうどミケ達が依頼から戻ったようだ。アニカは受付の列に並んでいる。


「むっ? 誰じゃ貴様?」


 同じテーブルいるゼンデルヴァルトの事は、もうミケの記憶にないらしい。


「ほれ、我らが来たんじゃ、貴様はどけ!」

「どきなさ~い」

「は、はいぃ」


 ゼンデルヴァルトは、可哀そうに席を空けさせられる。


「ところでゼンデルヴァルト、お前……新しいパーティーメンバーは見つかったのか?」

「ま、まだだけど? この僕に相応しい人員を……」

「――そんなんだからダメなんだよ。お前は大したことないんだから、探すんじゃなくて、謙虚になって誰かのパーティーに入れてもらうんだよ。な? アニタ」

「うん! 大したことない!」

「…………」


 ゼンデルヴァルトは、しばらくポツンと立っていたが、肩を落として帰っていった。


 受付に報告を終えたアニカも合流してテーブル席に着いた。


「お疲れさん、今日はどんな依頼をこなしたんだ?」

「今日も街のお手伝いをたくさんしてきましたよ」

「ユウトのために、退屈な依頼をやってやっとるんじゃ、我らに感謝するんじゃぞ?」

「バカユートお兄ちゃんのパーティーだーって言ってきたからね!」

「……はい、ありがとうございます」


 明日からの事はここではできない話なので、みんなで宿に帰る事にした。


「クンクン、また女子の匂いをさせているな」

「それはもういいから。特に今日は、俺は被害者だからな」


 夕食を済ませて、部屋でケーキを食べながら、ミケ達にアムートやこれからの王権奪還計画を話す。


「なんじゃ、我らに町の便利屋をやらせておいて、そんな面白そうな事を企んでおったのか!」

「いや、面白そうって……。とにかく、明日からは、みんなでエンデランス王国に潜入するからな。4日で救出しなくちゃいけないからな、なんとか成功するように頑張るべ」

「「「おー!」」」





 王権奪還計画の第1段階発動まで、あと5日。ミーナ救出のタイムリミットは4日、ギリギリ粘っても4日半と言ったところか。

 今日は王都に行くが、その前にダイセンに寄ってみる。『花と火亭』に顔を出すためだ。

 全員に認識阻害をかけて、ダイセンの町の冒険者ギルドの屋根の上に転移した。


「宿の朝食の時間も終わって、忙しくないと思うから行ってみよう」


 カランカラン!


「朝食は終わったよー! あら? アンタは……、お兄さんじゃないかい!」


 そう言うと、ハッとした顔をして、無言で手招きをした。


「アンタ、手配されているよ」

「やっぱり?」

「ここに来る時に誰かに見られたかい?」

「いや、大丈夫だ。ただブレンダさんの顔を見に来ただけだよ」

「人相書きが出回っていてさ、あたしゃピンときたよ、お兄さんらだって。何したんだい?」

「ん~、今の国王を怒らせた的な?」

「はっ! そりゃいいねぇ。よくやってくれたね! それで、逃げ切れるのかい?」

「ああ、それは大丈夫。……ブレンダさん、買い物を頼んでいい?」


 手配されている事が確定したので、ブレンダさんにお願いして、フード付きのマントを4つ露店から買って来てもらった。


「ブレンダさん、もう何日かしたら、マシな時代が始まると思うよ。」

「え? 何言ってんだい? そんなの来るわきゃないだろ、今の王様でさ」


 『花と火亭』に別れを告げて王都に向かう。街に潜入したいので、《フライ》で飛んで行く。



 王都に着いたが、すぐには下りないで上空から王城を偵察する。

 塔なんて、そんなに無いと思っていたが、結構な数あることが判った。


 当然、城門から入れる訳ないので、空から潜入する。手配されているしな……。

 マントを羽織って、フードも被る。


 ミーナの捜索は二手に分かれてする事にした。俺とミケが王城、アニカとアニタは、念の為貴族街や街なかを捜索してもらう。

 王都にも大きな教会があるのだが、そこを定期的な集合場所にした。

 昼と夕方の教会の鐘が鳴ったタイミングで教会前に集合し、情報を共有する。

 今日は、流石に成果が無く、王都の外に転移して、久々のキャンプになった。



 2日目も成果は無かった。


 そして、3日目の今日午前、ミケが見つけた。

 塔は塔だったが、上では無く地下だった。

 場所も、近衛騎士団の団舎の塔だったので、常に騎士がうろついている。


「見つけたはいいとして、環境が悪すぎじゃ。弱っておるかもしれんぞ? 年寄りじゃろ?」

「そうか……。この世界の60歳位だもんな、早めに助けたいな。今日、救出するか?」

「どう囚われておるかじゃの」

「そうだな。毎日チェックされてるんだったら、明日とか明後日の早朝まで待った方がいいんだろうけど、ここにいると知ってしまった以上は、早く助けたいし……」


 とにかく今日忍び込んで、状態を確認してから決めるか。


 3階建ての団舎の塔の屋根に転移して、3階の窓、というか明かり取りの隙間から転移で侵入する。


「随分ホコリっぽいな。」


 物置き場として使われているのか、人が立ち入った形跡がほとんどなく、湿り気のあるホコリが積もっている。


 足音を出したり足跡をつけない為に、浮遊しながらゆっくりと進む。

 普段、人の出入りのない上階を警戒する者はいないようで、1階には下りられた。

 だが、流石に1階部分と、地下へ通じる通路には騎士が立っている。


“やっぱりいるな。ミケ、雷で、奴らの気を一瞬逸らしてくれ、その隙に一気にいこう”

“了解じゃ”


 やや離れたところに雷を落としてもらい、一気に地下に下りていく。

 扉番がいたが、《スリープ》で眠らせる。

 扉には食器の渡し口が設けられていたので、そこを開くと、中から湿った空気に乗って、すえた臭いやカビ臭さがモワッと漂ってきた。

 目視できれば障害物があろうと転移できるので、そこから中を覗く。


 シュンッ!


「これはヒドイ……」


 思わずつぶやいてしまった俺の声に、微かな声が反応した。


「どなた?」


 ドクン!


 本当に微かで、力がこもっていないが、確かに聞き覚えのある声にバハムートが反応した。

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