第75話 汚名返上の近道はケーキ?

「おい! もしかしてアレが『女の子の敵 鬼畜のバカユート』じゃないか?」

「あれじゃねぇか? 3人の稼ぎを巻き上げに来たんじゃねえか?」

「ヒデェ……」


 まずい、非常にまずい。ぐぬぬ~! なんとかせねば!


「なんでバカユートっていう名前が広がってるんだ?」


 受付の子が口でも滑らせたか?


「……それは、色々な人から『3人の中でリーダーは誰だ』とか、『ウチのパーティーにまとめて入れてやる』だとかしつこかったんです……」

「うん! うるさかった~」

「あの~、なんじゃったか? デンゼルワシなんちゃら」

「ゼンデルヴァルトね?」

「そうそう! よく覚えておるのぅハンナは。 そ奴が、男だったーとか言いふらしよってのう」


 アイツか~!


「――じゃから、仕方な~く教えたんじゃ。バカユートというのがおると。仕方な~くのぅ」


 ……アンタらだったか。


「……ハンナさん、この嬉しくない二つ名を返上するにはどうしたらいいと思う?」

「急には無理そうよね~? やっぱり地道に4人で活動するしかないんじゃない?」

「ですよねぇ」


「ユウトさん、依頼掲示板で、冒険者がなかなかやりたがらない依頼をこなせばいいんじゃないですか?」


 いいこと言うねぇ! アニカさん!


「そうだな! 善は急げだ! 早速夕方までに片付きそうなのを片っ端から受けていこう!」


 さてさて~、今は昼過ぎ、この時間に残っているってことは、他の冒険者が敬遠した仕事って事だろ?


「今日中にできそうな依頼は片っ端から受けるぞ!」

「「おー!」」

「我らもか!?」

「当たり前だろ? パーティーなんだから。頼むぞ爆炎のミケーネッコ!」


 第1の依頼『探し物』。


「うおぉぉぉぉ! アンニタ頼む!」


 第2の依頼『迷い猫の捜索』


「うおぉぉぉぉ! ミケーネッコ頼む!」


 第3の依頼『浮気調査』


「うおぉぉぉぉ! これは今日中に終わらなそうだからダメ!」

「ユウトよ! うおーうおー言ってるなら、我らに振らんで自分でやらんか!」


 それからは『ドブさらい』『商会の倉庫整理』『廃屋の解体』やらを、ストレージや魔法を駆使して片付けていった。


「うおぉぉぉぉ! はい、終わった。次は?」


「これで最後ですね」


『氾濫被害の村のお手伝い』


「これって、みんなが助けた村なのか?」

「そうじゃ」



 村に着くと、想像以上の被害を受けていた。

 幸い、氾濫発生時に高ランクパーティーが通りかかっていて、避難誘導や防衛にあたってくれたおかげで死者は出ていないらしいが、ほとんどの建物が破壊されていた。

 村人たちは、服や身体の汚れを落とすことも出来ないまま、粗末なテント生活を余儀なくされている。

 依頼主の村長の元へ行って話をする。


「これは、大変な被害だな……、これまでの生活がぶち壊しになったんだな」

「そうなのです。明日かあさってには大公様のご支援が届くのですが、それまでどうしようかと……」

「よし! とりあえず、屋根のある寝床と風呂を作るよ。それと炊き出しも」

「おお! ありがたいです。どうかお願いします」


 もともと建物の建っていなかったスペースに《ロックドーム》を数個並べて避難所にして、ついでに水場と男湯女湯も作る。

 炊き出しは、ボア肉入りのスープと、ストレージに取っておいたこっちの世界の硬いパンをガーリックトーストにしたもの。

 村長たちの感謝を受け、村を後にする。


 帰り際には、村の子供達が、「ミケーネッコちゃん! 今日も来てくれてありがとう! 今度は遊びに来てね~」なんて言ってくれた。


 どの依頼もあまりお金にはならなかったが、俺達には白金貨もあるし、何より困っている人の助けになったなという充実感にひたりながらギルドに戻った。


 ギルドに戻って受付に報告していると、またささやき声が聞こえてきた。


「新人や初級冒険者のできる簡単な仕事を片っ端から奪ってやがるぞ。嫌がらせか? まさに鬼畜の所業だな」

「ぐぬぬ~」


 汚名返上の道は遠し!


 ギルドで悪口をささやいていた奴には、ミケが制裁を加えてくれたからいいものの、やり切れなさを抱えながら帰路に着く。



「あら、さっきのバカユートさんじゃないかい」


 ドブさらいの時に俺達を見ていたおばあさんだ。


「若い子がやりたがらない仕事をやってくれて、綺麗にしてくれてありがとうね。」


 同じ冒険者からの評判なんかよりも、街の人達の役に立っていればそれでいいかと、少し晴れた気分で宿に戻った。




 夕食を済ませて部屋でまったりしていると、ミケが話しかけて来た。


「ケーキを出すのじゃ」

「ケーキ? アニタが持ってるだろ?」


 ケーキなら余裕を見て1週間分、小分けにしてアニタに持たせてあるじゃないか。2日分は残ってるはずだ。


「ない」

「なんで?」

「なんでって、食べたからに決まっておるじゃろ!」

「食べたって……、1週間分だぞ!?」

「2日分じゃったな、結局」「うん!」

「結局。とかじゃなくて!」

「いいじゃろ~! この3日揚げパンみたいなので我慢しておったのじゃ~。生クリームのケーキが食べたいんじゃ~」



 結構な量あったはずなのに……、2日でなんて、呆れてしまうな。


「……よいのか?」

「ん?」

「よいのか~?」

「な、何が?」

「お主、このままじゃと鬼畜のままじゃぞ?」

「それとこれが何の関係があるんだよ?」

「ギルドで言ってしまおうかの~? 幼い女子を働かせておいて、菓子の1つも寄越さぬ鬼畜じゃと。皆なんと思うかの~?」

「ぐぬぬ~~」


 これ以上ギルドで鬼畜だと広がる事は避けたい……。


「し、仕方ないな~。ま、留守中に頑張ってたみたいだからいいか」

「「やったー!」」


 ホールケーキを出してやると、ミケとアニタが嬉々として切り分けようとしている。

 そしたら、アニカが俺に耳打ちしてきた。


「ミケさんは隠してましたけど、本当はさっきの村が襲われた当日に、助け出された子供達にケーキを分けてあげたんです。照れくさいから言うなって言われてたんですけど……」


「お~いアニカ! 早く来ぬか。お主の分も食べてしまうぞ!」

「は~い、今行きます!」


 ……ミケ、いい所があるじゃないか! 見直したぞ。


「バカユートの分は無しじゃ!」

「…………」

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