第74話 おなごの匂い騒動とミケ達の恐るべき二つ名。

 シュンッ!


 ローレッタの興奮具合に身の危険を感じて、マッカランでキースが用意してくれた高級宿の部屋に転移した。


「ふ~、危なかったー」

「あーー!!  ユウトさん!」

「何!? ユウト?」

「お兄ちゃ~ん!」

「――おっ! いたの? ――って!!」


 ミケ、アニカ、アニタの3人が、浴室から駆け寄ってくる。

 はだかで! 泡まみれで!!


「待て待て待て――ぐぇっ!」


 白狐ミケの顔面へのフライングボディアタックと、アニカとアニタのタックルをくらって、床に押し倒された。


「ユウト! 帰って来たのか?」

「お帰りなさい」「おかえり~」

「お、おお。まさかお前達がもう帰って来てるとは思わなかったけどな。――って、そんなことより、アニカとアニタは風邪ひくからお風呂に浸かりなさい! タオルも巻いてだぞ!」

「「は~い」」

「あと、ミケは早くどきなさい。見えない!」

「仕方ないの~。――ん? クンクン、ん? クンクン、女子おなごの匂いがする……。おい! アニカ! アニタ! ユウトから女子おなごの匂いがするぞ!」

「「ええ~~~~~~!!」」


 ギクッ!


 ミケが俺の顔面から退いて、タオルを巻いたアニカ達が駆け戻ってきた。


 ジト~


 そして、俺にじとっとした疑惑の目を向けてくる。


「ちっ、違うんだ! ローレッタが転びそうなところを助けただけだ!」

「「「ローレッタ?」」」


 ジト~


「き、今日行った国の偉い人だよー。何も無いよ~。本当だって!」


 ジト~


 しばらくの間じと~っとした視線を浴びて、いたたまれなくなってきた。


「はぁ~。とにかく! お主も風呂じゃ! 女子おなごの匂いなんぞつけて……汚らわしい!」 

「そんなんじゃないのに……」

「うるさい! 風呂じゃ風呂!」


 結局、俺もアニカ達に引っ張られて、風呂に入る。


「4日ぶりかの? 予定より早かったのぅ?」

「そうだろ? ミケ達に言われた通り、観光もせずに用事だけ済ませて来たからな」

「少しでも早く帰って来てくれて良かったです!」

「よかった~」

「喜ぶでない! 当然のことじゃ!」

「……そうだな。当然だな……。ところで、3人はどうだった?」


 なぜか3人とも視線を逸らした。


「そ、そうじゃの~、普通じゃ。普通」

「…………」

「たのしかった~」


 これもアニカが無言。……怪しい。怪しいからこそ、聞くのが怖い。


「それよりも! これから晩ご飯じゃ! 今日はなんじゃろな~? 楽しみじゃな~」

「……」「たのしみ~!」


 聞かない事にしよう!


 久し振りに4人で食事する。

 宿の支配人に、キースへの簡単な報告と明日宮殿に行くと書いた手紙を託して、夕食を楽しむ。


 部屋に戻ってベッドに腰かけたら、満腹感と仕事を終えて3人に会えた安堵感と、久々のいいベッドの感触で、睡魔が襲って来てそのまま眠ってしまった。




 久々に4人で寝た翌朝。白狐ミケとアニタの寝相の悪さで、うなされながら目が覚めた。

 意味無く《デトックス》をかけそうになった。


 朝食を済ませて、キースの宮殿に向かう事にする。

 ミケ達は、もう少し宿でゆっくりしてから冒険者ギルドに行くそうだ。


 宮殿の大公執務室に案内されると、アムートもすでに来て待っていてくれた。


「昨日の手紙にも書いたけど、みんな協力してくれるってさ」

「うん。よくやってくれたね」

「ユウト殿、感謝致します」


 それから、今後の進め方について話をした。


「――と言う事で、もう少しで細部まで詰められそうなんだ。だから、明日また来てくれるかい?」

「ああ、わかった」

「それにしても、あの3人の子達は凄いな? 助かったよ」

「え? ああ」


 何の事を言われたのかさっぱりだったが、一応相槌を打っておく。


 俺の用事は済んだので宮殿を出て、冒険者ギルドへ向かう。

 ギルドに入ると、ミケ達がいて、“大公様大好き”のハンナ達と話をしていた。


「アンタ! ひさしぶりだね~? どこか行ってたのかい?」

「まあな。テテは上手くやれてるか?」

「もちろんさっ! 女だらけのアタイらのパーティーで、男1人で頑張ってるよ。なっ?」


 テテがクリーム色の頬の毛を赤らめながら頷いた。


「ミケ達はまだここにいたのか?」

「まだとはなんじゃ! さっき依頼を1つ終えて来たところじゃ」


 すでに依頼を1つこなして来たらしい。


「アンタ、ミケちゃん達の活躍聞いてないのかい?」

「活躍?」

「そうさ。大活躍だったんだからさ~」

「よさぬかハンナ、恥ずかしいじゃろ~」

「活躍ってなんだ?」

「本当に知らないのかい? 教えてやるよ。――」


 俺が公都を離れてる間に、小規模のダンジョンで、モンスターが溢れてくる“氾濫”が起こって、ハンナ達AランクパーティーやBランクのパーティーに召集がかかったんだけど、Cランクのミケ達3人が勝手に突っ込んでいってほとんどを片付けてしまったらしい。


「ミケ? 聞いてないんだけど?」

「聞かれておらんからの~」

「アニカ?」

「き、聞かれてませんから~」

「アニタ?」

「たのしかった~」

「……」


「この子達には“二つ名”が付いたんだよ? すごいねぇー」


 二つ名なんて聞き馴染みのない言葉に戸惑っていると、ハンナが、Sランク冒険者やベテランAランク冒険者、他には目覚ましい活躍を見せた冒険者に自然発生的に付けられる異名だと教えてくれた。


「何か……いやな予感がするんだけど?」

「どうしてさ! 凄いことだよ? アタイが教えてやるよ」


『爆炎のミケーネッコ』

『公都の聖女 アンニカ』

『暴走姫 アンニタ』


 これが、3人につけられた二つ名らしい。

 アニタには『7歳にしか見えない12歳 アンニタ』っていうキャッチフレーズみたいなものもあるらしい。


「爆炎……暴走……。何やらかしたの君達」

「こ、困ってそうじゃったから助けただけじゃ! それに! 爆炎なんてカッコいいのじゃ」

「じゃ!」

「本当です! 氾濫に巻き込まれた村の人達を助けてたんです。私は治療・回復してまわってただけなのに、聖女だなんて恥ずかしいです~」

「ハンナさん、こいつらやり過ぎてなかったの?」

「やり過ぎなもんか。ああいう緊急時はね、あれくらいした方が被害に遭った連中の気持ちが晴れるってもんさ」


 ……やり過ぎてるんだな。


「それよりもアンタだよ!」

「へっ!? 俺?」

「そうさ、あんな3人を束ねていていながら、自分では表舞台に立たないリーダーがいるって、もっぱらの噂でさ」


 表舞台に立たない? そりゃそうだろ、いなかったんだから! 俺がいれば3人にも表舞台に立たせなかったさ! 勝手に立っちゃったんだもん!


「で、アンタについた二つ名が――」


 俺にもついてるの? いなかったのに?


『女の子の敵 鬼畜のバカユート』


 …………。


 酒場の方から、ささやき声がもれている。


「おい! もしかしてアレが『女の子の敵 鬼畜のバカユート』じゃないか?」

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