第70話 ドワーフは物への興味が凄い、だから話が進まない。
獣人族の族長ライゼルの屋敷に1泊したが、獣人族の、素材そのままといった飯と不味い酒のせいで、まだムカムカ胸焼けしている。
《デトックス》で何とか取り除けてよかった。
ライゼルを始め、昨日の宴会のまま寝っ転がっている連中を避けつつ移動し、ライアーンの見送りを受けてドワーフの国へ向けて出立する。
「ユウト! また、いつでも来いよ! お前なら大歓迎だ! またティグリスの野郎を鍛えに来てくれや! ギャッハッハ」
「ありがとう。じゃあ、またな!」
ライゼルの屋敷から東に飛ぶ。
1時間ほど飛んだところで万里の長城みたいな石造りの城壁がズラーーーーーっと南北に走っていて、端っこが見えない。
これが国境だな。
ドワーフの国は扇のあおぐ所、扇面? の様な形をしている。
だから、国の周り全部が今見た城壁に囲まれているんだったら凄い労力だったろうな。
国境を超えると、自然の中にポツポツと人工物が見えてきた。
集落規模、村や、町と言える規模、様々あるが、そのどれもが、煙突のある建物を中心に形成されていた。
それに、各地が血管のように、整備された道でつながれている。
獣人族の領土はそうでなかった。
「建物はほとんど石造りだな。――ん? 何だあれ? 地面からも煙突が生えてるぞ!」
地下室も作られているんだな。結構技術力高いな……。
ドワーフの国の王都は、俺の進路的にはドワーフ国の一番奥にある。
ライゼルの屋敷からここまで、東に向かって真っすぐ飛んできたら、海が見えてきた。
海が見えてきたら、海岸線に沿って南下する。
マッカラン大公国も含め、俺が回る予定の国々の真ん中にエルフの領土、大森林があるが、そこから流れてくる大河が小国家連合との国境になっている。
その大河が見えてきて、その手前の大きな都市が王都だ。
国境は城壁では無かったが、大河を見張るように灯台の様な見張り台がポツポツと連なっている。
「でっかい都市だな! 公都より大きいな。それにあの煙突!」
王都の中心にはこれまで見えていた中で一番大きな煙突がそびえ立っていて、モクモクと煙を吐き出している。筒の部分も相当な厚さがある。
ダンジョン41階層からの塔並みのデカさだ。
王都は城壁で囲まれているので、一応城壁の外に降りて門番に用件を伝える。
門番は2人いる。王城で見たゴダンよりは劣るが、2人とも立派な髭を蓄えているし、ゴツい。
「わかった。今、伝えに行くから待っておれ!」
そう言った割に2人とも動こうとせずに、俺の事を下から上まで舐めるように見ている。
「ところで、お前のその武器は何だ? 服も靴もだ。」
2人で、俺の服装を指差し、時折首を傾げたりしながらゴニョゴニョと話し合っている。
……なかなか取り次いでくれない。
「あの~、ちょっと急いでいるんだが?」
「お、おお悪いな。ちょっと待っておれ」
ようやく取り次いでもらって、これまたゴツい兵士に案内されたのが、空から見たあの大きな煙突だった。
ここに来る途中でも、俺を見かけたドワーフ達が、あれは何だこれは何だだの、ちょっと見せてくれだの、しつこいくらいに声を掛けられた。
一体何なんだ? こいつ等は……。
「ここにゴダンがいるのか?」
「そうだ、ここには王の城がない代わりに、この『大工房塔』があって、ゴダン様はここにおられる」
「大工房塔?」
「そうだ。この煙突は――」
煙突の厚い筒の部分が、建物として成り立っていて、ほとんどが工房なのだという。
ごく一部が、ゴダンの執務室兼住居として使われているそうだ。
工房から出る煙や排気が、全部穴に向かって排出されているらしい。
ベルトコンベアの様な動くハシゴに掴まって、かなりの上層階へ移動し、ゴダンの工房へ行く。最上階の執務室のすぐ下だそうだ。
工房ってことは、ゴダン自身も何か作っているのだろうか?
「ゴダン様、お連れしました」
「おう! ご苦労である。お前は下がっていいぞい。あと、ユウト殿だったか? もうちっと待ってて欲しいである」
ゴダンは、俺達に目を向けることなく、作業の手を止めずに話している。
何かの金属を伸ばしているみたいだ。
10分ほど待つと、ようやく作業が終わったようだ。
「いや~、待たせちまってすまんかったである」
布で汗を拭いながらこちらに向かってくる。
「何だお前のその武器は? ――ん? 服もであるな? 靴も! 何だそれはっ!?」
……ゴダン、あんたもか。
「いやーすまん! フリスの城で見かけた時も気になっとったのである」
「そ、そうか。その前に受け取ってもらいたいものがあるんだ」
ゴダンにキースとアムートの書状を渡すと、遠慮なしにバリバリと封を破って読み始めた。
「ふむふむ。……して、なぜユウト殿が彼らの使者なんだ?」
俺のステータスを見せて、素性を明かす。
「お、お前……、バハムートであるのか!」
ゴダンが俺にひしと抱きついてきた。凄い力だ。
「……く、苦しい」
「なんだぁ? バハムートなら平然としておったぞい? あ、ありゃ俺が弱かったからであるな」
……弱かった? 《アナライズ》
名前 : ゴダン
種族 : ドワーフ族
年齢 : 438
レベル: 71
称号 : 匠
系統 : 製作 武〈長剣・盾〉
スキル: A・強靭〈6〉 A・探求〈5〉 B・指導〈8〉
C・鍛冶〈10〉 C・皮細工〈10〉 C・石加工〈10〉
C・木工〈9〉 C・剣技〈8〉
「なっ! 438歳!?」
「なんじゃお主? 覗いたであるな?」
「すまない。だけど、レベル高いな?」
「まあな! バハムートが死んじまって、ワシの力不足を痛感してのぅ。この40年鍛えておったんだぞい」
ゴダンも称号持ちだし、職人スキルの多さよ!
ゴダンは俺をジッと見て、考えてから言ってきた。
「アムートとやらとキースの要請、受けるである。ただし! 何か寄越せ、お前の世界とやらの物を」
「俺の物をやったとして、どうするつもりだ?」
「な~に! 研究である。どうせ材料なんざこっちじゃ揃いっこ無いであろう? だから、研究してどうすりゃいいか解明するのである!」
わかってるねぇ、この人。さすが匠だわ。
……とは言え、何を渡そうかな? 何個かストレージから出しちゃったら、全部寄越せって言われそうだしな……。
手動のシュレッダーは……燃やせばいいだけって言われそうだし、似たところだと、野菜のスライサーセットかな。予備もあったはずだし。
いけるかな? 物は試しだ!
「これ何かどうだ?」
スライサーを手渡して様子を見る。
「なんであるか、こりゃ? 刃が小さすぎて、誰も殺せなそうだぞい?」
「こ、殺すものじゃない! 野菜とかをスッスッって動かすだけで細かく綺麗に切れるんだ。何種類も切り方があるし、料理の準備が楽になるって喜ばれるぞ?」
「殺しの道具じゃなく、喜ばれるものであるか……」
「刃の周りの合成樹脂素材は、こっちの世界じゃ作れないと思うけど、木材で代用できるんじゃないか?」
「う~む。……よし! これで手を打つである」
良かった~。
「――これで用件は済んだであるな? よし! 研究は明日からだ。今日は飲むぞいー!」
今日は歓迎会だと宴会を開いてくれて夜が更けていった。
実は、毎日何かしらの理由をつけて宴会をしているらしかった。
どっちにしろ、ドワーフ国でのミッションは達成だな。
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