第69話 獣人族は話が早いが、喧嘩っ早い。
俺達は宿の朝食の時間に合わせて、転移で戻ってきた。
朝食を済ませて部屋に戻り、それぞれ出立の準備をした。
4人になって初めて、日をまたいで――それも数日間離れるので、1人ひとりとハグをする。
「お互いに頑張ろうな。すぐ戻ってくるからな? みんな無茶するなよ! 特にミケとアニタ」
「なんで我とアニタが無茶するんじゃ? 真っ当だぞ?」
「……アニカ、頼むな。お前が手綱を握るんだぞ?」
「私に出来るでしょうか?」
「努力だけはしてくれ……」
アニタのストレージに一応キャンプセットやマットレスを移し、それぞれ出立した。
ケーキに関しては、ただ渡すと全部一気に食べられる恐れがあるので、余裕を見て1週間分を1日分ごとに小分けにして持たせた。
宮殿へ着き、執務室へ案内されると、中にはキースとアムートが待っていた。
「私達の書状と、ユロレンシア大陸の大まかな地図だ。よろしく頼む、ユウト殿!」
「やるだけやってきますよ」
書状と地図、それに経費兼報酬として白金貨!! を1枚貰って出立する。
白金貨1枚! は・く・き・ん・か! 2百万!
キースとアムートの見送りを受けて、公都から北へ飛び立つ。
程なく獣人族領に入った。地図を確認し、進路を北東に変える。
上空から見る限り、ポツポツと大小様々な集落が点在していて、建物が見えても大体木製の建物だった。
獣人と言っても種族が様々で、湖や沼地に住む種族や、木の上に住む種族、屋外で雑魚寝する種族など様々だ。
石造りの建物は、ヒト族が商売や外交の為に建てたのだろう。
「下に降りて見て回りたいけど、……ミケ達が怒るからな~。またの機会にしよ!」
獣人族領はマッカラン大公国よりも若干大きく、正方形に近い領土だ。
そのほぼど真ん中に現族長ライゼルの直轄領があり、更にそのど真ん中に族長の屋敷がある。
これは何故か石造りの立派な貴族屋敷だった。
屋敷の近くに降り立つと、警護の色んな種族の獣人がわらわらと寄って来て、有無を言わさず襲いかかってきた。
「なんじゃーおどれはー! カチコミかー!!」
「やっちまいやしょーゼ! カバーヲの兄貴!」
「ピョンキーチ! チービゾウ! 付いて来い!」
「「おう!」」
「ちょ、待てよ! いきなり来るか? 普通!」
カバだのゾウだのカエル? だのの獣人に襲いかかられるも、手刀でトントン倒していく。
「おい! 何の騒ぎだ! うるせえな! ――って、テメエは!」
騒ぎを聞きつけて屋敷から飛び出して来たライゼルが、俺に気付いた。
「おっ? 案の定あの国にいられなくなったか? ガッハハハァー」
ライゼルは、そこら辺に転がっている警備を蹴散らしながら、俺を屋敷に招き入れた。
ソファーやテーブル、棚など、家具があるわけでなく、ガランとした部屋で、敷物を敷いた床に直に座る。
「良い屋敷だな? ところでライアーンは?」
バハムートの時代はライアーンという獅子族が獣人族族長だったので、同じ獅子族のライゼルに尋ねてみる。
「あ? 親父を知ってるのか? 生きてるぜ! 今はクソ長老やってるぜ。呼んで来てやろう」
「おーい! 親父! ヒトの客人だぞ!」
「うるせー! 何の用だ!」
大声で怒鳴り合いながら2人が部屋に入ってきて、ドカッと座った。
「誰だ? テメエ?」
……こんな粗野なのか? 獣人族って……。
「まずはこれを……」
キースとアムートの書状を読んでもらい、俺の素性も明かす。
「そうか! バハムートよ! テメエはこっちの世界で生まれ変われなかったのか! ギャッハッハ」
ライアーンは、そう言いながら俺の肩をバシバシ叩いてきた。
そして、ライゼルとライアーンは互いに頷き合った。
「その話、受けてやる! 任せろや!」
「は? 良いのか? そんなに即決で」
「良いも何も、あの国は元々バハムートが継ぐはずだったんだ、その息子に才覚があるなら、その息子が継いでいいだろ?」
「あのフリスってヤローはクズだからな、いつか取っ締めてやらねぇとなって思ってたんだ」
ライアーンとライゼルが何もためらわずに決めてくれた。
案外早く話がまとまったな、と思っていたら……。
「どけどけどけー! カチコんで来た奴はどこだー!」
ドカドカと足音を響かせながら、俺を探しているであろう声が聞こえてきた。
「あちゃ~、来やがった! どこで聞きつけやがったんだ、アイツ」
「何なんだ?」
「“英雄”の称号を生まれ持った奴でな……」
「英雄!?」
俺以外にもいたのか?
“ニア? 英雄って他にもいたんだな”
“ええ、素質の高い者に付けたのですが……、バハムートさんと違って、それを生かせない者もいるのです”
「この英雄ティグリス様が成敗してくれる! どこだー!」
「この称号に気づいた途端に増長しやがって、ろくに鍛えもしなくなっちまった馬鹿さ」
「鉄拳食らわせなかったの?」
「やってもよ~、ケロッとして次の日にゃ~また威張り散らしてんだよ。馬鹿がっ」
「……俺がやってやろうか?」
「無駄だと思うぞ?」
「まぁ、物は試しだ」
「おー! いやがった! オモテ出ろい! ボコってやんよ!」
「ああいいぞ」
オモテに出るついでに《アナライズ》。
名前 : ティグリス
種族 : 獣人族 (猫虎族)
年齢 : 31
レベル: 16
称号 : 英雄
系統 : 武〈拳・爪〉
スキル: C・タフネス〈3〉 C・拳技〈2〉
“ニア、……なんだ、コイツ? 何も鍛練してねぇじゃねえか!”
“彼にはまっとうに育ってもらいたかったのですが、称号を過信してしまった様です。……残念です”
「ここでいいだろう。いくぜヒト野郎! 早く武器を持ちやがれ!」
野次馬がわらわらと出て来て、俺達を取り囲んでいる。
ライゼルも出て来て、立会人をやると言っている。
「お前相手に武器など要らん! さっさとかかってこい」
「このヤロー! いい度胸だ!」
ティグリスが猛ダッシュで俺に向かって来て、散漫な動きでフック気味に拳を振り回して来た。
「ジョルトカウンター!」
ティグリスの拳に合わせて、俺の全体重を乗せたカウンターをアゴに叩きこむ。
メキメキメキ!!
すごい音をたててティグリスのアゴの骨が砕け、ティグリスは前のめりに崩れ落ちた。
「おおーーーー! 一撃!」
周囲は沸いたが、俺は素早く《ハイヒール》を掛けて回復する。
「――? な、何が起こった?」
「お前は死にかけたんだよ。直してやったからもう一回来い!」
「舐めやがって~」
ティグリスを一撃で沈めては回復し、また一撃で倒す。
繰り返すうちに、ティグリスは戦意を失っていくが、容赦はしない。
俺から攻撃し、倒しては回復を繰り返し続ける。
俺達を取り囲んでいた野次馬共もドン引きしている。
何十回繰り返しただろう。そのうち、哀願してくるようになった。
「や、やめてくれ~。悪かったよ~。助けてくれよ~。 」
「称号が英雄だからって、自分を鍛えもせず、獣人族の役に立とうともしないで偉そうにしてるからだ! まだまだやるぞ!」
しばらく続けると、本当に心を入れ替えてライゼルの元で鍛え直すと誓ったので、終わりにしてやった。
「ガッハハハァー! 良くやってくれたなユウト! 借りができちまった。獣人族、特に獅子族は、借りは必ず返す主義だ! 何かあったら言ってくれよ!」
今日はお祝いだと宴会を開いてくれて夜が更けていった。
とりあえず、獣人国でのミッションは達成だな。
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