第62話 公都到着と、何気ない? 日常。
チュンチュン! チュン!
……朝か。
俺達は昨日確かに宿屋に泊った。……泊まったのだ。現に宿の部屋で起きたし……。
――だが! あんまり宿屋に泊まったという気がしない!
町の宿はブレンダの『花と火亭』よりも小さく、宿代も夕・朝食付き1人銀貨4枚と安かった。
しかーし! 夕飯の量は少なくて味も『花と火亭』以下。ミケ達は部屋に戻ってから足りない足りないうるさいし……。
結局町の外まで移動して飯を作った。
そして! 4人部屋が空いていたのは良かったが、いざベッドへ入ると、これがまた硬いの何の! 板の上に藁を敷いてシーツを掛けただけのベッド!
みんな硬い硬いうるさくて、これまた結局部屋のベッドを収納して、俺のマットレスを出して寝ることになったのだ。
これじゃ、これまでのキャンプと変わらない、――いや、宿屋の周囲が若干うるさい分、キャンプの方がマシなレベルだった。
「この世界の宿屋に泊まってみたかったが、場合によってはキャンプの方が全然いいな?」
「そうじゃな。朝食もあまり期待せんほうが良さそうじゃ……」
「“巣”の方がいいです!」
「あにたはユウトお兄ちゃんのとなりならどこでもいいよ!」
「「アニタ!」」
部屋のベッドを戻して朝食を食べに行く。……少しマシだった。
「おはよう。昨日はよく休めたかな?」
キースと合流すべく男爵邸に行くと、キースが爽やかな笑顔で訪ねてきた。
「ま、まあね。おかげ様で……」
昨日失った馬も補充されていたので、俺の重量軽減は掛けなくてもいい事になった。フィジカルアップは掛けてあるので、昼過ぎには公都に到着予定だという。
今日は客車内には俺とキースだけだ。
ミケ達は暇なので客車の屋根の上に乗っている。どちらかというとこの世界の景色を楽しめる分、俺もそっちが良かった。
ドタドタドタ! ゴロゴロゴロ!
「……なんかすみません。うちの連中がはしゃいでしまって」
「げ、元気だね」
「きゃーーーー」
窓からアニタが転げ落ちていく様が見えた。
転げ落ちては地面にぶつかる前に《フライ》で飛んで戻ってくるという遊びを発明したらしく、アニカまで一緒になって落ちていた。
楽しそうなアニタ達とは対照的に周囲の騎士達はドン引きしていた。
途中、騒ぎ過ぎだと注意しに転移した俺が屋根への着地に失敗、足首をひねって本当に地面に転がり落ちるという事件もありつつ公都に入った。
公都は高く厚い堅牢な壁に囲まれていた。壁は小高い丘を中心に何層も設けられていて、繁栄の度に公都が拡大していったことが窺える。
「うわぁ! 凄く綺麗で立派な都ですね?」
「ありがとう。そう言ってもらえると、民達が褒められているようで私も嬉しいよ」
都市の一般の建物でさえ、エンデランス王国の王城とは比べようもなく、白く保たれている。
丘の上には立派な城が立っているが、大公国では宮殿と呼んでいるらしい。
「君達、しばらく宮殿に滞在しないかい?」
「いや、結構です。こいつらが騒ぐだろうし」
「ユウトが一番騒ぎをでかくしておったろうが、さっき!」
「…………」
キースも俺達のやりとりを笑いながら見ていた。
「では、せめて宿屋はこちらで手配させてもらえないか? 連絡をつけやすい方がいいだろう?」
そういう事ならと、厚意として受けた。
騎士達に案内された宿屋は貴族区画にある高級そうな宿で、部屋も宿最高ランクの部屋だった。たぶん公都一の宿なのだろう。
こんな宿に何日も滞在させてもらえるなんてラッキーだな。
「お前達、騒ぐなよ?」
……アニタはすでに柔らかいベッドの上をジャンプで飛び回っていた。
部屋の確認もそこそこに、俺達は街に繰り出す。昼もだいぶ過ぎていて腹も減った事だしな。
貴族区画の外れ、俺1人だったら絶対入らないであろう小洒落たテラス席のある店で昼食をとる。若い貴族子弟が客層のようだ。
『ボア肉と野菜のパン挟み・スープ付き』『燻しベア肉のとろとろ乳スープ、パン付き』
これを3人前ずつと、食後に『季節の果実の水飴漬け』を8人前頼んだら店員のお姉さんに引かれた。
流石に『臭いがくせになる! 骨付きゾンビボアのグ―ル風味焼き』なるものは注文する勇気がなかった……。意味わからんし。
手持ちの3万ちょい分以外に、謝礼でもらった金貨10枚――100万円相当!! があるので、ちょっと贅沢をしている。
カストポルクスに来て、初めてまともな食事――と言えばブレンダに失礼か、美味い料理だな。
「むっ!? パンには期待しておらなんだが、なかなかいけるぞ」
「お肉も柔らかくておいしいね? 昨日倒したイノシシみたいなやつでしょ? 大きいほう?小さいほう?」
「しーっ! アニタったら物騒なこと言わないでよー。みんな見てるじゃない!」
そう言えば、昨日のモンスターも半分貰って収納してたな。後で解体に出してみるか。
……会計大銀貨2枚! 2万円! 昼ご飯で2万! ……貴族街だから仕方ないか。貴族街で銅貨なんてそんなに使わないのかな? いや、食い過ぎ!
貴族街を抜けて、市街地に入る。商売人や冒険者、役人っぽい奴に見回りの衛兵、もちろん住人も多種多様なヒト達が歩いている。獣人も見かける。
そう言えばダイセンでは街でも冒険者ギルドでも獣人は見かけなかったな。
今回は聞くまでもなく、冒険者ギルドを発見できた。サイズは違うが、大体似た外観で統一しているようだ。
公都の冒険者ギルドは大きく、食堂兼酒場も併設されていた。
公都は治安はいいものの、近場にはそれなりに高難易度のダンジョンがあるらしく、荒くれ冒険者も多少はいるようだ。
「解体受付、解体受付ぇ~どこだ~? ――あった!」
俺が解体受付に向かうと、アニカは自分は別の受付に用事があると分かれていった。
ボアとジャイアントボア、ハイゴブリン・ウルフの解体依頼をしたいというと、副ギルド長が交代して応対してきた。
キースから話でも通っていたのかな?
ボアとジャイアントボアの肉以外全部売るとか話していると、アニカが俺の冒険者証を寄越せと言ってきた。
「バカユートさん、冒険者登録証を貸して下さい」
真面目な顔でバカユートと言われるとちょっとショックが大きかった。
理由は解らないがアニカに渡すと、同じようにミケやアニタからも冒険者証を預かって受付に戻っていった。
途中で、そこら中から「ギャー!」「イテー!」「逃げろー」と聞こえてきたが、俺には関係ないと言い聞かせて見ないようにした。
一部始終が見えていたであろう副ギルド長は、汗の量が尋常じゃなかった……。
ジャイアントボアが大きいので、解体場まで行ってストレージから取り出すと、解体職員達から感嘆の声がもれた。
「明日の午後には解体出来ていますから、この預かり証を持って来て下さい」
手続きを済ませると、ちょうどアニカも用件を済ませたようだ。
「アニカは何の用だったんだ?」
「パーティー登録です」
「パーティー?」
「はい、バカユートさんをリーダーに登録しておきました。パーティ名も付けたければ付けてもいいそうですよ? バカユートさんには任せられませんけど……」
ちょっと傷つくな、それ。
だけど、イタズラっぽく言ってくるアニカも可愛いらしいな。
俺とアニカがミケ達の方に向くと、ガランとしたスペースに2人だけドカッと座っていた。
聞かないからな。俺は何でこうなったかなんて聞かない!
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