【完結】『魔法大全』を持って征く! 俺と最強白狐娘の異世界“ながら”侵攻記
柳生潤兵衛
第1章 突入! エベレストダンジョン
第1話 人生初のスマホを持ったら……。
西暦202X年、東北地方のとある小さな市の携帯ショップ。
「馬場様お待たせいたしました。これで各種手続きが完了いたしました。ご不明な点がございましたら、いつでもご来店ください」
マスクをしていても美人と分かるある種の神々しさを
「ありがとうございました~。ご健闘をお祈り――」
「――ん? 最後の言葉はどういう意味だ? おっさんにはスマホは扱えまいってか? ……まぁ、いいか。それよりも早く充電しよう」
自動ドアが閉まるか閉まらないかの微妙なタイミングで聞こえた言葉に、俺は一瞬とまどったが、最新の、そして人生初のスマホに胸を躍らせて帰宅した。
******馬場勇人
馬場勇人は40代のおっさん。
ひとりっ子であるおっさんは、父親の影響で小中高と剣道をやっていて将来を嘱望されていたのだがワケあってやめた。
両親ともすでに亡く、両親の残した土地・家屋にひとり暮らしている。
ご近所さんとは挨拶や立ち話程度はするが、友人も少なく他人との付き合いはほぼ無い。
現在無職。正社員として勤めていた工場の廃止の際、この年齢で県外に転勤し、やり直しのようなことになるよりは……、と早期退職の募集に応じた。
以来、4日に一度の食料の買い出しと日課の散歩以外は「せっかく仕事のストレス、人間関係のストレスから解放されたのだ。たとえ1人であっても、面白
そのおっさんがPHSから携帯電話に換えてから、数台の
しかし、ポイントと10万円は手段にすぎない。きっかけですらない。
実際に「今日スマホを買おう」と思い立ったのは、そうしたほうがいい、そうしなければという漠然とした思いからだった。
******カストポルクスという星の天界
「お帰りなさいませぇ。ディスティリーニア様ぁ」
天使たちが女神の周りを飛び交いながら出迎えた。
「まさかカストポルクスに再び英雄として生まれるはずだった魂がこんなに遠い世界の星にいたとは……」
「全く違う星ですものねぇ」クスクスッ「おじさんになってましたねぇ」と天使たちが笑っている。
「わたし、女神様のお手伝いしましたですぅ」
「一生懸命探したですぅ」
「わたしもぉ~」
キャハァ♪
「人の多い国や都市から探しっていったものだから、随分と時間がかかってしまったわ。――でも」
本来カストポルクスという星で輪廻するはずの魂が、次元の裂け目に奪われて……。他の星を探し続けて数十年。やっと見つけた女神は瞳に力を込める。
「まだ間に合うわ。私が地球で授けた力と私の分身のサポートがあれば、カストポルクスから彼を狙って攻めてくる魔王の軍勢を返り討ちに、――いえ、逆にヤツらの通り道を使って、このカストポルクスまで攻め入ることができるわ」
「来ちゃえ~! 来ちゃえ~!」
「その後は……。馬場勇人さん、期待しているわ」
******地球の馬場勇人さん
ちょっとイラつくわぁ、コレ。
充電は終わったものの、認証・追加認証の設定のあれやこれや、その他なんやかんや……。
「ちっ、早く進ませてくれよ」
これくらいのことでイライラするなんて、傍から見れば俺も老害か。
2、30分は経っただろうか、実はやってみたかったタップだのフリックだのに悪戦苦闘の末、俺は世の中の情報として聞いたことのないアプリが入っているのに気づいた。
「『魔法大全』? 何だこりゃ? 今時のスマホにはこんなのがデフォルトで入っているのか?」
なんせ俺は、20数年ガラケー持ちで3Gサービスの終了が迫ってきたからやっとスマホに機種変更するぐらいだから、そういう事には
『魔法大全』アプリをタップしてみると、スマホが震え始め、眩しいほどの光とキラキラとした爆音が発せられた。
「うぉぉおおおおお!!」
爆音による耳鳴りもさることながら、スマホ画面を凝視していた自分を呪った。
「ふぅ、スマホは油断ならんな」
“ようこそ魔法の世界へ!”
“当アプリはあなただけがお使い頂ける専用アプリです”
“お使い頂く前に個人識別のため、登録をしましょう!”
またか、と心の中で舌打ちしながら名前・顔・指紋等を登録した。
すると、ようやくアプリの説明が始まり、スマホのバッテリー残量を使用し魔法を発動することが分かった。
ブフゥーーーーーッ!!
「魔法っ!?」
驚きのあまり、再度の登録作業で荒みかけた心を癒そうと口に含んだコーヒーを全部噴き出した。
気を取り直して、スマホに視線を戻すと、
“アプリ開始特典①として、お使いのスマートフォンが壊れないようにする無属性魔法の《
“この魔法の発動により、バッテリー残量はほぼなくなりますので、発動後の充電をおススメします”
バッテリーを使って魔法発動ってどうゆうことだ?
“噴き出したコーヒーも、充電中に拭いておいてください”
そう表示されると、俺はアプリを開いた時と同様、爆音と閃光に包まれた。
耳鳴りと視界がおぼつかない中、キョロキョロあたりを見回すがもちろん誰もいない。
「……なんで俺がコーヒー噴いたことを知ってんだ? 恥ずいな」
フル充電を確認して、改めてアプリを開いたが、今度は閃光も爆音も無く安心している自分がいる。
よし! 新しいコーヒーも用意した。
“アプリ開始特典②として、【使用魔力低減‐大‐】【魔力回復‐大‐】のスキルをあなたに付与します”
スキルってなんだ? 不安しかないんだが。
“今は、そういう体質になると思ってください”
スキルや「今は」という言葉が引っかかるが、しょうがない。
眩しさに備え、視線をスマホから逸らしつつ発動ボタンを押す。
ピカーーーーーッ!
視線を逸らした先の窓には光り輝く俺の姿が映っていた。
「……俺がかよ。しかし年取ったな……」
俺は窓を眺めながら発光が収まるのを確認した。体感的には変化がない。気持悪くもなってない。
リビングで光ったため、ご近所さんに見られたのではないか思ったが大丈夫そうだ。
「いちおう閉めておくか」とレースのカーテンを閉じた。
“アプリ開始特典③として、あなたの身体を丈夫にします”
“少し若返らせて病にも強くします。20代半ばに戻るような感じと捉えてください”
魔法・スキル・爆音に発光……、極めつきに若返り。
なかば諦観的に要求する。
「視力を良くしてくれ」
“わかりました。では、発動します”
「はい、光るっと」と言った時にはすでに光っていた俺であった。
「おぉ」
若返ったであろうことではなく、これまでとまったく違う視界に感動している。
若返ったと言っても俺は俺だ。若い別人に成り変ったのならご近所さんに怪しまれるが、ご近所さんはお年寄りばかりなのでそんなに怪しまれまい。
小さい時から視力が悪く、運転や細かい字を読むときは眼鏡が必要だったのが解消された。
その喜びがとにかく大きかった。
「――あ、髪! ……生え際が前進してある。ラッキー!」
アプリ開始特典は3つだったようで、スマホ画面には簡単な絵のついた7色のアイコンが並んでいる。
“魔法は様々な系統に分類され、それを属性とよびます”
“火・水・地・風・光・闇そして無属性の7つです”
“魔力を使って物質化したり、現象を引き起こすのです”
“この『魔法大全』には、人間の使える全ての魔法が網羅されています”
“論より証拠、百聞は一見にしかず。実際にやってみましょう”
試しに火のアイコンをタップすると、ズラーっと火属性の魔法が並び、一番上のファイアとファイアボール以外は薄い文字で表示されている。
「こりゃ家の中じゃ危ないよな」
時刻は夕方にさしかかり、「楽しみだけど、……明日だな」
夜が更け、風呂上がりの火照った体を夜風で冷ましていると、どこか遠くの方で犬と喧嘩する動物の鳴き声がコンコンと響いていた。ありゃ何の動物だ?
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