第二章 上京まで

第10話 ショウの家族

「遊び出歩いてばかりで、一体この先のことどう考えてるんだ」

白紙の進路希望書をテーブルの真ん中に差し出されて、ダイニングテーブルに2対1の図で座る私と両親。

高3の6月中旬、進路調査票を白紙で出したのが事の発端。

「…別に遊び歩いてるわけじゃ」

「しったけ、何してんだ!?」

私の言葉に被せるように問い掛けてきた父に、まさかバンド活動してますとは言えず、黙る私。

「夜遅くまで遊び出歩いて、車で男に送って貰ってる時もあるな?」

普段放任の両親なのに、ここぞとばかりに聞いてくる。

遊び出歩いてはいない。

スタジオに籠もっているし、車だって遅くなると危ないからってホダカさんや、免許を取得した岩垣先輩が送ってくれたりする日がある。

「付き合ってるなら挨拶くらいしろ」

「付き合ってない」

「はぁ?じゃぁ、何なんだ?」

「(バンド)仲間」

「仲間?何の?」

「…」

また黙る私に、父は深いため息をついた。

ずっと黙って父の隣に座っていた母が、

「ねぇ、美空」

と私に呼び掛けた。

「進学校に通ってるからって、大学に行かないといけないわけじゃないのよ。何かしたいことがあるなら…」

「甘やかすな。今の時代、女でも大学は出といた方がいい。美空の為だ」

母の話を遮り、父はそう言い放った。

「…ちゃんと、考えるから」

進路希望書を鷲掴みにして、私は自室へ逃げ込んだ。

扉を締めてその扉にもたれ掛かったまま、地べたに座り込む。

親が望むように、大学に進んで将来を考えたらいい。

だけど、この街から大学に通うのは現実的ではなくて…。

札幌や地方の大学に出るなら、ピクシーを続けられない。

活動をはじめてまだ数ヶ月なのに、バンド活動は私の生活の一部になっていた。

手放したくなかった。


同い年のショウは進路をどう考えているのだろうかと聞いてみることにした。

放課後の練習前に、ショウをファストフードのお店に連れ出して。

「進路?慶應大志望だよ」

それは予想以上の答えで驚くしかなかった。

「ショウ、東京に行くの?ピクシー抜けるの?」

私の問い掛けに、ショウはストローでジュースを飲みながら優しく笑った。

「美空は可愛いね」

「えっ?」

話に脈絡がない。

ショウは少し笑ってジュースを置いた。

「うちはさ、複雑で…」 

ショウはそう言って、家庭内の話をしてくれた。

お父さんがアメリカ人で、お母さんが日本人。

お父さんにはアメリカ本土に家族が居て、会社を経営しているからお金の不自由はないけれど、お父さんとは年に数回しか会えていないらしい。

「向こうの子に負けないくらいの肩書きを母さんは望んでる」

そう話したショウが少し辛そうに見えた。

向こうの子…恐らく、お父さんのアメリカ本土に居るお子さんのことだと思った。

「だから、慶應を目指してるの?」

「まぁね、安易でしょ?」

そう話すショウの笑顔は優しかった。


恥ずかしかった。

今だけしか見てない自分。

自分のことしか考えていない自分に。

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