第74話
そこまで話した男に
「それで十分よ。最後に何か言い残すことはあるかしら? 話してくれたあなただけ、聞いてあげるわ」
紅のその言葉は情けではない。これから死にゆく者への敬意だ。
「あれは全能の力。手に入れてしまえば何でも出来る。しかし、我らが使ってよいものではなかったのだろう。少年を守っていた神主が言った通り、我らは邪念に憑りつかれていた。もう、覚悟はできている」
男はそう言って目を閉じた。
「欲を抱き、全能の力を持つ今井さんを利用し、多くの人の命を奪った罪は重い」
紅が左手を向けると、怯えた男たちは、一人を除いて身動ぎ、命乞いをした。
「やめてくれ! もう、反省した!」
「殺さないでくれ!」
あとは聞き取れないくらいの叫びが飛び交った。
「赦しはしない。紅蓮の炎に舞い散れ」
紅はそう言って、左手を振ると、その手から炎が噴き出し、長老たちは焼き尽くされた。
「火の能力が戻ったな」
王鬼はそれを見て、口元に笑みを浮かべて呟いた。
その頃、動く死体と戦っていた者たちも、静かに紅たちを見ていた。長老たちが捕まると同時に、死体も動かなくなったのだ。『白き神』は本当にただの傀儡として、彼らに利用されていただけのようだ。
「ふんっ。なんて浅ましい者たちよ! もっと苦しめてやりたかったわ」
紅は怒りに燃えていた。
「師匠、終わりましたね」
紅の隣に来た山本が言った。
「そうね。さあ、みんな、帰りましょう」
激しい戦いのあとに残されたものは、何とも恐ろしい光景。辺り一面、血の海と化し、肉塊が転がり、首を切り落とされたその顔は、苦しみ悶えたままの表情で固まっている。そんな中を、涼しい顔で、颯爽と歩く紅。そのあとを追いかけて、山本が並ぶと、
「この殺戮現場、後片付けはどうするんです?」
と、彼もまた、何事もなかったかのように平然と聞く。
「縛る者に片付けてもらうわ」
紅はそう言うと、スマホを取り出し、歩きながら電話をかけた。
「もしもし? パパ? 終わったわ。あたしたちは別荘へ戻るから、後片付けをよろしくね。今日は疲れたから、みんな別荘に泊まって、明日帰るわ」
と言って、電話を切った。細かい説明などせず、淡々と業務連絡のみ伝えた。なんともドライな親子だと山本は思ったが、それが紅だと知っていた。
「お帰りなさいませ」
別荘へ戻ると、松野がみんなを出迎えた。そして、誰も欠けていないことに、彼女は安堵した。
「今井さんはどこかしら?」
戻ってからの紅の第一声はこれだった。
「二階の寝室です」
松野が言って、部屋まで案内した。
「ありがとう」
紅が礼を言うと、松野は下がっていった。扉をノックして、
「今井さん、入るわよ」
と紅が言うと、
「ニャー(待っていた)」
と佐久間が答えた。紅が部屋へ入ると、今井はベッドに横になり、サイドテーブルの上に佐久間がいた。
「ニャー(終わったんだな)」
紅の後ろにひっそりと立つ幼い少年を見て、佐久間が言った。
「いいえ、まだよ。組織は壊滅した。けれど、今井さんの事は、まだ終わっていないわ。これから今井さんはどうなるの? この子はどうすればいいの?」
いつになく、不安な想いを素直に口にする紅。それだけ、彼への想いが強いのだろうと佐久間は思った。だが、その答えを知らない。
「ニャー(俺にも分からない)」
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