第54話

 くれないは四之宮とお茶を楽しみながら、初めての学校生活の話しを聞いていた。

「そうなのね」

 四之宮の可愛い制服姿に癒されながら、紅は終始、にやけ顔だ。


「紅、何だか楽しそうだね。僕もお茶を頂こうかな?」

 急に高一郎が現れた。風使いは神出鬼没だ。

「あら、お兄ちゃん、いらっしゃい」

 紅は全く動じなかったが、四之宮は敵の襲撃かと身構えた。

「りっちゃん、大丈夫よ。、手出しさせないわ」

 紅は四之宮に笑顔を向けて言ったが、高一郎の目は獲物をロックオンしている。やはりこの男は自分の敵だと強く認識した四之宮だった。


 その後三人で、ゆったりと時を過ごし、つまらないと言って、高一郎は帰っていった。

「何しに来たのかしらね?」

 紅が呆れて言った。高一郎が帰って、四之宮はほっとしていた。あの薄笑いの目の奥から殺気を向けられ、気が抜けないのだ。



「紅様!」

 突然、さかきの声が響いた。

「何事?」

 榊と如月きさらぎが応接間に運び込んだのは、ボロボロに傷ついた今井だった。みのるが抱えている黒猫の佐久間は腹が裂けて死んでいるようだ。

「何があったの!」

 これには紅も動揺を隠せなかった。今井をソファーに寝かせ、紅は右手を翳した。

「今井さん、あなたは生きたい?」

 意識のない今井は、精神の声で答えた。

『生きたい』

「ならば生きよ」

 紅の翳した右手から光が迸り、今井の身体を包み込んだ。紅はこの能力を自分でも理解できていない。彼をどこまで救えるのかも分からない。それでも持てる力のすべてを彼に注ぎ込むつもりで尽くした。最後はハラハラと力なく光の粒が出尽くし、紅は意識を失った。


 黒猫の身体は、保冷剤を入れた発泡スチロールの箱に保管されていた。

「紅様、お加減はいかがですか?」

 ベッドで目を覚ました紅の傍らには、榊と如月がいた。

「ええ、良好とまではいかないけれど、大丈夫よ。それより、今井さんは?」

「傷の治療は出来ませんでしたが、生きております。今は病院の集中治療室で安静にしています」

「黒猫ちゃんは?」

「保冷状態で保管しております」

「そう。今井さんなら治せるのかしらね?」

 それは誰にも分からなかった。

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