第40話

 食事を終えた四之宮に、

「四之宮様、本日の日程ですが、午前は来週より四之宮様がご通学される学校へ、編入手続きに参ります。保護者代理として、わたくしがご同行いたします。四之宮様の保護者はくれない様の父、藤堂様でございます。すべては紅様のお計らいです。四之宮様のご意見をお聞きせず、紅様の独断ですが、どうか、ご容赦願います」

 と榊が告げた。それを聞いた四之宮は少し驚いたが、紅らしいと思った。

「それでいいです。私は学校に通えるんですね?」

「はい。もちろんでございます。四之宮様の事は調べさせていただきました。ご両親のご不幸のあと、行方不明者となっておりましたが、諸々の手続きは済みましたので、ご安心ください」

 諸々とは何だろう? 行方不明者になった自分の身分証明など、どうなるのだろう? 榊が安心していいというのなら、心配は要らないのだろう。四之宮は色々思うところはあったが、彼らの善意に甘えておくことにした。


 四之宮の通う学校は、偏差値の高くない私立の中学校。四之宮の事情を考慮し、編入を受け入れてくれたというのは表向きで、在学中は藤堂からの寄付を約束していた。

「当学園へ、ようこそ。四之宮しのみやりつさん」

 学園長の女性は、笑顔で四之宮を迎えた。立派な革張りのソファー、重厚感のあるローテーブルといった、良くありがちな応接室に、四之宮と榊は通されていた。

「もう、必要なものは揃えていらっしゃるとお聞きしておりますが、来週からの登校で大丈夫でしょうか?」

 学園長の質問に、榊が答える。

「はい。すべて揃っております。あとは、四之宮様のお気持ち次第でございます。何分なにぶん、これまでの経緯がありまして……」

 榊はわざと、言葉を濁し、四之宮に視線を向けた。榊は、その先を話すかは四之宮本人に委ねた。


 四之宮は、その意を汲んで語った。


 学園長はそれを黙って聞いていたが、途中から鼻をすすり、ハンカチで眼元を押えていた。

「もう、十分です。これ以上は聞くに堪えません。四之宮さん、当学園にはカウンセラーが常駐しております。不安なことがあれば、いつでも対応いたしますから、安心してください」

 学園長は、小さくて儚く、可憐な四之宮を抱きしめたい衝動を抑えながら、そのか細い両肩に触れた。

「ありがとうございます」

 四之宮はコクリと頭を下げた。今まで自由はなく、外の世界から隔離された生活を送っていた四之宮には、この学園での学校生活に、少々の不安があった。


 屋敷へ戻ると、榊は二人分の昼食を準備した。

「今日は、りっちゃんも一緒」

 紅はうれしそうにそう言った。食事を済ませると、紅は一件の仕事をこなし、四之宮の部屋を訪れた。

「さあ、りっちゃん。お出かけよ」

 唐突ではあるが、紅は先日、如月きさらぎと三人で四之宮の服を買いに行くことを、勝手に約束していた。

「えっと? どこへ行くんですか?」

 当然ながら、四之宮には約束した覚えなどなかった。

「決まっているじゃない。りっちゃんの服を買いに行くのよ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る