第26話

 くれないはそれも無視して、

「さあ、君はもう帰りなさい。一人で帰れる? あたしはまだ、あれの始末が終わっていないから、送ってあげられないのよ」

 山本に普通に言葉をかけている。

「俺を無視しやがって!」

 怒り心頭に発したいにしえの者は、水の攻撃で紅を背後から襲ったが、強い炎で水は全て蒸気となり、視界は真っ白、霧の中のような状態となった。

「さっきから、うるさいわね。あたしは助手君と話しをしているのよ。邪魔しないでくれるかしら?」

 紅は視界ゼロの中、風を起こし、古の者の位置を把握すると、炎の連続攻撃を与えた。敵がそれを水で何とかしのいでいるところへ、土ドリルで攻撃した。しかし、手ごたえはなく、それが水分身であることを知った。同時に、背後に現れた古の者。

「同じ手は効かないわよ」

 紅は土の能力で、敵を覆い閉じ込めようとしたが、敵は風となってすり抜けた。

「その手は食わないぜ」

 そう言って、敵は山本の背後に移動した。それに今井が気付き、即座に山本を突き飛ばした。そのため、今井が敵に囚われた。

「刑事さん!」

「僕の事は気にするな。それより少年、怪我はないかね?」

 今井は囚われながらも、山本の事を気にかけた。

おのれ! 卑怯な!」

 紅は怒りの感情のため、全身に激しい炎をまといながら、古の者に対峙した。今井は水で身体を締め付けられて、苦悶の表情で呻き声を上げた。黒猫の佐久間ときたら、それをただ見ているだけだった。佐久間は手が出せないと言う事なのだろうか?


「その者を放せ。我の怒りに触れた。遊戯の時間は終わりだ」

 紅の声がいつになく低く、ビリビリと空気が震えた。今井は顔まで水に覆われ、肺の中の空気を吐き出してしまった。このままでは窒息してしまう。そう思ったとき、今井の身体から閃光がほとばしり、彼を覆っていた水もはじけ飛んだ。

「刑事さん!」

 山本が叫んだ。佐久間以外は、今井に何が起こったのか理解できなかった。

「ニャー」

 佐久間は静かにうなずいた。今井の身体はオーラのような柔らかな光で包まれていた。

「すみません、驚かせてしまって。どうやら、僕も覚醒してしまったようです。少し前から佐久間さんには言われていたんですよ。僕が少し特殊で、他の古の者とは違う属性なのだと。とてもレアな、光の能力なのだと」


「あら、あなた。ただ者じゃなかったのね。よかったわ。これで、心置きなく始末に集中できる」

 紅は鋭い眼光を敵に向けた。その視線だけで敵は震えあがった。力の差が歴然だと直感したのだ。今までの紅は、そばに今井がいて、彼を気に掛けていたから、戦いから意識が削がれていた。

「ねえ、今井さん。助手君を守れるかしら?」

「僕には自信がありませんが、佐久間さんがいるので大丈夫です」

「分かったわ」

 そう言うと、紅は炎を大きく燃え上がらせて、敵へとゆっくりと近付いて行った。

「くっ……、来るな!」

 敵は怯えながら、後退あとすざりするが、その背中は土壁に当たった。

「お前の様な卑怯者は、このあたしが赦さない。紅蓮の炎に舞い散れ」

 紅が左手を振ると、敵は炎に包まれ、紅く燃え上がった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る