第24話

「さすがあかき悪魔。見事でしたね」

 くれないたちは屋敷へ戻っていた。

「当然よ」

 今井に褒められて、紅は得意げな顔でふんぞり返っていた。時刻は午前三時だった。

「あなたたち、何でここにいるのよ。さっさと帰りなさいよ」

「そんな冷たい事を言わないで下さいよ。僕らが初めていにしえの者を始末したんですから。一緒に喜びを分かち合いたいじゃないですか」

「僕らが? 喜び? 言っておきますけど、あなたは何もしていないし、始末したことは喜びでも何でもないわ」

「ニャー!」

 佐久間も何か言っているようだ。

「何? 黒猫ちゃん。なんて言ったの?」

「叱られちゃいました。喜ぶな! 悪魔の宿命は生易なまやさしいものじゃない。と言っています」

「そうね。あたしも始末したところで虚無感しかないわ。それでも、これは抗う事の出来ない、あたしの宿命。って、分かっていながら、その宿命を負わせたのは、黒猫ちゃんじゃない!」

 紅は感慨深げに言ったあと、佐久間にその宿命を押し付けられたことを思い出し、黒猫の佐久間を捕まえようとした。

「ほらほら。八つ当たりしないで下さい。あなたを止めるために、佐久間さんは命を懸けたんですよ。それで、今はこんな姿に」

 今井は、黒猫になった佐久間を労わるように抱き上げて頭をなでている。

「ニャ~」

 黒猫は気持ちよさそうに目を細めた。

「まったく、黒き悪魔め」

 紅もそう言いながら、黒猫に癒され微笑んでいた。


 翌日の夕方、山本少年が紅の屋敷を訪れた。

「こんにちは」

 榊が出迎えて、奥へ通した。

「あら、いらっしゃい。宿題はやってきたかしら?」

「はい。これがレッスンスケジュールです」

 山本はそう言って、紅に紙を渡した。

「火曜と木曜の午後四時から二時間ね。分かったわ。それで、今日は火曜日だけれど、今から特訓でいいかしら?」

「はい。お願いします」

 ということで、紅による特訓が始まった。場所は屋敷の敷地内。まずは、炎の能力の使い方を、基本から指導する。

「いい? 炎はとても危険だから、意識を集中して、なるべく小さな炎を出すように心がけて。人差し指を立てて、その先に小さな炎を灯してみて。こうやって」

 山本は紅の指示通りにやってみると、難なくできた。

「あら、簡単すぎたわね。それじゃ、あの低木を燃やしてみて」

 紅は一つだけ離れたところに植えられた低木を指差した。

「いいんですか? 燃やして」

「構わないわ。木は他にもあるもの。あれを狙って燃やせるかしら?」

 山本はこれも難なくやってのけた。火は紅が水の能力で消した。

「あなた、意外と優秀ね。それじゃ、次は炎を操るから見ていて」

 紅は手のひらに出した炎を伸ばして、鞭のように操った。

「すごいですね! そんなことが出来るんですね」

 山本に褒められた紅は、嬉しくて調子に乗り、大道芸のような離れわざを見せた。

「すごい! まるでサーカスみたいです」

 と山本が言うと、さすがに調子に乗りすぎた事に気付いた。

「サーカスって、これは見世物じゃないわ。でも、ちょっと遊びが過ぎたわ。炎を自由に操ることが出来るかしら?」

「やってみます」

 山本は自分の手のひらに炎の珠を作り出した。それは激しく回転して球状を保っているようだった。それを三つ作り、ジャグリングをして見せた。相当、集中力が必要なはずだが、彼は笑顔を見せながら楽し気にしている。

「あら、やるじゃない」

 紅は腕組みをしながら言った。もうすでに、炎を自由に操ることが出来ている彼に、それを教えてやる必要はなかった。

「今日は、これくらいで終わりにしましょう。お子様はもう帰る時間だわ」

「ありがとうございました。師匠」

「師匠? 呼び名は自由でいいと言ったけれど……。まあ、あなたがそう呼びたいなら、それでいいわよ。それじゃ、さようなら」


 山本が帰った後、紅はこっそり、彼がやっていた炎の珠のジャグリングを練習したのだった。

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