第22話

「分かったわ。それじゃ、助手君、君の都合に合わせた日程を立ててきてちょうだい。言っておきますが、あたしだって仕事があるのよ。応じられない時もある事は覚えておいて」

「分かりました。『レッドデビル』さん。次回、お会いするまでに、スケジュールを立てておきます」

「その呼び方! それに、日程とあたしが日本語で言ったのに、わざと英語に言い直したわね。まったく中学生ったら生意気なんだから」

 紅は腕組みをして、頬を膨らませて山本を睨んだ。

「まあまあ、紅。中学生に腹を立てないで。それに、『誰がどう呼ぼうと、勝手にしたらいい』と言ったのは、紅だよ」

 藤堂が言うとおり、紅が今しがた言ったばかりだった。自分の言葉に責任を持つ事を重視している紅は、山本が何と呼ぼうと、それを咎めることは出来なかった。

「いいわよ。好きに呼びなさいよ。日程は宿題よ。しっかりやってきなさい」

 紅が言うと、

「はい!」

 山本が笑顔で返事をした。やっと、少しの感情が彼から見えてきた。今まで緊張していたのだろう。



 その夜、再び今井がやって来た。

「あら、こんな夜更けに乙女に会いに来るなんて、どんな御用かしら?」

「要件は言わなくても分かっているでしょう。仕事ですよ」

「分かっているわよ。それなら、前もって連絡してきてよ。見ての通り、あたしは寝ていたのよ」

 紅は可愛らしい寝間着に、ガウンを羽織って玄関口に出ていた。

「それは申し訳ない。今すぐ着替えてきてください」

 紅は腕組みをして、頬を膨らませプイッっと怒ったように顔をそむけたが、内心、ウキウキしながら着替えに行った。


「おまたせ!」

 いつもの赤い着物に着替えてきた紅は、

「さあ、行きましょう」

 と張り切っている。

「あら、黒猫ちゃん、いたのね。夜の暗闇で見えなかったわ」

 紅は佐久間の存在に気付いていたが、わざとそう言って揶揄からかった。

「ニャーッ」

「調子に乗るな! と言っています」

 今井が佐久間の言葉を通訳した。

 紅は佐久間の反応を面白がって笑った。

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