第21話

「ただいま」

くれない様、お帰りなさいませ」

 さかき如月きさらぎが出迎えた。もう夜中の零時を過ぎた頃だった。

「シャワーを浴びて寝るわ」



 翌日、藤堂と昨夜の少年が紅の屋敷を訪れた。

「あら、今日は何の御用かしら?」

「紅、パパにそんな冷たい事を言わないでよ」

「誰がパパよ!」

 夕べは紅がパパと呼んでくれたことを喜んでいた藤堂だったが、冷たくあしらわれて淋しそうな顔をした。


「旦那様、お帰りなさいませ」

 榊が出迎えて、部屋へ通した。

「紅、彼の事を覚えているかね?」

「ええ、もちろんよ。夕べ、あたしたちが追っていたいにしえの者よ」

「そうじゃない。いや、そうだけれど、その前にも、彼に会っていることを覚えているかな?」

「知らないわ」

「彼の名は、山本やまもと貴典たかのり君。十三歳で中学生だ。半年前、河原で、すでに亡くなっていた彼を、紅が蘇らせた。それを覚えているだろう。その彼が、炎の能力を得た。この意味と、紅の責任は理解できるかな?」

 その言葉に紅は驚いた表情をした。彼が古の者となったのが、自分の責任であることを知ったのだ。

「あたしが……。あんな風に死んでしまうなんて理不尽だと思ったの。だから……。彼も生きたいと言った。だから……」

 藤堂はそれが紅の優しさだと知っていた。

「分かっている。それを責めているのではないよ。彼だって生きたいという気持ちがあった。そして、紅に蘇らせてもらった事に感謝しているのだよ。けれど、急な変化に戸惑っているのだ。怖かったのだよ」

「分かったわ。あたしの責任だもの。君の支援はあたしに任せて。それで、あたしは何をすればいいの?」

「山本君の力は縛りによって、ある程度の制御がある。しかし、力を失ったわけではない。紅が力の使い方を教えて、始末屋の助手とするといい」

「はぁー? 助手って? それより、あたしのこと始末屋って? 悪魔と呼ばれるのもなんだけど、始末屋も恰好良くはないわね。他に何かいいネーミングはないかしら?」

 紅は顎に手を当てて、上を見ながら考えた。


「『レッドデビル』と言うのはどうでしょうか? 紅き悪魔=レッドデビル……。やっぱり嫌ですかね?」

 山本が初めて口を開いた。

「嫌よ。何でも英語に言い換えれば恰好良く聞こえると思うのは、日本人の悪い癖だわ。呼び名を自分で決める事が、むしろ恰好悪いわね。誰がどう呼ぼうと、勝手にしたらいいわ。それより、助手君。今日から、みっちり特訓よ」

 紅は、自分に助手が付いたことを、ことのほか喜んでいる様子だった。

「紅、それなんだが、山本君はまだ中学生だからね。学校に通ったり、宿題やテスト勉強があるから、彼の時間に合わせてやってほしいのだよ」

「何よそれ! あたしが助手の時間に合わせないといけないの?」

「まあ、それも紅の責務ということだ」

 藤堂にそう言われると、紅も渋々了承した。山本を古の者にしたのは紅で、その責任を取らなければならない事を痛感していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る