第二章

第18話

 煌びやかな夜の街には悪魔が潜む。


 あの連続焼死事件は未解決のままだが、世間からはすでに、過去の事として忘れ去られていた。


 中臣なかとみくれないの殺戮も、縛りによって出来なくなり、平和な日常が繰り返されていた。

「あ~、つまらないわ。ねぇ、榊、何か面白い事をしてあたしを楽しませてよ」

 紅は無茶なことを言った。真面目が取り柄の老執事に面白いことなど出来るはずもなかった。が、しかし、主人の命令には忠実に従うのが執事の務めである。いかなる要望にも応えるべく、榊はあらゆる事に精通していた。

「では、僭越ながら、魔術を披露いたします」

 マジックと言わず、魔術と表現したところが榊らしかった。胸ポケットから白いチーフを取り出した瞬間、白い鳩になった。榊は鳩を肩に乗せて、何もない空間から物を取り出すかのような仕草をすると、その手には赤いバラが一輪。よく見る手品だが、急に言われて出来るところはさすがである。しかし、これで紅が喜ぶはずもなかった。

「それは見飽きたわ」

「失礼しました」

 榊はそう言って、小道具を片付けた。


 そこへ、ある男がやって来た。

「中臣紅、あなたに任務遂行を命ずる。新たないにしえの者が現れた!」

 屋敷の玄関を開けて、第一声を発したのは、連続焼死事件で佐久間とバディを組んでいた今井刑事だった。

「あら、刑事さんじゃない。お久しぶりね。でも、こんな登場の仕方があるかしら? 何よ急にそんなこと」

 紅はそう言いながらも、嬉しそうにしている。

「あなたは佐久間さんの宿命を受け継いだのですから、秩序を乱す古の者の始末はあなたの役目です」

 今井が言うと、足元にいる黒猫が長い立派な尻尾を立てて、

「ニャーッ」

 と一言言った。

「あら、も一緒なのね。可愛い黒猫ちゃん」

 紅は黒猫の前にしゃがんで、顎の下をこちょこちょと撫でると、喜んでいるようでゴロゴロと喉を鳴らした。

「やめてくださいよ、佐久間さんにこちょこちょするのは。失礼でしょ。佐久間さんも喜ばないで下さいよ。威厳が損なわれます」

「それで、その始末っていうの、退屈しのぎになるのかしら?」

「退屈しのぎってなんですか! これはあなたの宿命ですよ」


 今井は、新たな古の者が連続放火事件を起こしていることを紅たちに伝えた。

「あら、大したことじゃないじゃない。人も殺してないなんて、始末するに値しないわ」

「このまま放っておけば、きっと人を殺めてしまうかもしれない。それを阻止してほしい」

「分かったわ。ちょうど退屈していたところだったのよ。今日はもう仕事も終わったし、行きましょうか」

 紅はウキウキしながら、今すぐにでも出かけようとした。

「今からじゃないですよ。今夜またお迎えに来ますから、そのつもりでいてください」

 今井はそう言って、帰っていった。

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